NECの展示会で見つけた世界に通用しそうなクラウドサービスWeekly Memo

NECが先週開催したプライベートイベントで、遠藤信博社長の講演とともに、興味深いクラウドサービスの展示があったので紹介しておきたい。

» 2010年11月15日 08時15分 公開
[松岡功,ITmedia]

NECが新基幹システムを立ち上げた理由

 NECが11月11日と12日の2日間、東京国際フォーラムで「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2010」を開催した。11日には遠藤信博社長が、C&Cクラウドによる顧客への貢献について講演を行った。まずはその中から興味深かった話を紹介しておこう。

「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2010」で講演を行うNECの遠藤信博社長 「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2010」で講演を行うNECの遠藤信博社長

 遠藤社長は、いま企業が直面している経営課題として、「将来の成長に向けた新サービスや新事業の創出」「グローバル化の推進」「事業効率性を追求した経営改革・業務プロセス改革」「環境対策などの社会的責任」の4つを挙げ、C&Cクラウドがこれらの課題解決に貢献していくと力を込めた。

 中でも事業効率性の追求については、「NECはこれまで、幅広い業種にわたる15万社の顧客に対して数多くのソリューションを提供してきた。その中で培ってきた多様な業種ノウハウや信頼性の高いITネットワークソリューションを基に、今後も顧客の経営改革および業務プロセス改革を強力に支援していきたい」と強調した。

 また、経営改革および業務プロセス改革に向けた課題として、「事業部門や関係会社ごとに業務プロセスやITシステムを構築してきたため、重複や無駄がある」「経営情報の可視化ができない」「国際標準や規制対応へのコストがかさむ」「グローバルレベルでのITガバナンスに苦慮している」といった声が顧客から寄せられているという。

 こうした悩みはNECグループも同じという遠藤社長は、「NECがクラウド型基幹システムを立ち上げたのは、これらの課題解消に向けた取り組みを自ら実践するためだった」と説明した。

 同社は2008年7月からSAP ERPを用いた自社基幹システムの全面刷新に取り組み、2010年4月に先行稼働していた経理システムに続いて、同10月には販売、購買のシステムを含め、新基幹システムが全領域での本稼働を開始したという。

 遠藤社長はその効果について、「各領域とも業務プロセスをシンプル化できるようになってきた。例えば、販売領域ではこれまで100以上あった業務プロセスを20程度まで削減することができた。これによって、システムのトータル運用コストも従来に比べて2割ほど削減できる見通しだ。経営情報の可視化による意思決定のスピードアップも手応えを感じている」と胸を張った。

 同社ではこうしたクラウド型基幹システムを、自らの構築ノウハウを生かして積極的に外販していく構えだ。遠藤社長によると、すでに大手自動車部品メーカーから受注し、現在およそ50社と商談中だという。

クラウドとSAP ERPを連携するサービスに注目

 同イベントの展示会をのぞいてみると、遠藤社長のクラウド型基幹システムの話に関連した興味深いクラウドサービスの展示があったので紹介しておきたい。

 それは、さまざまなクラウドサービスとオンプレミス(自社運用)の基幹システムとの連携を実現する「Enterprise Gateway」と呼ばれるサービスである。

 具体的には、Force.comやWindows AzureなどのPaaS上で開発されたアプリケーション、およびSalesforce CRMなどのSaaSアプリケーションと、オンプレミスで動くSAP ERPをAPI連携させるものだ。基幹業務をクラウドサービスへオンデマンドで拡張できることから、クラウドベースのマッシュアップ基盤ととらえることもできる。

 これにより、基幹システムのデータを各種クラウドアプリケーションでリアルタイムに活用できるようになったり、基幹システムとクラウドアプリケーションの間で、1つの完結した業務プロセスを実現できるようになるという。

 展示の説明担当者によると、Enterprise Gatewayの特長は、これ自体がクラウドサービスなので短期間かつ低コストで導入でき、しかもSAP ERPに精通した技術者がいなくても手軽に利用できることにあるという。

 手軽に利用できるのは、クラウドサービス側の画面からSAP ERPのAPIであるBAPI((Business Application Programming Interface)などの基幹業務の機能を選択するだけで、クラウドサービス上のオブジェクトとユーザーインタフェースが自動生成され、入力や参照作業をすぐに行えるようになるからだ。クラウドサービス側から基幹業務の機能を呼び出すことができるので、SAP ERPに精通した技術者がいなくても事足りるというわけである。

 このEnterprise Gatewayのサービスが商品化されたのは2009年半ばだが、ここにきてNEC自身がSAP ERPを用いた基幹システムを稼働させ、関連事業に本腰を入れ始めたことで、今後注目を集めるサービスになりそうだ。期待が膨らむのは、グローバルに通用する可能性が高いことである。

 遠藤社長は講演で、「今後、NECのクラウド指向センター(CODC)を世界の5極で順次立ち上げ、それらを結んでグローバルで一貫したサービスを提供する体制を構築していく。これによって、NEC自身が構築したクラウド型基幹システムを積極的に横展開していきたい」と語った。Enterprise Gatewayはこの事業展開において重要な役目を担うかもしれない。

 クラウド関連の主要な技術は、ほとんど米国ベンダーが牛耳っているのが現状だ。日本のベンダーにも、ぜひ世界に通用する技術をどんどん発信してほしい。その点、Enterprise Gatewayのような技術は、ユーザーの利便性を追求する日本のお家芸ではないか。説明を聞きながら、そんな思いを強くした。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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