Google、Microsoft、Amazonの“仁義無き戦い”Weekly Memo

GoogleとMicrosoftがIaaSやタブレット端末といった市場に新規参入した。さらにAmazon.comがスマートフォンを開発中との情報も。果たして3社の思惑やいかに——。

» 2012年07月17日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

3社が新たな市場へ相次いで参入

 米国のGoogleとMicrosoftがここ1カ月余りの間で、クラウドプラットフォームサービスであるIaaS、およびタブレット端末を相次いで発表した。両社にとってはいずれの市場へも新規参入となる。

 GoogleがIaaSモデルのクラウドサービス「Google Compute Engine」を発表したのは6月28日。米国で開催した年次開発者会議「Google I/O 2012」でのことだ。

会見に臨む米Googleエンタープライズ新製品担当ディレクターのシャイリッシュ・ラオ氏 会見に臨む米Googleエンタープライズ新製品担当ディレクターのシャイリッシュ・ラオ氏

 同社の日本法人が7月10日に都内ホテルで開催した法人顧客向けのプライベートイベントを機に来日したGoogleエンタープライズ新製品担当ディレクターのシャイリッシュ・ラオ氏は、同日の記者会見で新サービスについてこう説明した。

 「Google Compute Engineは、Googleの各種サービスを支えるGoogleデータセンターの上でLinux仮想マシンを稼働させることが可能なIaaS。多くの開発者や企業からの要望を受けて新規参入することにした。これによって、さらなる柔軟性や使いやすさに加え、問題解決の考え方を根本から変えるほどの大規模なコンピューティングリソースが利用可能になる」

 そのうえで、「費用効果は競合他社の主要サービスより50%優れている」と胸を張った。

 また、MicrosoftがIaaSへの参入を発表したのは6月6日。同社が2010年からサービス展開しているPaaS「Microsoft Windows Azure」の新機能として、WindowsだけでなくLinuxなどの仮想マシン環境も利用できるようにした。同社のこの動きについてはすでに詳しく報道されているので、関連記事等をご覧いただきたい。

 一方、GoogleとMicrosoftは6月下旬、相次いで自社ブランドのタブレット端末も発表した。両社は米国の発表会見でそれぞれ、「この端末を通じて最良の“Google体験”を届けたい」(Google製品管理ディレクターのヒューゴ・バラ氏)、「Windows 1.0にマウスが必要だったように、Windows 8にも“相棒”を用意した」(Microsoft CEOのスティーブ・バルマー氏)と、新規参入の意義を語った。

 さらに、興味深い新規参入の動きをもう1つ。米国の複数のメディアが先頃報じたところによると、米Amazon.comが自社ブランドのスマートフォンを開発中とのこと。これについては昨年秋頃から噂されていたが、いよいよ現実味を帯びてきた格好だ。報道によると、OSはGoogleの「Android」。同社は端末として、すでに電子書籍リーダーとタブレットを展開しているが、普及著しいスマートフォンも品揃えする構えのようだ。

新たな市場に攻め入る3社の思惑

 さて、これらの動きをそれぞれの市場における競合関係からみてみると、まずIaaSへ新規参入したGoogleとMicrosoftにとって最大の競合相手となるのが、Amazon.com傘下のAmazon Web Services(AWS)が2006年からサービスを展開している「Amazon EC2」であることは明白だ。

 ただ、IaaS市場における本格的なバトルはこれからが本番といえるので、GoogleとMicrosoftにとってはさしずめAWSを一人勝ちさせないように、との思惑が強く働いているように受け取れる。

 GoogleとMicrosoftのそうした思惑は、タブレット端末でも同じだろう。異なるのは、この市場での最大の競合相手が米Appleであることだ。タブレット端末市場でのAppleのシェアは、複数の調査によると一時期の勢いこそなくなりつつあるようだが、それでも過半数をキープしているとされる。

 ただ、このタブレット端末市場もIaaS市場と同様、本格的なバトルはこれからが本番といえる。しかもそのポテンシャルとして注目されるのは、パソコンがタブレット端末にどんどん置き換わっていく可能性があることだ。したがって、とくにMicrosoftが今回、自社ブランド製品を投入したのは、逆にタブレット端末をWindowsが主流のパソコン市場に取り込みたいという思惑が強く働いているようだ。

 最大の競合相手がAppleなのは、スマートフォンを開発中とされるAmazon.comも同じだ。Amazon.comの場合は、スマートフォンが電子書籍リーダーとしても主流になる可能性があることを踏まえての動きとも見て取れる。

 Google、Microsoft、Amazon.comのこうした動きで興味深いのは、いずれもこれまで踏み込まなかった市場に参入を図っていることだ。しかもGoogleとMicrosoftは、とくにタブレット端末市場ではOSの供給元としてエコシステムを築いており、パートナーからの反発を覚悟しての動きだ。それにも増して、これからが本番となる有望市場に対し、自らのブランド力を前面に出して需要喚起を図っていきたいという思惑が強いのだろう。

 もう1つ、3社の動きで共通していると思われるのは、足もとをすくわれかねないという強い危機感だ。3社個別の説明は省くが、クラウドサービスの基盤という非常に重要な領域でAWSが一人勝ちするかもしれないIaaS、Appleが過半数のシェアをキープし続けてパソコンに取って代わるかもしれないタブレット端末、電子書籍リーダーとしても主流になる可能性があるスマートフォンをめぐる動きといえば、読者諸氏にはお分かりいただけるだろう。

 ここまで書いて、3社の動きで頭に浮かんできたフレーズは「仁義無き戦い」。少々古い例えで恐縮だが、ともあれこのバトルで、より良いものをより安く手に入れられるようになるのならば、利用者にとっては喜ばしいことである。

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