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» 2010年12月13日 11時13分 UPDATE

Weekly Memo:インメモリコンピューティングを推進するSAPの野望

SAPジャパンが先週、インメモリ技術をベースとした新製品を発表した。インメモリコンピューティングを推進するSAPの狙いは何か。そこには大いなる野望があるようだ。

[松岡功,ITmedia]

アプリケーション主導のコンピューティングに

 「本日発表する新製品は、ビジネスアプリケーションの世界に大きな革新をもたらすものと確信している」

 SAPジャパンのギャレット・イルグ社長は12月7日、同社が開いた発表会見でこう強調した。新製品はインメモリ技術をベースとしたリアルタイム分析ソフトウェア「SAP High-Performance Analytic Appliance」(以下、SAP HANA)。パートナー各社の最適化されたハードウェアに同ソフトを搭載したアプライアンス製品として提供される。

 会見に臨むSAPジャパンのギャレット・イルグ社長 会見に臨むSAPジャパンのギャレット・イルグ社長

 SAP HANAは、新世代のビジネスアプリケーションの実現に向けて、独SAPが今年5月に発表したインメモリコンピューティングへの取り組みにおける第1弾製品である。

 同製品は、強力な演算エンジンとデータベースをメインメモリ上に統合し、データモデリングツールと組み合わせて提供される。これにより、従来のIT環境を大幅に簡素化しながらビジネス情報の取得スピードを飛躍的に高めるとともに、これまで実現できなかったリアルタイムなアプリケーション利用が可能になるという。

 また、主要な技術としてSAPのインメモリとともに、買収で得たSybaseのリアルタイム同期やBusinessObjectsのリアルタイム検索などを組み合わせているのも注目される点だ。

 動作環境としてはインテルとの共同エンジニアリングを通じて、インテルのCPU「Xeonプロセッサ7500番台」向けに最適化されている。両社の緊密な協業によって、インテリジェントパフォーマンス、自動化されたエネルギー効率化、そして高度な信頼性を提供するソリューションを実現したとしている。

 SAP HANAの機能や特徴については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここでは同製品およびインメモリコンピューティングへの取り組みにおけるSAPの狙いに焦点を当ててみたい。

 SAPジャパンの福田譲バイスプレジデント ビジネスユーザー&プラットフォーム事業本部長兼プロセス・製造産業営業本部長は会見で、SAPが推進するインメモリコンピューティングについてこう語った。

 「リアルタイムコンピューティングを実現するためには、プラットフォームおよびアプリケーションとも進化させる必要があるが、これまではどちらかというとプラットフォームの進化が先行してきた。だが、ここにきてそうしたプラットフォームの進化を取り込んだインメモリコンピューティングによって、アプリケーションも飛躍的に進化させることができるようになった。従って、SAPはインメモリコンピューティングを積極的に推進することにより、リアルタイムなアプリケーション利用の実現を目指したい」

 このコメントには、SAPの大いなる野望が見て取れる。それは、インメモリによってこれからのコンピューティングをアプリケーション主導で進めていこうという思惑だ。

データベース不要でOracle外しへ

 さらに福田氏は、インメモリコンピューティングが情報系アーキテクチャにもたらすパラダイムの変化についてこう説明した。

 「従来の情報系アーキテクチャは、ディスクに格納したデータを限られた容量のキャッシュメモリに展開することで高速化を図ってきた。しかし、これでは高速化の対象が一部のデータだけだったり、ディスクから持ってくるデータを絞り込むための手立てが必要となる」

 「これに対し、SAPが推進するインメモリコンピューティングは、そもそもディスクの考え方を排除し、最初から全データをメモリ上に格納して処理する仕組みだ。メモリの価格がここ数年で大幅に低下した一方、CPU能力の向上、インメモリや超並列処理などの技術革新によって、そうした仕組みが実現できるようになった」

 こうした考え方に基づいて、会見ではSAP HANAのロードマップも明らかにされた。同日出荷されたバージョン1.0は、SAPのデータウェアハウス(DWH)構築ソフトで管理するデータを中心に移行できる形となる。来年出荷予定のバージョン1.5では、他社のDWH構築ソフトも対象とし、この段階で企業内のすべてのDWHがインメモリ環境で利用できるようになるという。

 そして、その後のバージョン2.0では、企業内の更新系と情報系の両データベースをインメモリ化し、「データベースなしでOLTP(オンライントランザクション処理)とOLAP(オンライン分析処理)が統合された環境を実現する」(福田氏)としている。

 こうしたSAPのインメモリコンピューティング戦略を最も注視しているのは、データベース最大手のOracleだろう。とりわけSAP HANAは、Oracleがハードウェアとソフトウェアを一体化してデータベースの高速処理を図った「Oracle Exadata」に対抗するものとなる。さらにSAPの同戦略は、最終的に「Oracle外し」を狙っているものとも受け取れる。

 こうした状況にOracleとSAPをよく知る業界関係者は、「SAPが打ち出したインメモリコンピューティングは、これからのIT市場のトレンドの1つだ。Oracleもインメモリ化は手掛けているが、SAPのようにディスクを排除するのは既存事業との兼ね合いで難しいだろう。ただ、一足飛びでインメモリコンピューティングの世界になるわけではないだろうから、その間にOracleがどう手を打ってくるかが注目される」と見る。

 SAPジャパンは、国内でSAP HANAを共同で販売展開するパートナーとして、日本アイ・ビー・エムと日本ヒューレット・パッカードを挙げた。IBMおよびHPとのグローバルなパートナーシップに基づくものだろうが、これも「Oracle包囲網」と見て取れる。

 リアルタイムコンピューティングの実現を目指すSAPの新たな戦略には、アプリケーション主導とOracle外しという意図が込められているのは明らかだ。さてOracleがどのように反撃するか。さらにはSAPの思惑通り、アプリケーション主導のコンピューティング時代が来るのか、注目したい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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