予見力のトレーニングにもなる 〜 『目に見えない資本主義』マネジャーに贈るこの一冊(1/2 ページ)

すべてを数値化することに綻びが生じ、大きな力が小さな力をコントロールすることに疑問を感じるようになった現在(いま)、『目に見えない資本主義』を題材に、組織のマネジメントが抱える問題について考えてみよう。

» 2010年01月31日 10時00分 公開
[堀内浩二,ITmedia]

持続できない未来――資本主義はどうなっていくのか

 サステナビリティ(持続可能性)という言葉が使われるようになってきたのは、いつからでしょうか。調べてみると、1980年代からのようです。これは言うまでもなく、このままでは環境・社会・経済が持続できないという危機感の裏返しです。

目に見えない資本主義 『目に見えない資本主義』東洋経済新報社

 この危機をわれわれが克服できるとすると、社会はどんな姿になっていくのか。いま、各個人がそれぞれの立場から、予見しようとしています。その心強いヒントになるのが、今回取り上げる『目に見えない資本主義』(東洋経済新報社)。著者は、幅広い提言活動を続ける田坂広志氏です。

 本書の構成を大まかに紹介しておきましょう。まず、田坂氏が未来を予見する方法論として用いている弁証法的な発想が紹介されます。ここは氏の著作『使える弁証法』のおさらい編。続いて、その方法論を用いて予見され得る「五つのパラダイム転換」が述べられています。締めくくりとして氏は、そのような転換を果たすうえでの日本人の役割について言及します。日本人が培ってきた価値観や文化こそが世界に貢献できる財産であることを、訴えています。

 本書の核となる「資本主義の『経済原理』に起こる五つのパラダイム転換」を目次から引用します。

「操作主義経済」から「複雑系経済」へ

「知識経済」から「共感経済」へ

「貨幣経済」から「自発経済」へ

「享受型経済」から「参加型経済」へ

「無限成長経済」から「地球環境経済」へ


 これだけの内容が、200ページ強に収められています。従って、経済システムのあり方についての具体的な提案があるわけではありません。

 しかし、自分のフィールドの将来を考えたいマネジャーにとっては、このくらいのコンパクトさがありがたいのではないでしょうか。なぜなら将来の「イメージ」と、そのイメージを導いた「考え方」が分かりやすく語られているので、自分の組織の将来、あるいは顧客企業を含めた業界の将来を考える作業に入りやすいからです。(本書と似た問題意識を持つ本には、例えば『ゼロから考える経済学――未来のために考えておきたいこと』があります。これも大変な力作で、考える材料をくれるという点で良書には違いありません。ただ、いかんせん厚い。著者のメッセージを理解するだけでも相応のエネルギーが必要です)

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