加熱するクラウド市場と冷静なユーザーマインドアナリストの視点(1/2 ページ)

クラウドコンピューティングをキーワードにしたITベンダーのマーケティング活動が活発だ。だがITベンダーとサービスを活用する企業の間には温度差がある。企業はクラウドという発言の内容を冷静に判断しようとしているのだ。クラウドという言葉を活用するITベンダーは、改めて「顧客視点」を見直すべきである。

» 2010年09月02日 08時00分 公開
[雪嶋貴大(クロス・マーケティング/イーシー リサーチ),ITmedia]

アナリストの視点」では、アナリストの分析を基に、IT市場の動向やトレンドを数字で読み解きます。


 今日の国内IT市場では、クラウドコンピューティングをキーワードにしたマーケティングが加熱の一途をたどっている。IT系の専門情報ポータルにアクセスすれば専用のページ枠があり、専門雑誌を開けば「クラウド」の文字が躍る見開きいっぱいの広告が目に飛び込んでくる。

 世の中のITを一変させるかのような存在感を見せつつあるクラウドコンピューティングだが、ITを利用する側の企業はこれをどう認識しているのだろうか。本稿では、クロス・マーケティングが7月に実施した自主調査の結果から、クラウドコンピューティングの現状と企業ユーザーの意識の実態を考察する。

クラウドコンピューティングへの関心度

 クラウドコンピューティングについて、企業の関心度はどのくらいあるのか。IT機器・サービスの購入に関与する企業ユーザーを対象にした同調査では、回答者677人のうち47.1%がクラウドコンピューティングに何らかの興味を示していることが明らかになった(図1)。このうち「かなり関心がある」という回答は15.2%だった。

図1:主要ITトレンドへの関心 主要ITトレンドへの関心(出典:クロス・マーケティング『10年7月クラウド・コンピューティングに関する企業の意識調査』)

 企業規模別の内訳でみると、以下のような結果が得られた。

  • 従業員数別および年間売上高別で見ると、規模が大きい企業ほどクラウドコンピューティングに関心を持つ割合が大きくなる傾向が見られた。特に年間売上高が「5000億円」を超える企業では、「とても関心がある」という回答が30.1%と抜きんでて大きい。
  • 最小規模の企業(従業員数別で「100人未満」および年間売上高別で「10億円未満」)を除くと、いずれの企業規模でも、クラウドコンピューティングに何らかの関心を持つという回答が5割強を超えた。

 なお、クラウドコンピューティングの前身(ないしは一部)は、ホスティングサービスやASP、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)といったソフトウェア/アプリケーション機能のサービスである。調査時点では、クラウドコンピューティングに関心を寄せているのは、これらのサービスの主な受益者層である中小規模の企業という見方もあった。だが、今回の調査結果からは、クラウドコンピューティングに関心を持つ主な層は、規模の大きい企業であることが分かった。

 規模の大きい企業層で、クラウドコンピューティングに対する関心度が高い背景としては、以下の2点が考えられる。

IT業務における情報収集力、企画力

 一般的に、企業規模が大きいほど、IT関連の企画や管理業務により多くのリソースを投じることが可能である。リソースには組織体制も含まれており、専任組織があればITに関する情報収集能力も総じて高くなる。

 一方、IT企画や管理関連の専門スタッフの確保が難しい中小規模の企業では、担当者が普段の業務と兼任でITを管理している場合が多い。こうした状況では、技術関連の理解度やIT動向の情報収集力を向上させるのが難しい。このため、規模の小さい企業層には、新しい用語やそれがもたらす概念、構成技術などが浸透しにくいことが考えられる。

アプリケーションからインフラ領域に拡大するサービス範囲

 サーバやストレージなどを提供している大手ITベンダー企業は、クラウドコンピューティングを用いたマーケティング活動や事業戦略を推進している。こうした企業は、自社でクラウドコンピューティング環境を構築し、サービス提供の基盤を保有する「プライベートクラウド」と呼ぶ形態のビジネスに積極的だ。グループ会社など複数の事業体にまたがるシステム基盤を持つ大企業層は、中小企業に比べて、プライベートクラウドのアプローチに高い関心を持つことが想定される。

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