災害対策と開発フレームワークの意外な関係?過去から今より、今から将来を

震災・津波、そして電力需給の逼迫といった状況の変化を背景に、企業のIT構築手法が変わってきているという。ポイントはフレームワークの活用だ。

» 2011年07月25日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 ITのフレームワークといえば、システムを迅速かつ低コストに、そして高品質に構築できる手法として以前から広く使われている構築手法だ。ある程度以上の大手システムインテグレーターなら、自前のフレームワークを持つところも少なくない。それが、震災後に注目を集めているというのは、どのような理由があるのだろうか。フレームワーク活用の専門部隊を社内に擁するインテックを訪れてみた。同社では、ITSS(ITスキル標準)でいう「ITアーキテクト」「ITスペシャリスト」に相当する人材を集めたシステムアーキテクト部を2006年10月に設置、今では総勢約50人のITアーキテクト集団が、独自に開発してきたフレームワーク「iStanceFrame」を活用し、東京をはじめ大阪や名古屋、富山などを拠点に活動しているという。

フレームワークを用いた標準化が災害時の事業継続を有利にする

 「確かに震災後、フレームワークを活用した基盤構築を依頼されるケースは増えていますね」と語るのは、インテック SI事業本部 システムアーキテクト部の末森智也課長。その依頼の背景には、BCP(Business Continuity Plan)があるという。

インテック SI事業本部 システムアーキテクト部 末森智也課長

 「BCPの主題が、システムの延命から予防へと移ってきているように思われます。今回の震災の教訓として、多くの企業には、災害に遭っても事業を継続できるよう、あらかじめ備えておきたい、といった考えがあるようです。やはり、先々のことを考えると、『過去から今』ではなく、『今から将来』に重点を置くべきなのでしょう。今回の震災では、多くの企業や団体が被災し、古いサーバが物理的に破壊されてしまって、復旧に難儀した例が少なくないようです。そうした苦労を、繰り返したくはないものですから」(末森氏)

 アプリケーションの構築や保守を容易にするため、部品の共通化や作業の標準化を進めるのは、フレームワークの基本的な考え方だ。標準化は属人性を排除することにもつながり、IT部門の人材が完全にそろわないことが想定される災害時にも、その保守を確実に行うことができる。また、フレームワークを利用して構築したアプリケーションは、フレームワークより下層のOSやミドルウェア、ハードウェアへの依存度が低くなり、新しい基盤へ移行することも容易に行える。サーバが被災するような事態に陥っても、バックアップしておいたアプリケーションやデータを新たな環境に移行することで、迅速に事業を再開できるといったメリットが考えられる。

 「我々のフレームワークは、OSやミドルウェアの製品ライフサイクルも考慮し、さまざまなベンダーとの情報交換も密に行っています。その上で、例えばCosminexusのバージョンが上がった、などといった場合には、日立の検証センターを活用したり、日立の技術者を巻き込み新しいプラットフォームで綿密な動作検証を行ったりしています。そのため、災害などで古いプラットフォームが失われても、安心して新しい環境に移行して使うことができるのです」と末森氏は言う。

 システムの移行が容易であるということは、震災後の電力供給不安に対する備えにも役立つ。各企業に求められている節電のためにサーバを統合したり、あるいは社内に置いていたサーバをホスティングしたり、クラウド上に移行するといった動きもみられるが、こうした場合にもフレームワークを用いて構築されていれば移行が容易になる。

インテック SI事業本部 システムアーキテクト部 山崎貴弘課長

 「やはり、消費電力を減らすには、自社で持たないのが一番。中でも、IaaS(Infrasturucture as a Service)やPaaS(Platform as a Service)への移行の流れは震災前からありましたが、それが加速してきているように思います。IaaSやPaaSには、すぐにシステムを立ち上げられるというメリットもあり、BCPの観点からも有益ですから」と、インテック SI事業本部 システムアーキテクト部の山崎貴弘課長は言う。

 サーバを外に出すだけでは、地域全体の節電につながらない、と考える向きもあるだろう。しかし、一般企業のサーバ室は、クラウドサービス事業者やホスティング事業者のデータセンターより電力効率が低いのが普通だ。こうした事業者にサーバを集約することで、トータルでみれば節電効果が期待できるということになる。実際、インテックでも社内のサーバ室から他の拠点に移行を進めているとのことだ。

フレームワークを使いこなす上で重要なのが人材

 インテックの独自フレームワーク、iStanceFrameは、Java版と.Net版の2種類。多彩な環境に対応しており、例えばJavaアプリケーションサーバでいえばオープンソース利用のTomcatから、性能や信頼性を重視したCosminexusまで、ユーザーのニーズや使い方に合わせて選定することが可能だ。アプリケーションを他の環境に移行することが容易にできるのも、こうしたフレームワークあってのこと。

 このiStanceFrameを最初に作ったのが末森氏だ。システムアーキテクト部の発足より前、2000年頃、自ら担当したプロジェクト内で活用していたという。

 「フレームワークを使うことで、フルスクラッチで開発する部分を減らせる効果が得られます。その効果を他のプロジェクトでも得られるようにと、横展開することになりました。しかし、フレームワークがあるからといって、それだけを渡しても、ツールが一人歩きしてしまいます。きちんとフレームワークを使える人が各プロジェクトに入って、判断を下しながら使えるようにと、専門部署を設けることになりました。ちょうど同時期にインフラ側でも似たような動きがあり、一緒になってシステムアーキテクト部が発足することになったのです」と末森氏は話す。

 こうして立ち上がったシステムアーキテクト部には、主にアプリケーションを担当するスタッフと、主にインフラを担当するスタッフがいる。末森氏はアプリケーション側、山崎氏はインフラ側の担当だ。彼らの仕事についても聞いてみた。

 「我々システムアーキテクト部は、進行中のプロジェクトで困難に遭遇したときや、他社が手掛けたシステムを引き継いだ際などにもプロジェクトの支援に加わりますが、むしろ主にプロジェクトを立ち上げる際に関わっています。システムの開発に取り掛かる前に、要件に合致する内容かどうか検証するといった作業が多いですね。当社は独立系システムインテグレーターですから、特定ベンダーの製品に縛られることなく最適な内容を提案することができますが、やはりプロジェクトが動き出してから選定を行うのでは時間が掛かってしまいます。そこで、事前に要件とフィットするかどうかを、ITアーキテクトやITスペシャリストの観点からチェックするというわけです」(末森氏)

 そして、実際にiStanceFrameを使って開発を進めた各プロジェクトの現場からフィードバックを得て、あるプロジェクトで必要となって新たに開発したソフトウェア部品をフレームワークに取り入れたり、新たなOSやミドルウェアに対応させるなど、改良を進めている。人が介在して各プロジェクトに横展開されることで、フレームワークが生きたツールとなっているといえるだろう。

 「こうした部品群は、ある意味で当社の資産です。我々システムアーキテクト部には、それを保守する部隊という意味合いもあります。今後、社内での活用を促進するため、現在育成を進めているところです。他の部署から移ってきた社員を、第一線で仕事しているITアーキテクトと組ませ、OJTで育成しているので時間はかかります。ITSSのスキルマップをみても、ITアーキテクトはいきなりなれるものではなく、アプリケーションなどのスペシャリストを経て、経験を積んで成長してもらう以外にないのですね」(末森氏)

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