中堅クラウドサービスプロバイダーの決意Weekly Memo

Google Appsの導入支援などを手がけるサイオステクノロジーが先頃、クラウドビジネスの現状について記者説明会を開いた。興味深い話だったので、ぜひ紹介しておきたい。

» 2012年03月05日 08時47分 公開
[松岡功,ITmedia]

ユニークなクラウドサービス事業展開

 サイオステクノロジーは、Google Appsを中心としたクラウドサービスをはじめ、オープンソースソフトウェア(OSS)やJava関連のシステム開発などの事業を展開する従業員数200人余りの中堅サービスプロバイダーである。

 興味深いのは、クラウドサービス事業の展開の仕方だ。Google Appsとsalesforce CRMといったSaaSの2大サービスのライセンスリセールを中核に、ユーザー企業がこれらを導入するときに必要となる付加価値サービスを提供している。

 例えば、セキュリティなどの管理サービスではシングルサインオン、アクセス制御、ID/ユーザー管理、システム間連携モジュール(近々提供予定)など。アプリケーションサービスでは共通アドレス帳、グループスケジューラ、ワークフローといった具合だ。さらに企業内SNSの機能も近々提供する予定という。

 こうした事業展開の仕方について、サイオステクノロジーの喜多伸夫社長は同社が2月24日に開いた記者説明会で、「ユーザーニーズが最も高いパブリッククラウドサービスを手がけるとともに、さらに顧客満足度を高めるためのサービスを付加して導入支援を行うことで、当社ならではのクラウドサービスを追求している」と語った。

 すでに実績も上げている。2007年からリセールを始めたGoogle Appsの導入実績が、2011年12月時点で70万アカウントを超えた。喜多氏によると「国内ではダントツの導入実績」だという。

 記者説明会では、同社を取り巻くクラウドビジネスの現状についても興味深い話を聞くことができた。説明に立った栗原傑亨 執行役員によると、リーマンショック以降、企業のコスト削減に向けた意識が一層高くなり、ITコストに対しても実際に使った分だけ支払う従量制へのニーズが高まってきたという。

 また、昨年の大震災でBCP(事業継続計画)の概念が定着し、サーバなどの仮想化も購入の前提になり、クラウドの活用に拍車がかかるようになってきたとしている。そして栗原氏はとくにパブリッククラウドについて、ノンコア領域での活用が広がっているとの見方を示した。

SIerからクラウドサービスプロバイダへ転身

 栗原氏が言うノンコアの領域とは、グループウェアやワークフロー、営業支援、経費精算、勤怠管理、プロジェクト管理、企業内SNSなどで、それらを含めて企業のITシステムを俯瞰(ふかん)したのが下の図である。

パブリッククラウド活用が進む領域

 この図はなかなか示唆に富んでいて興味深い。真ん中には会計、給与、販売管理からなるERPがあり、それを取り巻く形でノンコアの領域(黄緑色の部分)が描かれている。

 栗原氏の説明によると、この図における注目点は、ERPフロントとも呼ばれる経費精算や勤怠管理のシステムが、最近になってSaaS化してきていることだ。従来、こうしたERPフロントは個別で用意され、ERPへのデータの受け渡しもCSV形式で行われることが少なくなかったが、SaaS化によってそれがスムーズに行われるようになってきたという。

 また、ERPのクラウド化はしばらく時間がかかるとみられるものの、SaaS化したノンコア領域のシステムとERPの各システムとの間では、仕訳や受注・売上データのやり取りが不可欠になってくるという。こうしたERPとのスムーズな連携もパブリッククラウド活用の重要なポイントになるところだ。

 このようにクラウドサービスが広がっていくと、これまで多くのITベンダーが生業としてきたシステムインテグレーション(SI)はどうなっていくのか。栗原氏は、「SI市場は終えんを迎えることになる」との見解を示した。その根拠はこうだ。

 かつては、出来合いのパッケージだと対応できないとしてカスタマイズを前提としたり、フルスクラッチで業務システムを開発したりしてきたが、その後、パッケージに業務を合わせることが増えてきた。

 しかし、アウトソーシング、ひいてはクラウド化が進んで、最近では導入形態もパッケージではなくSaaSのようなサービスを利用する傾向が強くなってきた。さらに運用・保守もマネージドサービスを利用するケースが増えてきた。

 サービスを買う市場が広がると、システム開発を主眼とするSIビジネスが次第に成り立たなくなっていくのは必然だ。では、そのSIに従事してきたシステムエンジニア(SE)はどうすればよいのか。栗原氏はこう指摘した。

 「これからは業務に合わせたサービスを組み合わせた提案が求められるようになるので、SEはプリセールスやマーケティングのスキルを身につける必要がある」

 こう語るサイオステクノロジーも、もともとはSIerだが、クラウドサービスプロバイダーへの転身を図るために、事業もさることながら、SEと営業が一体になって活動することでプリセールスやマーケティングのスキルアップに努めているという。こうした取り組みに、自ら「SI市場の終えん」を語る覚悟に裏打ちされた転身への決意を感じる。

 そうした決意も合わせて、同社のクラウドサービス事業への取り組みは、他の中堅・中小規模のSIerにとっても参考にすべきところが少なくないのではなかろうか。

記者説明会に臨むサイオステクノロジーの喜多伸夫社長(右)と栗原傑亨 執行役員

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