ふつうの人々の並外れた選択〜『持続可能な未来へ』マネジャーに贈るこの一冊(1/2 ページ)

地球環境を未来へつなげる試みは、ビジネスで報われるのか。マネジャーは世界に対して何ができるのか。センゲの著書を通じて、世界と企業の「持続可能性」を考える

» 2010年06月26日 10時00分 公開
[堀内浩二,ITmedia]

探究を続けるピーター・センゲからのメッセージ

 持続可能性への配慮は、ペイする(投資が報われる)のか。

持続可能性

人類が地球環境の容量の中で、いのち、自然、くらし、文化を次の世代に受け渡し、地域間や世代間をまたがる最大多数の最大幸福を希求すること。


持続可能な未来へ 『持続可能な未来へ』日本経済新聞出版社

 “持続可能性”“サステナビリティ”といった言葉を聞いて、事業に責任を持つマネジャーの皆さんが真っ先に頭に思い浮かべるのは、この問いではないでしょうか。「いわゆる環境に優しい取り組みは結構だが、取り組んだ結果体力が落ち、環境に優しくない競合企業に負けるかもしれないとしたら?」「その責任は誰が取るのか?」こういったことを考え出すと「いつかは考慮が必要だが、一介のマネジャーたる自分がいま“持続可能性”などと言い出すべきではない」と思えてしまいます。

 今回紹介する『持続可能な未来へ』(日本経済新聞出版社、著:ピーター・センゲ、 ブライアン・スミス、ニーナ・クラシュウィッツ、ジョー・ロー、サラ・シュリー、翻訳:有賀 裕子)は、まさにそういった方々、問題意識を感じつつもどこから手を付けたらいいのか分からない、組織の中の個人を対象に書かれています。まずは、第1章最後の著者の熱い呼び掛けを読んでください。

 今日わたしたちが直面する課題はあまりに大きいため、読者の皆さんは、どうそれに立ち向かえばいいか分からず途方に暮れているかもしれない。しかし、(略)身近な問題については理解しているだろう。広い意味での調和の乱れに目をとめ、大掛かりな変革が欠かせないと気づいているのだ。幾つもの問題が全体としてどう絡み合っているのか、(略)測りかねているかもしれない。だが、それらの問題を自分にとって重要なものとして受け止め、解決に一役買いたいと心から願っているはずだ。ならば、ぜひ本書を読み進めていただきたい。

 「自然環境までは手が回らないが、うちの会社を、せめてうちの部を、なんとかしたい」と考えているマネジャーも少なくないと思います。この本はそういった方々のための読本にもなりえます。

 著者はベストセラー『最強組織の法則』で知られるピーター・センゲ。知人にこの本を読んでいると話したら、「センゲって『学習する組織』の人でしょ。いつのまに持続可能性のヒトになったの?」と言われました。確かにそうですが、その一方で、センゲ氏は事象の因果関係を俯瞰する“システム思考”を世に広めた人物でもあります。その著者の探究が、人間がかかわる最大のシステムである“世界”に行き着くのは、必然のようにも思えます。

 本書の出版は2008年ですが、2004年の『出現する未来』において、世界の持続可能性に関する懸念を著者はすでに表明しています(出版年はいずれも原著のもの)。帯にも書かれている「未来に向けて持続可能性を高めるために重要な3つのこと」を見れば、2番目の項目に『最強組織の法則』の著者ならではの視点を感じます。

  1. 前進に向けて現実的な道筋を描くには、これからの世代のニーズを考慮することが欠かせない。
  2. 組織の重要性を忘れてはいけない。
  3. 真の変革は、新しい発想や気づきからしか生まれない。

 冒頭の問いに戻ります。著者は、短期的にペイするかどうかという視点だけで考えていると全滅の恐れがあることを指摘した上で、持続可能性への配慮は報われると指摘しています。著者が引用している「持続可能性への対応の5段階」によれば、法令に受動的に従うのではなく積極的に持続可能性を追求していくことで、既存事業の効率が高まり、新しい事業機会が見いだせるとしています。

第1段階「法令に未対応」 違法でないかぎり対応しない

第2段階「法令を順守」 規制による要請や強制、社会からの圧力によって受動的に対応している

第3段階「法令を先取り」 初期投資を上回る節減効果や利益が得られ、変革に弾みがつく

第4段階「戦略への反映」 持続可能性が企業戦略の策定・実行に当たっての中心テーマとなる

第5段階「目的や使命」 持続可能性そのものが企業の目的や使命の一部である

 個人的には、この辺りの論証がもう少し欲しかったと感じますが、参考文献も豊富に載せられているので、そちらで勉強することにしましょう。

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