2012年新春インタビュー

世界一よりも世界のトップクラスを――次世代スパコンの開発を始動するNECの狙い2012年 それぞれの「スタート」(2/2 ページ)

» 2012年01月03日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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 日本勢としては7年ぶりにLINPACKベンチマークTOP500で首位を獲得した「京」。この開発プロジェクトの当初にNECも参加していたが、さまざまな事情から撤退を余儀なくされた。萩原氏は、京の成果に対する印象をこう話す。

 「京には少しだけ関わりましたが、TOP500という一つの指標でその性能を世界に証明できたのは非常に素晴らしいし、うれしく思いました。今後はHPCでのアプリケーションの新たな活用領域を広げることに挑戦してほしい」

 NECも2004年に初代の地球シミュレータ(ES1)でTOP500の首位に立ったことがあるが、次世代機の開発ではTOP500を意識してはいないという。「SXシリーズで目指してきたのは、ユーザーのアプリケーションを効率良く実行でき、使いやすいシステムであること。これからもそのように評価されるものを提供したいですね」

ベクトルとスカラーのハイブリット化

 ユーザーの使い勝手のさらなる向上を目指した次世代機のシステムは、スカラー型マシンやGPU型マシンも取り込めるハイブリット運用が可能なものになるという。萩原氏によれば、システムソフトウェア群でこれを実現していく考えであり、その中核になるのが新開発の統合スケジューラや共有ファイルシステムである。

 統合スケジューラは、1000ノード規模の運用を想定し、ジョブの内容に応じて処理をベクトル型マシンやスカラー型マシンへ自動的に振り分けたり、ジョブのないノードを自動停止させて電力消費を抑えたりできるようにするという。また共有ファイルシステムではベクトル型マシンのデータやスカラー型マシンのデータを透過的に扱えるようにする。これにより、双方でデータを移すなどの手間を解消できるとしている。

 「演算性能を優先するものはスカラーで、メモリ性能を優先するものはベクトル型でというように、効率的に計算ができるようになります。例えば、データの初期処理はスカラー型で行い、ベクターで計算して、その結果の検証は再びスカラーで行うといった連携型のワークフローが可能になります。運用形態もユーザーの必要に応じて変更できるようになります」(萩原氏)

 萩原氏は今後、ベクトル型でもスカラー型でも、スーパーコンピュータへの性能要求はますます高まっていくとみる。例えば、ベクトル型が必要とされる気象予測なら従来の数十キロメッシュから数キロメッシュの高い解像度で雲や大気の流れを詳しくシミュレーションできるようになる。「台風の進路予想の精度を高めたり、特定の地域でいつゲリラ豪雨が発生するのかを予測したりできるようになっていくでしょう」(萩原氏)

 スカラー型マシンでも、高度な計算能力を実現するためにベクトル型の仕組みを取り入れつつある。NECはベクトル型やスカラー型の単体システムをこれからも提供していくが、双方の特徴を1つのシステムで使い分けられる次世代システムを、スーパーコンピュータの新たな使い方として提案することになりそうだ。


 「ベクトル型は長く手掛けきた分野であり、ユーザーのニーズがある限り、これからも新しいマシンを開発・提供します。そしてエクサスケールを視野に入れつつ、スーパーコンピュータでどんなことができるのかをより広く提示していきたいですね」(萩原氏)

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