オラクルとSAPがパートナー展開で見せたつばぜり合いWeekly Memo

ERPなど企業向けソフトウェアで競合するオラクルとSAPが先週、相次いで日本の有力パートナー企業との連携強化を打ち出した。そこから見えてきたものは――。

» 2010年11月08日 09時00分 公開
[松岡功ITmedia]

オラクルがパートナー新認定制度を本格導入

 日本オラクルが11月4日、今年2月に刷新したオラクルのパートナープログラム「Oracle PartnerNetwork Specialized」の中核となる新認定制度「Specialization」を同日より本格導入したことを発表した。

 Specializationは、オラクルが全世界共通で導入するパートナー企業向けの認定制度で、オラクル製品におけるパートナー企業の専門性を同社が公式に認定し、公開するものだ。

 同制度では、オラクルの主力製品や業務特化型ソリューションを中心に約30種類の専門領域カテゴリを設け、カテゴリ別の認定基準を定めている。認定基準は、顧客事例などのビジネス面や、オラクル製品およびソリューションのスペシャリストとしてのコンピテンシー面からなる。

 パートナー企業はSpecializationの認定取得により、特定領域における自社の専門性を訴求し、グローバルも見据えた市場での認知向上を図ることができる。一方、オラクルにとっては、同社製品を積極的に活用して事業に取り組むパートナー企業への支援に注力できる。そして、ユーザー企業にとっては、課題解決に最適なパートナー企業とオラクルソリューションを選定しやすくなる。まさに三者ともにメリットがあるというのが、同制度におけるオラクルの主張だ。

 日本オラクル 副社長執行役員 アライアンス営業統括本部長の志賀徹也氏は、オラクルのパートナープログラム刷新および新認定制度の導入についてこう語った。

 「パートナープログラムを刷新したのは、従来データベース製品の支援が中心だった内容から、買収による製品ポートフォリオの拡充にも柔軟に対応するようにしたため。そうした製品ポートフォリオをカバーし、すでにビジネスプロモーションや各種トレーニングなどを行っているが、さらにパートナー企業がオラクルと共通の顧客に向けてより高い付加価値を提供できるように考えたのが、今回の新認定制度だ」

 会見では、新認定制度の本格導入に先立って、すでに国内8社のパートナー企業がSpecializationを取得したことも発表され、その中から富士通、NEC、日立製作所の幹部が壇上に並び、それぞれに新認定制度への取り組みや期待を語った。オラクルにとっては、国産ITメーカー“御三家”といわれる3社が新認定制度に名を連ねたことで、あらためてオラクルブランドの存在感を示した格好となった。

日本オラクルのパートナー新認定制度の会見。左から日本オラクル 副社長執行役員 アライアンス営業統括本部長の志賀徹也氏、NEC ITソフトウェア事業本部 事業本部長の池田治巳氏、日立製作所 情報・通信システム社 産業・流通システム事業部 エンタープライズパッケージソリューション本部 担当本部長の木村正二郎氏、富士通 執行役員 インフラサービス事業本部 本部長の飯田春幸氏 日本オラクルのパートナー新認定制度の会見。左から日本オラクル 副社長執行役員 アライアンス営業統括本部長の志賀徹也氏、NEC ITソフトウェア事業本部 事業本部長の池田治巳氏、日立製作所 情報・通信システム社 産業・流通システム事業部 エンタープライズパッケージソリューション本部 担当本部長の木村正二郎氏、富士通 執行役員 インフラサービス事業本部 本部長の飯田春幸氏

NECとSAPがクラウドサービス事業で協業

 日本オラクルがこうした会見を行った同じ日、オラクルにとっても気になったであろう発表が日本とドイツで同時に行われた。それは、NECと独SAPがクラウドサービス事業で協業するというものだ。具体的には、SAPのERPパッケージソフト「SAP ERP」の機能を、NECのデータセンターを通じて月額課金のSaaS形式で提供する。

 NECはこの協業によってSAPのクラウドサービスにおける最初のパートナーになると同時に、SAPアプリケーションのサービス拠点となるデータセンターをSAPが認定する「SAP Cloud Services-Certified」を日本のベンダーとして初めて取得した。

 協業の第1弾として、日系企業の各拠点に対し、SAPの認定を受けた「クラウド指向データセンター(CODC)」からSAP ERPの機能をグローバルにサービス化して提供する。さらに今後は、世界の他地域の企業に対する事業展開も検討を進めているという。また、対象業務は経理領域から始め、販売、購買などの領域にも順次拡大していく計画だ。

 この協業のバックボーンになっているのが、SAP ERPによるNECの基幹システムの全面刷新だ。2010年4月以降、経理・販売・購買の全領域でシステムを稼働し、国内外のグループ会社でクラウドサービスとしての利用を始めた。この実績をもとに自社システムで開発した周辺機能も加えて外販を開始。自社の業務プロセス改革とITシステム改革で得た成果をベースにコンサルティングサービスも提供していく構えだ。

 今回の協業を契機に、今後NECはSAP ERPを基幹システムのクラウドサービスの中核メニューに位置付けるとしている。

 さらに先週は、SAPとのパートナーシップに関連する発表がもう1つあった。富士通がSAPビジネスを強化するため、11月1日付けでグループのSE会社である富士通システムソリューションズ(Fsol)に、SAPビジネスにかかわるSEを集約したのだ。

 これにより、富士通とFsolはSAP ERPのシステムにおける企画・設計、導入、構築機能とノウハウをFsolに一元化するとともに、Fsol内の各業種専門のSE(約1400人)と、SAPビジネス関連SE(約140人)を密接に連携させることで、顧客ニーズに迅速に対応していく構えだ。

 このように先週行われた発表だけを見ても、日本の有力パートナー企業との連携強化に向けたオラクルとSAPの激しいつばぜり合いがうかがえた。

 一方、パートナー企業の立場から言えば、オラクル製品もSAP製品も「顧客ニーズに応えるため」に、両社とのパートナーシップを重視している。日本オラクルの会見で、垂直統合ビジネスを推進するオラクルの製品をすべて扱っていくのかと問われた国産ITメーカー3社の幹部が異口同音に、「顧客の要望次第」と答えていたのは当然のことだろう。それはSAPに対しても同じだ。

 ただ、クラウド時代を迎え、企業向けソフトウェア市場が今後ますます激戦区になるのは間違いない。パートナー企業との連携強化で日本市場でのビジネスを一層拡大したいオラクルとSAP、両社とのパートナーシップを生かしてグローバル市場にも打って出たい国産ITメーカー3社。あらためてそれぞれの思惑が強く感じ取れた先週だった。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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