転換点を迎えるシンクライアント市場、HP幹部に聞く

従来はセキュリティ強化などを目的に導入が進んだシンクライアント。近年はより“軽量”なクライアント環境やモビリティの要求も強まっているという。米HP幹部のグローダン氏に市場動向や同社の展開を聞いた。

» 2011年08月19日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 シンクライアントは、これまで高いセキュリティレベルが要求される業務環境での導入が主体だった。近年はより扱いやすい仕組みや環境を求められているという。米Hewlett Packard(HP) パーソナルシステムズグループ デスクトップソリューションズ部門 マーケティング担当バイスプレジデントのジェフ・グローダン氏に、市場動向や同社の事業展開を聞いた。

ジェフ・グローダン氏

 「一般向けPCは年5%の成長だが、シンクライアントは30%の成長を見込んでいる。これにはクラウドという要素も大きく影響している」と、グローダン氏はシンクライアント市場の拡大を予測する。

 コンピューティングリソースやデータを集約もしくは一元化し、そこに“軽快”なクライアント端末でアクセスして利用するという点でみると、シンクライアントはクラウドに似た仕組みと言えるだろう。ここ数年の間にクラウド環境の導入が進み、シンクライアントをさまざまな環境で利用したいという声が高まりつつあるという。

 同氏によると、近年のシンクライアントに求められるものは、「高いセキュリティレベル」「使いやすさ」「低い消費電力」など。「高いセキュリティレベル」はこれまでと同様だが、スマートフォンやタブレットの普及に代表されるクライアント機器の多様化、また、仮想化技術の進展などを背景にした利用形態の多様化が加わりつつある。

 米国の市場動向は二極化が進んでいるという。1つは従来型システムの利用の大規模化、もう1つは「ゼロクライアント」というシステムの利用だ。前者はリッチなマルチメディアデータやアプリケーションを数万台という規模で利用するもので、PCを高性能のシンクライアントに置き換えようとする動きである。後者はディスプレイやキーボード、マウス、小型ユニットという構成のシステムを小規模のユーザーグループで利用する。

 「例えば、病院では高解像度のCTスキャン画像や電子カルテといったデータの利用が広がっているため、クライアントには一定以上の処理能力が必要になる。前者は医療機関や金融、小売、流通が中心だ。後者はカスタマーセンターや図書館の来館者向け端末といった特定用途での利用が注目されている」(グローダン氏)。

 こうした動向に対して、HPでは管理性やユーザー体験の向上を中心に取り組んでいるという。管理性では、例えば「HP Device Manager」を利用することでイメージの配布やパッチの適用、システム設定の変更といった操作を一元化できる。「複数あるゲートウェイも集中管理できる。端末がオフィスにあろうと社員の自宅にあろうと、効率的な管理が可能だ」(同氏)

 ユーザー体験では、利用状況の変化に左右されることなく、ユーザーが行った操作に対する応答が速いといった快適な利用環境の実現がテーマとなる。この点については、パートナーとの協業を主体に進めている。「例えばCitrix Systemsとは、長年にわたってICAプロトコルを最適化するための開発を進めてきた。同社のHDX(ユーザー体験を向上させる技術の総称)と当社のゼロクライアントの組み合わせでは、機器を接続するだけですぐに最適化されたデスクトップを利用できる」(同氏)

 また、最適なイメージの配信といったネットワーク周辺の技術開発も進めているところだという。こうした取り組みの成果は2011年の後半から展開する製品に盛り込む予定。グローダン氏は、「近い将来、クライアント環境はサービスで利用するようになる。安全に管理されているデータをいかなる場所からでも快適に利用できる仕組みを目指す」としている。

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