最新調査にみる中堅・中小企業のIT投資予測Weekly Memo

IDC Japanとノークリサーチが先週、国内中堅・中小企業におけるIT投資動向の今後の見通しを相次いで発表した。そこから見えてくるものは——。

» 2012年01月16日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

プラス成長に転じる2012年のIT投資

 2012年以降の企業のIT投資は、果たしてどのように推移するか。先週、IDC Japanとノークリサーチが相次いで発表した調査レポートを基に、中堅・中小企業にフォーカスして考察したい。

 まず、IDC Japanが1月12日に発表した2011〜2012年の企業規模別IT支出額の見通しによると、2011年は震災や電力不足などによる景気の落ち込みからマイナス成長となるが、2012年はその後の復旧・復興などでプラス成長に転じるとしている。

 企業規模別の2011年のIT支出額は、従業員1000人以上の大企業で前年比2.6%減の5兆7838億円、500〜999人の中堅企業で4.6%減の8257億円、100〜499人の中小企業で6.1%減の1兆5183億円、1〜99人の小規模企業で7.8%減の1兆1410億円と予測。大企業は復旧活動などの経営努力で業績の悪化を緩和するが、大企業より経営体力が劣る中堅・中小企業(1000人未満)では減少幅が大きくなるという。

 これが2012年になると、IT支出額は財政支出による景気浮揚で、大企業および中堅・中小企業ともプラス成長になると予測。中堅・中小企業では凍結されていたシステム刷新の再開などで1.5%増の3兆5385億円、大企業も業績の回復が進んで2.5%増の5兆9300億円になると見込んでいる。

年商規模や業種でさまざまなIT投資傾向

 一方、ノークリサーチが1月10日に発表した調査レポートによると、年商5億円以上500億円未満の中堅・中小企業における2011〜2015年のIT投資の年平均成長率(CAGR)は2.1%と予測。ただし、年商規模や業種によって傾向はさまざまだとしている。

 グラフに掲げたのは年商規模別の傾向である。それぞれのCAGRはグラフの右側に示した数値となっている。

 中堅・中小企業における年商別IT投資規模(単位:億円、出典:ノークリサーチ) 中堅・中小企業における年商別IT投資規模(単位:億円、出典:ノークリサーチ)

 年商5億円以上30億円未満では、CAGR0.9%減とマイナス成長を予測。その要因として、クラウドの活用によってハードウェアやソフトウェアがサービスへ移行することによる影響よりも、ハードウェアやソフトウェアの更新サイクルの長期化による面が大きいとしている。また、この年商規模の企業は、国内外の経済環境の激しい変化への追随が難しいため、IT関連費用を極力抑えて現行システムをなるべく長く利用する傾向にあるという。

 一方、年商300億円以上500億円未満では、年商500億円以上の大企業と同様に、企業の買収・合併や事業拠点の統廃合といったビジネス面での変化やその際のシステム面での統合手段としての仮想化やプライベートクラウドの活用が要因となって、システムの集約が進むと予測。こうした取り組みはITコストの削減につながるため、IT投資規模はほぼ横ばいになるとしている。

 年商が30億円以上50億円未満、50億円以上100億円未満、100億円以上300億円未満の3つの年商帯についてはCAGR2.4〜4.3%の間で、比較的高い伸び率を示している。これらの年商帯では、会計、販売・購買、生産、人事・給与などといった基幹系業務システムを中心に、自社業務への適合などを課題とする試行錯誤がまだ続いているという。

 また、クラウドの活用についても既存システムの現状把握が十分でなく、大企業のように全社規模でITコストを大幅に削減するためのクラウド活用には踏み出しにくいと分析。こうした状況から、既存システムの改善・刷新においては自社内運用とクラウド活用が混在し、年商300億円以上500億円未満のようなITリソースの集約がスムーズに進まないとみている。

 そのため、IT投資の負担は依然として大きく、ほかの年商帯と比べて高いCAGRを示す結果となっている。だが、ユーザー企業としてはIT投資負担を軽減したいという意向が常にあり、より安価で確実な手段を模索していることをベンダー側は踏まえておく必要があるとしている。

 業種別のCAGRは、組み立て製造業4.8%、加工製造業1.5%、建設業0.1%、卸売業4.4%、流通業3.8%、サービス業0.7%、IT関連サービス業4.1%といった伸び率でプラス成長すると予測。ただ、業種別で最もIT投資額の大きい小売業については、3.0%減のマイナス成長になるとした。

 小売業ではスマートフォンを端末とし、ソーシャルサービスやGPS機能を活用した顧客獲得への取り組みが盛んになりつつある。だが、こうしたIT活用は小売業者自身によるシステム投資が少なく、消費者が所有する端末と少額または無償で利用可能なサービスの組み合わせで実現できてしまうものが少なくない。

 また、投資余力のある小売業者では基本的なシステム投資が一巡しており、売り上げ拡大の施策として実店舗の拡大に注力する傾向が強い。そのためIT投資への優先度が相対的に低くなり、結果としてCAGRは微減になると予測している。

 ノークリサーチの調査レポートでは、ほかの業種および商材別の傾向についても分析しているので、ご興味のある方は同社のサイトからご確認いただきたい。

 IDC Japanおよびノークリサーチの最新調査レポートをみると、2012年以降の中堅・中小企業のIT投資は回復傾向にあるようだ。ただし回復するといっても、ベンダー側としては以前と同じ営業スタイルでは、もはや通用しないと肝に銘じるべきだろう。クラウドやモバイルデバイスの有効活用など新しいトレンドも踏まえ、企業競争力およびコストパフォーマンスの向上をどのように訴求、提案していくか。新しい発想と知恵の出しどころである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ