復興格差は本質的な問題ではないSFC ORF 2011 Report

慶應義塾大学の日ごろの研究成果などを発表する「SFC Open Research Forum 2011」が開幕した。初日の基調講演では、震災を経て日本がとるべき対応などが議論された。

» 2011年11月22日 22時22分 公開
[伏見学,ITmedia]

 慶應義塾大学SFC研究所(湘南藤沢キャンパス)は11月22日、23日の日程で、学生や教員の研究成果などを発表する年次イベント「SFC Open Research Forum 2011」を開催している。今年は場所を六本木ヒルズから東京ミッドタウンに移し、展示ブースと講演会場のフロアを分けることで、来場者はより多くのアウトプットに触れることができるようになった。

 初日のオープニングセッションでは、「災後日本の針路」をテーマに、東京大学先端科学技術研究センターの御厨貴教授、九州大学の吉岡斉副学長、慶應義塾大学環境情報学部の村井純教授、同学部の神成淳司准教授が、東日本大震災後に日本がどのような対応をとり、いかなる針路を選ぶべきかについて議論した。

左から、慶應義塾大学の神成淳司氏、東京大学の御厨貴氏、九州大学の吉岡斉氏、慶應義塾大学の村井純氏 左から、慶應義塾大学の神成淳司氏、東京大学の御厨貴氏、九州大学の吉岡斉氏、慶應義塾大学の村井純氏

広がる復興格差

 「災後」という言葉は、御厨氏が「3・11を境に“戦後”は終わり、“災後”がはじまる」と読売新聞で述べたことからきている。震災から8カ月が経った現在の問題として、政府が主導する復興構想会議で議長代理を務める御厨氏は「人材不足」と「復興格差」を挙げる。

 前者に関して、国の行政と被災地の行政をつなぐ人材が不可欠だと御厨氏は訴える。多くの被災現場では、国の施策が自分の地域にとって必要かどうか判断できないという。なぜなら、復興支援のメニューは複雑怪奇で理解できず、市町村が選ぶのは至難の業だからだ。御厨氏は「メニューの読み方を教えてくれる若手官僚などの人材を現場に派遣して欲しいという要望は極めて強い」と話す。

 復興格差については、典型的なケースとして、復興に向けて何をすべきか把握しており着実に前進している地域と、何をすればいいか分からない地域では、町の雰囲気がまるで異なるものだとしている。

「ある市長は復興の目標を3つ絞り込み、明確な道筋を立てていた。一方で、国は何をしてくれるのかと尋ねてきた別の地域の市長もいた。復興施策の優先順位を自分たちで決められないのである。しかしながら、こうした格差はやむを得ない。リーダーシップを発揮できる人とそうでない人がいるからだ」(御厨氏)

 問題の本質は、格差があるということではなく、復興が進まない地域はどんどん閉鎖的になってしまうことである。それをオープンにして、外部とつなげてあげるような人材が重要だという。

迫る食糧危機

 この点について、神成氏も言及する。日本社会特有の「公平性」や「平等性」が復興のボトルネックになり、頑張っている地域の足を引っ張ろうとする動きが生じる可能性もあるという。「格差にふたをするのではなく、先行している市町村には積極的に支援するべきだ。すべてを公平にしていたら永遠に前進しないだろう」と神成氏は指摘する。

 こうした問題意識には、神成氏の専門分野である農業が大きく関係する。東日本大震災によって、農業分野は2兆2839億円の被害を受けた。阪神・淡路大震災の900億円、新潟県中越沖地震の1330億円という額と比べても被災の甚大さは明らかだ。一方で、深刻な食糧問題が全世界に到来しつつある。中国が食料輸入国になるなど需要が急増するのに対して、世界の農地面積はほとんど広がっていない。「今のままでは15年以内に世界的な食糧危機が来る」と神成氏は警鐘を鳴らす。

 そうした中、国を挙げて農業や食料、あるいは高齢化に関する問題に取り組もうとした矢先に震災が発生、今日まで抜本的な改革がなされない状況が続いている。来年度の予算においても、基本的には震災復興以外の新規プロジェクトは凍結となっている。

「まずは被災地を立て直すことが大切だ。しかし同時に、従前からの問題にも取り組まなくてはならない。被災地で農業問題や高齢化問題に対するモデルケースを小さくても作り、それを全国に横展開できるようにしないと、日本の破たんは目前に迫っている」(神成氏)

原発事故による負債

 日本が直面する問題はこれだけにとどまらない。震災後、今なお被災地を苦しめているのが、東京電力の福島第一原子力発電所事故である。「原子炉施設の解体・撤去、周辺地域の除染などには30年以上を要し、費用は50兆円以上という試算がある。国民負担は避けられない」と吉岡氏は状況を説明する。

 加えて、十数万人に上る被災地からの避難民へのサポートや、原発周辺地域の住民の被ばくなどに対する医療サポートや生活支援は不可欠である。

 これらについては、精力的に取り組んでいくべきだとするとともに、5月に発足した事故調査・検証委員会において、原発事故の真相究明と今後の安全対策に注力していくと改めて強調した。その1つとして吉岡氏が掲げたのが、エネルギー政策の転換である。

「日本のエネルギー政策はガラパゴス化している。今までの封建的なシステムから近代的なシステムに変えるべきであり、競争力のない原発を撤収し、どう乗り越えていくかを検討していくことが重要なのだ」(吉岡氏)

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