2012年新春インタビュー

世界一よりも世界のトップクラスを――次世代スパコンの開発を始動するNECの狙い2012年 それぞれの「スタート」(1/2 ページ)

世界一の座を取り戻した日本のスーパーコンピュータ技術は、これからどのような方向に向かっていくのだろうか。次世代モデルの開発を本格始動したNECに聞く。

» 2012年01月03日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 日本のスーパーコンピュータ分野にとって2011年は、理化学研究所と富士通が開発した「京」がLINPACKベンチマークTOP500で首位に立つなど、明るい話題に恵まれた一年となった。富士通と同じく国産スパコンを手掛けるNECも2011年秋に次世代モデルの開発を表明。世界にその技術力を示した国産スーパーコンピュータは、さらにどのような進化を遂げるのか――NECで次世代モデルの開発を担当するHPC事業部 技術シニアエキスパート(プロダクトアーキテクト)の萩原孝氏に尋ねた。

高性能と省エネの両立を目指す

NEC HPC事業部 技術シニアエキスパート(プロダクトアーキテクト)の萩原孝氏

 ベクトル型プロセッサのスーパーコンピュータ「SXシリーズ」を主力とするNECは、現行機(SX-9)を2007年10月にリリースした。次世代機でもベクトル型プロセッサを採用し、2013〜2014年にリリースする計画だ。以前は約3年ごとに新型機を開発しており、今回の開発では5年近い間が空くことになる。

 その背景には、コスト面でベクトル型より有利とされる汎用的なスカラー型プロセッサを採用したシステムの台頭が大きい。スカラー型のシステムは多数のノードを並列に並べることで、ベクトル型プロセッサによるシステムよりもコストを抑えつつ高い演算性能を実現できることから日本を含めて世界で優勢となった。

 NECがベクトル型にこだわるのは、広大なメモリ帯域を利用することで、大規模シミュレーションでの気象予測といった分野で使わる流体解析や重力方程式などアプリケーションでスカラー型よりも高い実行性能を得られるため。こうした分野の研究者からはベクトル型を支持する声が強い。

 ベクトル型か、スカラー型か――数年前までスーパーコンピュータをめぐるこうした議論が沸騰していたが、現在では電力消費が大きな問題となりつつあり、両者の強みを取り入れた高効率かつ省エネに優れたシステムが求められるようになっている。

 「ベクトル型の性能を高めるには、CPUとメモリ間の帯域を広げる必要があり、それに応じて消費電力が増してしまいます。スカラー型ではノードを多数追加していくことになり、やはり消費電力が増えてしまう。スーパーコンピュータに求められる計算性能は今後ますます高まるでしょう。それに伴ってシステムの大規模化が進み、消費電力や設置スペースが大きな問題になるでしょう」(萩原氏)

 このため、次世代機ではCPUのコア当たりの性能を高めつつ、消費電力と設置面積の削減という、相反する開発方針を掲げる。性能当たりの消費電力量を現行機の10分の1に、設置面積を5分の1にする。

 「コア当たりの実行性能が高いほどユーザーにとって使いやすいシステムにできるので、次世代機はコア当たりの性能を64ギガフロップス、メモリ帯域幅を64ギガバイト/秒としています。1つのLSIに4つのコアとメモリ、I/O、ネットワークコントローラなど集積させ、1ノードとしては256ギガフロップスのCPU性能と256ギガバイト/秒のメモリ帯域幅を実現する計画です」(萩原氏)

 コア当たりの演算性能はライバル機より2〜4倍、メモリ性能は4〜13倍ほど高いとしている。

 「ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)ではアプリケーションの並列化率が重要です。CPUのメニーコア化によって超並列が可能になりましたが、並列化率が99.99%という非常に手間のかかるアプリケーションでは1000ノードよりも多くなると性能が頭打ちになってしまう。それなら、コア当たりの性能を高めてノードが少なくなるほうが、ユーザーにとって使いやすいでしょう」(萩原氏)

 また現行機は、1ノードで1.6テラプロップスの演算性能を持ち、次世代機は6ノードでほぼ同等(1.5テラプロップス)となる。次世代機は現行機に比べ、LSIの数で100分の1、消費電力で約70%削減される。筐体サイズは現行機が幅1.1×奥行き1.8×高さ1.8メートルで1ノードとなるのに対し、次世代機は幅0.7×奥行き1.2×高さ2.0メートルで64ノード(16テラフロップス)となる。現行機の半分以下の筐体サイズで演算性能は10倍ほど高い。

 システム全体のイメージは、現行機で131テラフロップスの計算性能を持つ海洋研究開発機構の地球シミュレータ(ES2)の設置面積が25メートルプールほど(288平方メートル)だが、次世代機なら会議室ほど(56平方メートル)になり、電力消費量も2.4メガワットから240キロワットになるという。次世代機は、現行機と同等性能なら省エネ・省スペース、同等の設置スペースなら、より高性能というメリットをユーザーに提供できる見込みだ。

 「数年先を見越した技術開発は非常に難しいものですが、次世代機は2年後でも3年後でも、世界トップクラスの性能を持つものにしたいと考えています」(萩原氏)

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