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» 2010年08月23日 08時00分 UPDATE

賢者の意志決定:クラウドはどのように進化していくのか?(前編) (1/2)

クラウドという流行のテクノロジーの議論に終始していては、クラウドの本質をつかむことはできない。本稿では、日立ソフトが提供する「セキュアオンライン」の事業責任者であり主席アーキテクトである中村輝雄氏が、クラウドのこれまでとこれからを事例を交えながら語り尽くす。

[中村輝雄,ITmedia]

1.どうしてクラウドなのか?

 どうしてクラウドなのか――なぜ、いまさらこういう質問から始めるのか、戸惑う読者もいるかもしれない。しかし、これから述べるポイントを理解していないと、結局、クラウドという流行のテクノロジーの議論で落ち着いてしまう。クラウドがインターネットが登場して以来のIT革命であることをまず理解してもらう必要があるだろう。

 企業にとってITは便利なツールである。ビジネスを遂行する上で、あるいは業績を伸ばす上で、ITなくして企業経営は成り立たないということに異論がある方は少ないだろう。では、企業がITを導入する時のリスクは何か。意外なことに、このテーマが語られることは少ない。しかし、このテーマこそ、クラウドが注目されるポイントである。

 企業は、ITこそがコスト削減の切り札であり、新規ビジネスの創生の要だと信じて疑わない。それに関しては、筆者もまったく異論はない。しかし、そのために、企業はどれだけのリスクを背負うことになるのかを冷静に見極める必要がある。

 例えば、インターネットが登場した時だ。どの企業も、インターネットに参加して、自社のWebサイトを立ち上げさえすれば、世界に向けてビジネスチャンスが広がると考えた。たった1台のPCサーバにWebサイトを構築すれば、それは世界のどこからでもアクセスでき、それ故、世界中が自分たちのマーケットになると信じた。しかし、実態はどうだっただろうか。インターネットに莫大な投資をした一握りの企業だけがその恩恵を享受し、大多数の企業は、その成功した企業の軒下を借り、自社のオンラインショップを立ち上げたにすぎない。

 これは何を物語っているのだろうか。どうして大多数の企業は、現在成功しているインターネット企業になれなかったのだろうか。その違いは、決断のスピード、その瞬間の投資額であった。

 インターネットの成功体験は、先行者しか利益を享受できない。嗅覚の利く経営者が一番乗りで成功し、それ以外の者はすべて二番せんじに甘んじて、美味しい利益を享受できないという事実があるのだ。

 では、皆さんはその度量がなかったのか。ここに、1つの示唆がある。それは、「IT投資にはリスクがあり、そのリスクを犯してまで成功するか失敗するか分からないビジネスにIT投資をしたかどうか」である。

 インターネットが登場して以来、ITはまさにスピードの勝負になった。1年、いや半年でも3カ月でも、インターネットの世界では長い。これは誇張でも何でもなく、3カ月前に投資したIT設備が、次の瞬間、経営の足かせになることも珍しくない。インターネットで成功した経営者は、このことをよく理解している。そうした経営者は、つい最近導入したIT設備を捨てるという勇気を持って、さらに新しい投資をしたからこそ勝ち残れたのだ。その一方で、大多数の平凡な経営者は、このゲームで勝ち残ることができなかった。一度投資したIT設備に固執するあまり次の投資をためらい、大きなビジネスチャンスを逃してしまったのだ。

 しかし、時代は変わった。クラウドが登場したのだ。クラウドでは、経営者はIT設備に初期投資をする必要はない。ビジネスを立ち上げる時に必要なだけのIT設備を借りて、新しいビジネスをスモールスタートさせればいい。ビジネスが拡大してきたら、その規模に合わせて、さらにクラウドからIT設備を借りて増やせばいい。また、ビジネスが縮小してきたと思うのなら、借りているIT設備を少しずつ返して、身の丈に合ったビジネスをすればいい。次の瞬間、また新しいビジネスにチャレンジすることだってできるのだ。

 クラウドでは、経営者にIT設備を「所有」から「利用」に変えるという選択肢を与える。そのため、経営者はIT設備を持つというリスクを大幅に軽減できる。このことは、かつて大胆な挑戦ができなかった経営者にとって、クラウドを利用して、また新しいビジネスに参入できることを意味する。いわば、インターネットビジネスで大きな成功を勝ち得なかった経営者が、クラウドというまったく新しいIT設備を活用して、再び世界規模のビジネスに挑戦できる環境が整ったのだ。だからこそ、経営者は今、クラウドに注目しているのである。

2.企業にとって、クラウドに求めるものは何か?

 企業にとって、IT設備を所有するというのはリスクだと述べた。だからこそ、企業は、必要なときに必要なだけクラウドからIT設備を借りてリスクを低減したいのだ。そうした企業がクラウドに期待することは、次の3点に集約できる(図1)。

tnfig1.jpg 図1 クラウドから借りるIT設備に期待するもの

(1)IT設備は、ビジネスの規模に応じて負担したい

 IT設備を所有する一番のリスクは、ビジネスが成功するかどうか分からない時に、そのビジネスが成功したと仮定して、そのピークに合わせてIT設備を購入することである。サーバではCPUのコア数やメモリ容量、ストレージの容量とI/O性能、さらにネットワーク回線の帯域をあらかじめ決めて購入する必要がある。もちろん、ビジネスがもくろみどおり行けばよいが、失敗した時は購入したIT設備は遊休資産となる。ほかに転用できる設備があるかもしれないが、捨てることになるIT設備も少なからず発生してしまう。

 一方、クラウドでは、その時々のビジネスの規模に必要なIT設備だけを借りればよい。そして、その売り上げ範囲から、その時に借りている分だけのIT設備の使用料を払えばいい。IT設備を購入して、その減価償却を考える必要もなく、クラウドの使用料は経費として処理できるのもありがたい。

(2)IT設備は、ビジネスの変化に応じて迅速に増減させたい

 ビジネスがどれだけ成功するかを事前に予想するのはとても難しい。ということは、それに応じたIT設備を最適にサイジングするのはまず無理だと考えた方がよい。このため、大多数のSEは、安全率を何回もかけて、必要以上にIT設備を購入しているのが実態だ。そうしておかなければ、ビジネスが思わぬ成功となった時に、IT設備の増設に2〜3カ月は掛かってしまうからだ。それが、クラウドになると、数日、早ければ即日にIT設備が増強できることになる。もちろん、簡単に増強できるように、システムをスケールアウトできるように構築しておく必要はあるが。

 一方、ビジネスでは、売上拡大がある時点を転機に、売上減少に反転することがある。この場合、IT設備を所有していたのでは大変だ。売り上げが減少しても、一度購入したIT設備の保守・運用費の負担はしばらく減らないからだ。それに対して、クラウドでは、借りていたIT設備をすぐに返せばよい。必要がなくなったその瞬間から、売り上げが減少した分に見合ったIT設備に縮小すればよいのだ。

(3)IT設備は、高信頼で高性能な一流の設備を利用したい

 IT部門の方ならよくご存じだろうが、IT設備はぴんからきりまである。しかし、会社幹部にその違いを納得してもらうのはかなり困難を伴う。CPUが何コア必要だとか、メモリが何Gバイト、ストレージ容量が何Tバイトというのは比較的説得しやすい。それは、定量的であるためだ。

 しかし、信頼性や拡張性となると、筆者の経験では理解してもらうのは非常に大変だ。そこには、定量的な指標がなく、ならばこちらの安いPCサーバでいいじゃないかという幹部の素朴な疑問になかなか答えられない。得てして、ビジネスが拡大してきた時に、あの時もっと強引に導入しておけばよかったという結末になったりする。これは、大企業でもそうだが、資金力のない中小企業ではもっと深刻な問題だ。

 クラウドのいいところは、これまで中小企業がなかなか導入できなかった高信頼で高性能なIT設備を利用できることだ。つまり、大企業と同じIT設備を利用できるということになる。サーバ、ストレージ、ネットワーク、さらに電源に至るまで、クラウドではすべて二重化されているのが当たり前だ。そうしたIT設備を使うのに、利用期間をコミットする必要もなく、使いたい時だけ使えるというのだから、中小企業にとってクラウドは非常に魅力的なものとなる。

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