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» 2011年11月19日 08時00分 UPDATE

萩原栄幸が斬る! IT時事刻々:HDDの最新事情から考えるサイバー捜査への影響とは?

HDD製造国のメッカであるタイの洪水災害は、HDDをはじめとする記録装置の世界に大きな影響を与えそうだ。

[萩原栄幸,ITmedia]

 今回は、筆者が仕事やプライベートで密接に関係しているHDDについて最近の問題を取り上げてみたい。

筆者の書斎で大事件発生!

 10月1日のこと、筆者は深夜に仕事をしていた。PCには、外付けHDDが稼働中のものだけで14台もつながれている。その中で一番新しく構築したばかりの3台のHDD群は、設置してまだ間もないため、コードをきちんと配線していなかった。「来週にでも整理しよう」とそのままにしておいたことが災いのもとになった。なんと大量のデータをバックアップしている最中に、足で引っ掛けてしまったのである。3台のHDDはwrite処理をしているところだった。HDDが宙に舞い、後ろの壁に叩きつけられてしまった……。

 真っ先にPC復旧の会社に連絡してデータの復旧を依頼しようと思った。だが筆者はこうした専門的な会社の顧問もしているので修復費用がどれほどかかるのかを思い出し、すぐに諦めてしまった。バックアップ作業だったので、バックアップデータは破壊されても、幸いにも原本のデータは残っていたからだ。3台のHDDの容量は合計で7テラバイト(2テラバイトが2台と3テラバイトが1台)。

 かつて、クラサバのシステム設計をしていた筆者としては、ちょっとした中堅企業の全サーバの容量にも当たるものを一瞬で破壊し、しかも「しょうがない」と諦めたのである。そんな自分自身に身震いしてしまった。この話を学会の研究会後の飲み会で話をしたら、友人から「ばか!」と言われ、ショックだったのを鮮明に覚えている。

その後、もっと大変な事態に!

 仕事が多忙だったこともあり、USB 3.0対応の3テラバイト容量を持つHDDをアマゾンから1台購入した。価格は1万3800円である。しかし構築の時間がなかなか取れず、しばらくの間、購入したままにしていた。その間に“悪魔”がいることも知らずにである。ちょうどそのころ、タイで洪水が発生した。筆者は「タイもたいへんだな……」程度しか考えていなかった。今となっては専門家としてお恥ずかしい。

 外付けHDDが大量にあることがいけないと考え、ますPC内蔵のHDDの総整理を10月中旬から始めた。最小容量は500Gバイトで、これが2台ある。それと1テラバイトのものが2台。これらを内蔵型HDDで2テラバイト、もしくは3テラバイトにすることで、外付けHDDなら3台減らすことができる。ずっと分かってはいたことだったが、その作業が面倒なゆえに、安易に外付けHDDに頼ってしまっていたのである。「私が悪かった! 反省せねば」と腰を上げて整理に取り掛かることにしたのだが、クライアント企業から急な対応依頼があってできなかったのである。

 ようやく作業ができるようになった11月3日に、秋葉原へルンルンな気分で買い物に出かけたのだ。それまでは仕事が多忙だったので、仕事以外のメールはほとんど目を通していなかった。この中に重要なメッセージがいくつもあったのを知らずにである。そして、いつもは見るニュース番組も仕事のため3台のHDDレコーダーで自動録画しており、それも次の休日にまとめて見る予定だった。このことが後に災いになるとも知らずにである。

秋葉原でビックリ!

 秋葉原ではいつも足を運ぶショップ数店をのぞいて商品を選べば、ネット通販での最安値に近い買い物ができる。筆者にはそんな安心感もあり今回、事前にネットを見ていなかった。

そして、いつものようにショップで商品をのぞいた瞬間、筆者は文字通り立ちすくみ、そして、言葉がなかなか出てこなかった……。

筆者 「○○さん、この価格は何? 嘘でしょう!」

○○さん 「萩原さん、この時期にHDDを購入しようなんて緊急事態ですか?」

筆者 「ごめん! 最近忙しすぎて世間の動向を認識していなかった。普段ならあり得ないのだけど、今回は偶然にそういう要素が重なったんだよ」

○○さん 「タイの洪水の影響で信じられないくらいHDDの値段が急騰しています。××のお店では入荷待ち状態で、価格はなんと「時価」と表記していますよ! こんなの初めてですよ」

 そう、その通りであった。調べてみると、在庫有りのショップでも2テラバイトのHDDの店頭価格が1万5000円だった。ほんの半月ほど前は5000円ほどだったから、なんと3倍近い値上がりだ。これではいくら何でも手が出ない。秋葉原で購入するメリットは品ぞろえ、店員からの最新情報、そして、安さに他ならないからだ。

 HDDの価格が乱れ、商品によっては、2テラバイトより3テラバイトの方が安い。内蔵型よりも外付け型の方が安く、外付け型を購入して分解し、中身のHDDを取り出して使った方がいいと思えてしまうものもあった。あまりにも急激な価格の高騰のため、末端に出てくる表示がおかしくなっていたのである。

 こうして筆者のHDD整理計画は宙に浮いてしまった。この先、年始になれば市況は落ち着くだろうとは思う。今すぐHDDを必要とする理由がない限りは、現時点で購入するのは控えるのが賢明かもしれない。こんな状態が継続したら秋葉原の魅力がなくなり、「萌え」族に支配されかねない(冗談だが)。

フォレンジックにおけるHDD

 さて少しは真面目な話題も取り上げたい。それは、ビジネス用PCにはまだ浸透していないが、秋葉原では主流となっている2テラバイトや3テラバイトのHDDのフォレンジックである。

 フォレンジックとは、簡単に言うと「デジタル鑑識」であり、犯罪者の証拠を固めるための高度なスキルと機器を用いた分析調査だ。今も月に一度、筆者はデジタルフォレンジック研究会でフォレンジックの「要」となる、証拠保全の方法に関するガイドラインの改定版の策定作業をしている。筆者はオブザーバーとして参加しているが、そこでは今の機器が大幅にスピードアップ(進化)しないと、実質的に保全措置ができなくなってしまうだろうとの恐れが浮上している。今の機器で保全措置を行うとすると、3テラバイト級のHDDなら作業は一晩では終わらないのだ。ましてや、PC全体の保全措置として、外付けHDDも含め全部のHDDの内容を保全しようとするなら、気が遠くなるほどの時間がかかる。例えば、筆者のように20テラバイトを超えるような状況なら、1週間かかってもおかしくないのだ。

 これでは仕事にならない。記録装置の1バイト当たりの単価が著しく下がり、個人で100テラバイトを持つ様な状況もあり得る。そして1ペタバイトの容量になるのは、時間の問題だろう。

 11月15日に1テラバイトのプラッタを3枚使用した3テラバイトのSeagate製のHDDが秋葉原で発売された。読者の中にはご存知の方もいるだろうが、3テラバイトのHDDを起動ドライブとして使うには、Windows 7の64ビット版でマザーボードがUEFI対応していないと利用できない。(ただ、ツールを利用することによりその制限を回避できる場合もある。この場ではあくまで原則を記載している)。だが、そのうちに3テラバイト以上のHDDでもOSを搭載できるのが一般的になり、データディスクとしてなら、10テラバイトくらいに増大するようになる状況がすぐ目の前にきているかもしれない。

 こういう状況で、フォレンジック機器やソフトを製造している企業はどう考えているのだろうか。筆者のようなユーザーの立場では、それが見えてこないのだ。SATAやUSB 3.0ではなく、これらの規格で可能なスピードの数十倍、いや数百倍以上も高速で保全作業を行える専用機器をメーカーが開発して投入しないと、既存のフォレンジック機材では対応できなくなってしまう可能性がある。

HDDの将来

 ノートPCではSSDがHDDの存在を脅かしている。クラウドは実質的にHDDレスの世界を目指そうとしている(あくまでユーザー側の環境だが)。HDDがまだおなじみではなく、FDDからOSを立ち上げていたはるか昔に比べれば、技術的には格段に進化したともいえるが……。

 ただ物理的な駆動による「read」「write」を行う時代がもうすぐ終わりを迎えるかもしれない。以前にNHKの「クローズアップ現代」でHDDの情報漏えいがテーマに取り上げられ、筆者は制作に協力したことがあった。中古のHDDを秋葉原で何十台も買い、消去されたデータを復元させていくというものだったが、今の状況をみるにこの時の作業がなつかしくも感じられる。

 SSDでは論理的にファイルの完全削除は極めて困難であるので、それを解決する新たな“SSDもどき”の製品がすぐ出てくるに違いない。そう考えると、HDDはいつまで作られるのか興味深いのである。

萩原栄幸

一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、ネット情報セキュリティ研究会相談役、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。

情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、一般企業へも顧問やコンサルタント(システムエンジニアおよび情報セキュリティ一般など多岐に渡る実践的指導で有名)として活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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