現場で効くデータ活用と業務カイゼン

学生の成績管理をDBで自動化 面談でのiPad活用も視野に導入事例

東京、大阪、そして福岡の3拠点で歯科医師国家試験に向けた教育サービスを展開している麻布デンタルアカデミーでは、学生の出席状況や成績トレンドをDBに自動反映し、保護者に通知表として伝えることが競合優位性にもつながっているという。

» 2011年11月02日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

校舎移転をきっかけにFileMakerでの情報一元化に着手

 「以前は、出席や成績、ドクター(講師)に対する学生からのフィードバックといったさまざまな情報の管理は、Excelなどを使って校舎ごとに行っていました」と、東京校に勤める教務課の立山周一郎氏は話す。

 「例えば、出席はタイムカードで把握していましたが、それぞれの校舎で教務課スタッフがデータを入力しなければならず、東京校で全体の出席情報を把握するのは困難な状況でした。この出席データと成績データなどの情報をひとつにまとめることができずにいました。そこで以前から、これらの情報を一元的に管理したい、ひも付けしたいと考えていたのです」(立山氏)

千乃コーポレーション 麻布デンタルアカデミー教務課の立山周一郎氏

 情報の管理がバラバラだったため思ったように活用が進まず、各校舎から情報が届くまでにタイムラグが生じ、タイムカードから手入力する際のミスを防ぐダブルチェックが必要だったというわけだ。こうした課題を解決すべくシステム化に取り組むことになったのは、東京校の移転がきっかけだった。

 「東京校が新たな場所に移転することが決まったとき、新たな校舎にまたタイムカードを持って行くのだろうか、と考えたのです。今のままでは良くない、との個人的な思いから、システム化の相談をしてみました。引っ越しに伴ってネットワークも新たに構築するので、その業者にシステム化も一緒に頼もうとしたのです。ところが、出てきた見積もりは1000万円規模。社内で相談するまでもなく諦めました」(立山氏)

 そこで立山氏が目を付けたのは、以前から社内のちょっとしたデータをまとめるために使われているFileMakerだった。実は以前にも、模擬試験の成績表をFileMakerでシステム化することを検討したが、当時のFileMakerにはグラフ機能がなく、成績管理などの使い勝手が良くないと判断して断念していたという経緯がある。だが、最新のFileMakerではグラフ機能も充実しており、充分に使用に耐えると判断された。

画面を随時見せながら作業を進めスピーディに開発

 そこで立山氏は、FileMakerでのシステム開発をしてくれるパートナーを探した。依頼した相手は、キー・プランニングだ。

 プロジェクトが始まったのは、2010年の夏の終わり頃だったという。新校舎が開校する2011年5月までにはシステムの運用を開始したいとの麻布デンタルアカデミーの要望に対し、キー・プランニングは思い切った提案をした。そのひとつは、ユーザーインタフェース部分の雛形を作って社内のコンセンサスを得るまでを立山氏に行ってもらうことだった。

 立山氏は、社内の調整に手間取りつつも、システム画面のイメージをExcelで作ったという。他方、キー・プランニング側では2カ月かけてじっくりヒアリングや要件定義を行い、データベース設計を進めていった。特に重要な画面とデータベースの両方を最初にきちんと設計しておくことで、後からの修正を減らすのが狙いだ。

 キー・プランニングのシニアエンジニア、清末博史氏は「画面のひな形を用意してもらえたことが、開発期間が短く済んだ要因です。FileMakerの開発そのものは、大きな手間が掛かるものではありませんが、後の修正に手間を要することもありますので、これも先に作っておく必要がありました」と話す。

 そして、開発中のシステムFileMaker Server上で共有し、密に連絡を取り合うことで、さらなる開発期間の短縮が図られた。キー・プランニング側の作業が一区切りするたびに立山氏に連絡し、確認してもらうという進め方だ。

 「場合よっては混乱が生じることもあるため、通常は採らない方法ですが、立山さんは信用できると判断しました。ちょっとした修正なら、画面を見てもらいつつ対応したほうが、後から修正するより早いのです。他校舎の方とのコミュニケーションにはTV会議を利用し、スムースに進められました」(清末氏)

 また、一部の機能はスケジュールをずらして開発されている。教室に通う「本科」コースを対象とした部分は出席の管理が必要となるため作業を優先して4月末に稼働を目指し、DVD教材などで受講する「単科」コースでは出席管理が不要のため6月頃までに稼働することを目標としたからだ。単科でも、受講申込に関する情報は開講に先立って入ってくるため仮のデータベースを作って管理しておき、後に完成したシステムへ移行しているという。

 「スケジュールをはじめとして、いろいろと無理を言ったりもしましたが、おかげで開校に間に合わせることができました。また、システム投資額も他からの見積もりと比べて大幅に安く済んでいます」(立山氏)

事務負担軽減と業務品質向上、そして競争力強化にも

母艦PCが不要のネットワーク対応型カードリーダーを受付に備える

 システムは現在、教務課だけでなく、ドクターの中でも活用されている。

 「今は多くのユーザーがFileMakerにアクセスしない日はない、というほど使っています。教務としては非常に効率良く出席管理できるようになりましたし、講師のドクターからも出席管理が効率化したと評判です。ドクターにとっては、模試後の面談の際に成績などのデータを裏付けとして使えるようになったことも大きいはずです」(立山氏)

 学生の出席管理はタイムカードから非接触ICカードへ切り替えられた。ネットワーク対応型カードリーダー「ピットタッチ・ビズ」が採用されている。単体で動作するためカードリーダー用に別途PCを用意する必要がないのがポイントだ。

 「ネットワーク対応のタイムカードレコーダーもありますが、それより安価にできるので、このカードリーダーを使っています。HTTP/HTTPSで接続するのでFileMakerのサーバに直接アクセスでき、各校舎の出席情報をリアルタイムに集約することが可能になりました」(清末氏)

 学生がカードリーダーにカードをかざせば、人手を介さず自動的にシステムに登録されるため、タイムカードを使っていた頃に比べると大幅な省力化が実現し、データの信頼性も高まった。また、タイムカードでしばしば生じていた押し間違いなどもなくなったという。

実際に配布している月間成績表(クリックで拡大)

 また麻布デンタルアカデミーでは、生徒だけでなく保護者に対しても、各生徒の毎月の出席や成績の情報をまとめた「月間成績表」を提供しており、競合に対するアドバンテージとなっている。今回のシステム化は、この成績表にも使われる情報の品質や即時性を高めることにも役立ったというわけだ。

 立山氏は今後、さらなるシステムの拡充を検討している。より幅広い情報を集約し、活用していこうという考えだ。

 「例えば、模擬試験の受験生の管理には、まだExcelを使っています。約3000人にもなるデータですからさすがに無理があり、これもFileMakerに移そうと検討中です。模試の成績を切り出して各大学の先生方に渡すにもタイムラグができてしまうため、FileMakerの機能を使ってWebで見せられるようにするなどしたら便利で早いのではないかと考えています」(立山氏)

 さらに、全国各地の歯科大学に出張講座などを行う際にも、FileMakerが役立つのではないかと期待している。

 「活動内容や相手先の情報をFileMakerで管理するのはもちろん、模試データを見せつつ説明するにはFileMaker GoをiPadで使うと効果的ではないかとも考えています。この組み合わせはドクターが学生と面談する際にも効果的ではないでしょうか」(立山氏)

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