アジア新興国におけるメディア活用のアプローチ――マスとソーシャルの融合化・一体化ソーシャルマーケティング新時代(3/3 ページ)

» 2011年06月14日 07時45分 公開
[岩渕匡敦, 辻佳子,デロイト トーマツ コンサルティング]
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消費者参加型による融合化・一体化

 もう1つ、マスメディアとソーシャルメディアを融合化・一体化したマーケティング活動やプロモーション活動をアジア新興国で考える際には、われわれが想像している以上に、ソーシャルメディアが彼らのライフスタイルの中に浸透していることを十分に考慮しておくことが大事だ。ソーシャルメディアが浸透しているがために、アジア新興国では、利用者として消費者としての参加型コミュニティの意識が若年層を中心に育まれている。この点を踏まえて、メディアの融合化・一体化を考えなければならない。

 マスメディアによる広告宣伝は、ともすると評価や価値観を一方的に押し付ける強者の論理に陥りやすい点がある。マスメディアが長年に渡って発展・成熟してきた先進諸国では、それに慣れていたり、あるいはそれを意に介さずに自身の判断で取捨選択したりして、バランスさせてきているが、アジア新興国では注意が必要だろう。ソーシャルメディアの中で情報をやり取りし、自身の意見を交わしながら、判断することに慣れている者たちに向けて、マスメディアを用いた一方的な押し付けをしようものなら、ソーシャルメディアの中で、逆撃を被ることになる。

 そこで、マスメディアの広告宣伝を製作したり、幾つかのCM候補から選択したりする際に、ソーシャルメディアを用いて、参加型にすることなどが考えられる。一般消費者からCMのコンセプトを募集する、CM動画を幾つか示し、人気投票によってTV-CMを決定するなどである。これによって、より消費者の意識に近いマスメディアでの活動が可能となるだけでなく、消費者が企業に抱く距離感を縮めていくことにもつながる。

 このような方策も融合化・一体化したマーケティング活動やプロモーション活動と言えるのではないだろうか。

アジア新興国における、融合化・一体化したマーケティング活動の留意点

 ここで、インドネシアにおけるマーケティング活動事情を紹介しておきたい。インドネシアにおいては、システムのオフショア開発の受託などを通じて育成されたIT人材を多く抱えており、それらの人材が昨今のソーシャルメディアの流行に伴って、ソーシャルメディア上のコンテンツ作成などに流れている。その結果、あたかもシステム開発の請負業務のように、ソーシャルメディア上のマーケティング活動に必要なコンテンツや機能群が分割されて発注されていることが多い。こうした傾向は、インドネシアのみならず、他のアジア新興国においても、少なからず存在する。

 このような受発注の形態は、それぞれのコンテンツや機能群の価格が競争によって抑えられるというメリットがあるものの、発注者側である企業が全体を統合的に推進管理しなければならないことを示している。つまり、マスメディアとソーシャルメディアの融合化・一体化だけでなく、ソーシャルメディア内でのサービスや機能の連携を統合的にプロデュースし、具体的な内容を定めて発注しなければならない。

 日本企業が、アジア新興国において、融合化・一体化したマーケティング活動やプロモーション活動を進めていくためには、こうした推進管理機能を社内外のリソースを使って具備し、それに伴う組織構造を検討する必要があるだろう。もちろん、これは、対アジア新興国に留まらず、先進諸国における今後のメディアミックスアプローチにおいても必要になるだろう。

 本稿では、アジア新興国でのソーシャルメディア活用としては、先進国市場で将来実践される統合的な戦略や活動を先取りして進めていく形で、マスメディアとソーシャルメディアの融合化・一体化した活動を実施することが有効であり、その融合化・一体化の考え方を整理した。次回は、こうした議論を踏まえ、来るソーシャルマーケティング新時代について総括したい。

著者プロフィール

岩渕匡敦(デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネージャー)

ソフトバンクにて買収した企業の日本市場参入に携わり、その後、外資IT企業のマネジメントポジションを経て現職。10年以上にわたり、日系大手の自動車、航空宇宙、ハイテク製造業、通信業界の企業に対し北米、欧州、インド、中国、マレーシア、インドネシアなど多様な文化の中でのグローバルのプロジェクトに携わる。近年はグローバルマーケティング戦略、販売戦略、サプライチェーン戦略、IT戦略での多国籍プロジェクトを多数手掛ける。

辻佳子(デロイト トーマツ コンサルティング コンサルタント)

SEを経験後、官公庁や製造業などの企業統合PMIに伴うBPR、大規模なアウトソーシング化/中国オフショア化のプロジェクトに従事。大連・上海・日本を行き来し、チームの運営・進行管理者としてブリッジ的な役割を担う。その後、ITサービス、オフショア化、中長期戦略策定、事業性評価、マーケティングリサーチなどに従事し、現在は中国+アジア途上国における進出/撤退およびビジネス支援、アジアにおける官公庁案件、IT戦略の分野で活躍。


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