アジア新興国におけるメディア活用のアプローチ――マスとソーシャルの融合化・一体化ソーシャルマーケティング新時代(1/3 ページ)

これまでアジア新興国でのソーシャルメディアの現状を確認し、ソーシャルメディアの活用が最も進んでいる欧米企業の取り組み事例から、その特性を整理した。今回はここまでの議論を踏まえ、アジア新興国におけるソーシャルメディアの活用アプローチについて考察したい。

» 2011年06月14日 07時45分 公開
[岩渕匡敦, 辻佳子,デロイト トーマツ コンサルティング]

 前回の記事では、欧米企業や日本企業の取り組み事例をもとにマスメディアを用いたマーケティング活動との対比的な観点から、ソーシャルメディアが持つ5つの特性と危険性を整理した。

  1. あらゆる企業活動のリアクションとレスポンス
  2. あらゆる関係者が用いることができる媒体
  3. 管理統制できない自然増殖への対応
  4. 適時・迅速なリアクションとレスポンスの掛け合い
  5. 長期的・継続的な関係構築を目指した活動

 これらのソーシャルメディアの特性と危険性は、マスメディアとの比較や違いから導かれており、われわれのようにマスメディアに慣れ親しんできた者にとっては理解しやすいし、今後のソーシャルメディアの活用方向性を考える上では基礎になり得るだろう。しかし、マスメディア自体も発展段階にあり、その一方でソーシャルメディアが急激に普及・浸透しているアジア新興国においても、同じく、基礎となり得るのだろうか。こうした点を踏まえつつ、アジア新興国におけるソーシャルメディアの活用アプローチを考えていくこととする。

アジア新興国と先進国におけるメディア発展経緯の違い

 アジア新興国におけるソーシャルメディアの活用アプローチを考えるにあたっては、ソーシャルメディアの普及・浸透がマスメディアの発展・成熟の後ではなく、並行的かつ同時的に進んでいる点を見逃してはならない。マスメディアはアジア新興国においても昔から存在していたが、近年の経済成長とともに、重要さを増してきたものであり、それらが発展・成熟するに至る前に、並行的にソーシャルメディアが急速に普及・浸透しているのである。これは、これまでも再三述べてきたことであるが、欧米や日本といった先進国市場と大きく異なる点であり、検討の前提として据えておかなければならない事実である。

 下記のグラフは、ベトナム及びアメリカにおけるテレビ普及率とインターネット普及率の推移を示している。なお、ここで、テレビ普及率はテレビ台数/世帯数、インターネット普及率はインターネット利用者/人口としている。

テレビとインターネットの普及率の推移(デロイト作成、クリックで拡大)

 仮に、マスメディアの浸透度合いをテレビ普及率に置き換え、ソーシャルメディアの浸透度合いがインターネット普及率の一定割合であると仮定して置き換えると、アジア新興国市場と先進国市場との違いとして捉えることができるだろう。推移を示した線の形に注目していただきたい。

 これは極端に見えるが、アメリカでは、マスメディアがかなり前から浸透しているため、80%を越えるレベルで推移しており、ソーシャルメディアが着実にそれに追いついてきていると捉えられる。これに対して、ベトナムでは、マスメディアの浸透度合いが徐々にゆっくりと上昇はしているものの、まだ25%未満に留まっており、マスメディアが発展・成熟したとは言えない段階である。そういう中でソーシャルメディアの浸透度合いが急上昇のカーブを描いており、2008年にはマスメディアを越えるほどの浸透を示していると言えるのではないだろうか。

 これは、これまでも再三述べてきたことであるが、欧米や日本といった先進国市場と大きく異なる点であり、検討の前提として据えておかなければならない事実であろう。

 欧米や日本といった先進国においては、マスメディアが発展・成熟した段階でソーシャルメディアが登場した。前回の記事で紹介した「マスメディア補完型のソーシャルメディア活用」は、そういった背景から成立したアプローチであり、「単独プロモーション型のソーシャルメディア活用」も、発展・成熟したマスメディアとは敢えて切り離して活用を図るといったアプローチであると捉えることができる。今後は、当然のことながら、マスメディアとソーシャルメディアを融合化・一体化していくことが考えられ、その融合化・一体化に向けたプロセスが進められているところである。

 アジア新興国では、こうした融合化・一体化に向けたプロセスを経る必要はない。マスメディアもソーシャルメディアも並行的かつ同時的に発展しつつある中においては、どちらか一方を起点にして段階的に融合化・一体化を図っていく必要はなく、すでに融合化・一体化したマーケティング活動やプロモーション活動をそれぞれのメディアで統合的に実践することが有益であり、必要であろう。つまり、アジア新興国での活用アプローチは、先進国市場で将来実践される統合的な戦略や活動を先取りして進めていく、見方によっては試行や実験として進めていくと考えるのがよい。

インドネシアの喫茶店にて。携帯電話の“2台持ち”をしている
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