LinuxWorld Expo/Tokyo 2004、2日目のセッションでは、ミラクル・リナックス代表取締役社長の佐藤 武氏が登場し、日中韓の枠組みで開発される「Asianux」をコアとし、今月末から出荷開始される「MIRACLE LINUX V3.0 Asianux Inside」についての説明を行った。
6月2日より東京ビッグサイトで行われている「LinuxWorld Expo/Tokyo 2004」。2日目となる6月3日のセッションでは、ミラクル・リナックス代表取締役社長の佐藤 武氏が登場し、日中韓の枠組みで開発される「Asianux」をコアとし、今月末から出荷開始される「MIRACLE LINUX V3.0 Asianux Inside」についての説明を行った。
同氏はまず、現在のLinuxディストリビューターの動きを説明する。現在商用Linuxディストリビューターは、それぞれ地政学的な支持基盤を持ち、互いにしのぎを削っている。欧米でのRed Hat、欧州でのSUSEといった具合だ。ノベルがSUSEを買収したことで、今後、Red Hatとの激しいシェア争いが予想されるが、「アジアは真空地帯」と佐藤氏は話す。
経済的な側面に目を向けると、米国とEUという2大市場が見えてくる。米国、EUともにGDPで見ると10兆4000億ドルを優に超える経済圏となっている。
アジア圏、ここでは日中韓の3国で考えると、アジア市場の成長の鍵は中国が握っている。人口で13億人にも上る人口を抱える中国では、2003年に1人あたりのGDPが1000ドルを超えた。結果、GDPが1兆4000億ドルを超え(日本は約4兆5000億ドル、韓国は5207億ドル)、またその成長率も8%を超えている。中国政府は2004年も7%の成長率を維持することを目標に掲げている。
「数年後に、米国、EUと並んで3大巨頭になるだろう」と佐藤氏が話すとおり、近い将来、アジア経済圏は大きなマーケットとなることが予想される。
Linux市場を見ると、これまで主にUNIXのシェアを侵食しながら普及してきたLinuxは、アジア全体で2008年までにCAGRで34.4%の成長が見込まれているという。
「これまでSME(Small and Medium-sized Enterprise:中小企業)マーケットにLinuxが入っていくのは難しい部分もあったが、さまざまな要因がこうした市場にLinux導入の機運をもたらしている。日本でもCAGRで19.9%の成長が見込まれている」(佐藤氏)
また、組み込み分野などでのLinuxの採用も著しいという。
「国内に1000万台はあるといわれるPBXが、IP化されたとき、そのプラットフォームにLinuxが使われる可能性が高い。こうした非常に大きなポテンシャルを組み込み系は秘めている」(佐藤氏)
このアジア市場において、セキュリティの観点、またROIの観点など、さまざまな理由で注目されているLinuxをアジア共通の基盤の上で開発することで、先のRed HatやSUSEのように地政学的な支持基盤を得ることが、「Asianux」の狙いとなる。
同氏はミラクル・リナックスの事業戦略を大きく3つに分ける。「顧客満足度の向上」「アジア標準のプラットフォーム」「セキュアなIT基盤の構築」である。
「これまでは米国主導のグローバルスタンダードに従っており、かつ製品志向の社風だった。また、オラクルの子会社ということもあり、業務アプリケーションのシステムに強い会社と市場からは思われていた」と話す。
そうした状況から今後は、アジアンスタンダードに従い、サービス志向へとその舵を切ろうとしている。また、その範囲も、業務システムから組み込みの分野まで広げ、アジアに根ざしたLinuxディストリビューションの開発に注力していくと話す。
ミラクル・リナックスでは、RedFlag Softwareと戦略提携を結ぶことで、「アジア市場に最適化した信頼性の高い共通のエンタープライズLinuxプラットフォーム」の開発を行っていく。共同で開発することで、開発スピードも高まることが予想される。
RedFlag Softwareは、ミラクル・リナックスと同じく2000年6月に設立された。中国科学院軟件研究所が出資し、人材も派遣している。主な顧客には、国家郵政総局、国家経済貿易委員会など政府関係の顧客が多い。
両社の開発チームが北京にあるLinux Joint Development Centerで共同開発を行った成果物として現在、「Asianux 1.0」が存在する。この部分をコアとし、両国市場において、それぞれのブランド名「Red Flag DC 4.1」「MIRACLE LINUX V3.0」として発売することになる。出荷時期については、Red Flag DC 4.1が6月中旬から、MIRACLE LINUX V3.0が6月30日からとなっている。
「コアの部分は全く同じもの。異なる点としてはそれぞれの言語で書かれたマニュアルと、コンパニオンCDなど。MIRACLE LINUX V3.0にはOracle 10gの評価版が付属する」(佐藤氏)
Linux Joint Development Centerでは共同開発のほか、製品検証、共同サポート(2次サポート)が行われる。1次サポートおよび製品の販売に関しては、両社が自国の市場で担当していくことになる。
また、「Red Flag DC 4.1」「MIRACLE LINUX V3.0」ともにエンタープライズ用途での位置づけとなるが、デスクトップLinux市場への参入も「極めて近々」に予定しているという。
ここで、日中韓という割に、韓国が出てこないことに気がつくかもしれない。佐藤氏によると、この1カ月以内に韓国の開発チームもAsianuxの開発チームにようやく合流する予定であるという。実際に韓国市場でどのベンダーが販売やサポートを手がけるかについては明らかにされなかった。また、インドの参加も匂わせるプレゼンテーションとなっていたことを付け加えておく。
「Asianuxをクローズドライセンスのようにして、ロイヤリティを徴収しようとは思わない。アジア圏のほかの国にも参加してもらいたい」(佐藤氏)
Asianux 1.0はLinuxカーネル2.4系を採用しているが、2.6系カーネルから機能の一部をバックポートし、障害解析の機能強化やファイルシステムとしてXFSをサポートしている。サポートするCPUは32CPU、メモリは64Gバイトとなる。
セキュリティ強化についても余念がない。一例を挙げると、次のようなものがある。
セキュリティ上の問題 | それらを解決する機能 |
---|---|
内部情報漏洩 | ACL機能 |
不正中継 | SMTP Authentication |
スパムメール | SPAM Assassin |
セキュリティホール | 安全な初期設定 |
このほか、Shift JISや外字のサポート、Samba 3.0国際化版の搭載など、UNIXやWindowsからの移行を可能にするために必要な部分も実装されている。
また、そのサポート力にも自信を見せる。「Oracle Real Application Clusters(RAC)の導入で採用されるものの半分がMIRACLE LINUX」と、クラスタリングシステムのように負荷の高いシステムへの対応についても実績を強調するほか、障害発生時の体制にも強みがあるという。
「ほかのLinuxディストリビューターでは、システムの障害が発生した際に、Linuxに関する部分のみの問い合わせが可能で、かつそうした問い合わせは本国へと投げられることもある。しかし、ミラクルではその障害がLinuxなのかDBなのかといった部分を切り分け、必要であればカーネルパッチも提供していく。これは国内に開発チームを持つ強みだ」(佐藤氏)
こうした国内のサポート体制に加え、2次サポートとしてLinux Joint Development Centerが控えていることで、密度の濃いサポートが可能になるというわけだ。
佐藤氏は「新しいアジア標準を目指すことで、米国主導のITテクノロジーとマーケットに対抗していく」と述べ、講演を終えた。
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