「京」がTop 500のトップに、7年ぶりスパコン世界1位の座を奪還計画の約80%で達成

理化学研究所と富士通が共同開発を進めているスーパコンピュータ「京」が、LINPACKのベンチマークTop500で第1位となった。日本のスーパコンピュータが首位になるのは、2004年6月以来、7年ぶりとなる。

» 2011年06月20日 22時34分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 理化学研究所(理研)と富士通は6月20日、神戸市で共同開発中の京速コンピュータ「京」がLINPACKのベンチマークTop500で第1位を獲得したと発表した。ベンチマーク値は8.162ペタフロップ(FLOPS)で、実行効率は93.0%を達成した。

 今回の計測に用いられたのは、672筐体の6万8544個のCPU(ピーク性能は8.774ペタFLOPS)で、計画する800以上の筐体の約80%に当たる。問題サイズは1072万5120次元、実行時間は10万771秒(約28時間)だった。理研と富士通では、4月から計算機本体の一部(16筐体)を「アプリケーションユーザー」(グランドチャレンジおよび戦略分野の一部ユーザー)に提供して、試験利用をスタート。計測に用いた筐体の設置は5月下旬に完了しており、10数回におよぶ調整を経ての成果だという。

「京」がLINPACK Top500の首位になったと発表した理研の野依良治理事長(左)と富士通の間塚道義会長

 ドイツで開催中の国際スーパーコンピューティング会議が同日発表したLINPACK Top500の順位は、2位が前回1位の「天河1A号」(中国、2.566ペタFLOPS)、3位が「Jaguar」(米国、1.759ペタFLOPS)、4位が「星雲」(中国、1.271ペタFLOPS)、5位が「TSUBAME 2.0」(東京工業大学、1.192ペタFLOPS)の順だった。

 同日会見した理研の野依良治理事長は、「日本社会が総力を挙げた達成した成果であり、我が国の科学技術がいまだに衰えていないことを証明した。2012年11月に本格稼働に向けて今後も開発に注力したい」と語った。

 また富士通の間塚道義会長は、「開発途上ながら世界1位となったことをうれしく思う。スケジュールを前倒しで開発を進めており、速やかに完成させてより多くの研究者に利用していただけるようにしたい」と述べた。「京」は2012年6月に完成する予定で、同年11月から本格運用を開始させる計画。完成後にピーク性能で10ペタFLOPSを実現する見込みである。

震災の影響を克服した

 富士通 常務理事 次世代テクニカルコンピューティング本部長の井上愛一郎氏は、3月11日に発生した東日本大震災によって、今回の成果の達成が危ぶまれたことを明らかにした。「京」の開発プロジェクトには、富士通傘下でCPU製造の後工程を受け持つ富士通インテグレーテッドマイクロテクノロジなど、被災地に拠点を持つ企業が多数参加しており、震災によって機器の開発・製造に大きな影響が出たという。

 野依氏や間塚氏は、被災企業を含めた関係者全員の懸命な努力によって今回の成果につながったことを強調。「“京”が日本復活の原動力になることを期待したい」(野依氏)、「日本の技術力を東北地方の企業が支えていることは事実。全員の協力をなくして世界1位は成し得なかった」(間塚氏)と強調した。

世界と戦える、協力できるシステムを目指す

 理研 計算科学研究機構長 次世代スーパコンピュータ開発実施本部の平尾公彦副本部長は、「京」の特徴について、計算性能だけでなく、93.0%という実行効率がスーパコンピュータとして非常に使いやすいものであること、また、性能に対する電力使用効率が非常に高いものであると述べた。

 「富士通が開発した“SPARC64”プロセッサの実力に加え、8万個以上のCPUを並列動作させるためのネットワーク(インターコネクト)が非常に優れている。汎用システムとして、非常に幅広い分野での研究に“京”が活用されることを期待したい」(平尾氏)。井上氏は、「年齢を問わず、スーパコンピュータの開発に情熱を注ぐすべての技術者の力を結集できた成果」と語った。

2012年11月の本格稼働に向けて準備が進む「京」。提供:(独)理化学研究所

 世界のスーパコンピュータ市場では、各国で「京」に並ぶシステムの開発プロジェクトが進行しており、ペタスケールを上回るエクサスケールの演算処理能力を目指した開発が既に始まっている。また、コスト面などで優れるGPGPU方式のシステムの台頭も著しい。

 野依氏は、今後の日本でのスーパコンピュータ開発について「ライバルも世界1位を目指して努力しているので、日本もトップを目指していくべきだ。そして性能だけでなく、どのように活用していくかも非常に重要。意思決定のプロセスを明確にし、国家戦略としての道筋を示していただきたい」とコメントした。また平尾氏は、今後のアプリケーション利用においての実施効率を高めていくことがポイントになるとし、「多様な利用目的に応えられるよう、GPGPU型やベクトル型のノウハウも取り入れて将来のシステムを検討していきたい」と語った。

 富士通におけるスーパコンピュータ事業について間塚氏は、2015年に世界のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)市場が1兆円規模になるとし、「京」をベースにした商用システムを販売する計画を明らかにした。「できれば3000億円規模の事業にしたいと考えている。米IBMと肩を並べられるビジネスをしっかりとやっていく」と述べた。

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