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» 2012年08月20日 08時00分 UPDATE

導入事例:「アナログ人間でも使える」――iPadはブライダル業界の基幹システムを変えるか?

ブライダル専門のレンタル衣装事業を手掛けるアクア・グラツィエでは、基幹系システムのクライアントとしてiPadを導入。多品種少量の取扱商品の在庫を半減できたという。

[岡田靖,ITmedia]

 結婚式衣装レンタル事業を手掛けるアクア・グラツィエは、青山本店はじめ全国12カ所に店舗を展開している。イタリアのアトリエと共同で、高級素材を取り入れ、日本人の体型に合わせ開発したオリジナルのドレスが主力商品だ。

 同社では、基幹系に相当するシステムをFileMakerで構築・運用している。システムは「AXIS」(アクシス)と名付けられ、端末にはFileMaker GoをインストールしたiPad/iPad2が用いられている。同社では、合計百数十台のiPad/iPad2を社内端末として活用、うち130台あまりがAIXSに接続しているとのこと。

 AXISは、顧客の「カルテ」を管理する「ストアマネージャ」、衣装や小物など商品の在庫およびレンタル品スケジュールを管理する「ストックマネージャ」、そして販売商品の調達を管理する「バイイングマネージャ」の3つの機能を備えている。これまで別々のシステムになっていた各機能を統合・連動させたことで、手入力で伝票を突き合わせるなどの手間をなくすことができ、さらに在庫情報をリアルタイムにシステムで確認できるようになったことからコストを大幅に減らせるようになり、在庫の半減にも成功したという。

「自分たちの手で設計して動かせる」FileMakerと「アナログ人間でも使える」iPad

miura.jpg アクア・グラツィエ 専務取締役の三浦めぐみ氏

 「ブライダルはニッチな業界である上に、企業規模もさまざまなので、IT化が遅れがち。専門のパッケージシステムなどもなく、IT投資が難しいのです」と語るのは、アクア・グラツィエ 専務取締役の三浦めぐみ氏。システム化の必要性は、以前から強く感じていたという。

 「例えば、美容や式場を手掛ける他部門との組織間の壁がありました。店でコーディネートした内容、お客様が鏡の前で見たのと同じ姿を、当日の式場で再現しなければなりません。その姿は写真でも残していますが、これまで式場などとの連絡は主に電話で行っていたので、細かな情報まできちんと伝えられているかどうか不安がありました。お客様にとっては一生の出来事ですので、打ち合わせた内容の一言一句まできちんと残して伝えたいという考えから、IT化を検討するようになったのです」

 同社の業務は、結婚式という総合サービスに連なるサプライチェーンの一部とみることができるだろう。顧客と直接触れ合うものの、同社が提供するサービスや商品だけで完結するわけではない。IT化は、単なる業務効率化のみならず、その後に続く段階のサービスと密に連携するための、詳細かつ漏れのない情報提供手段としても重要なのである。こうした考えに沿って、AXISに至るまでのシステムが開発されてきた。

 そして、同社にとって最新のシステムであるAXISを、FileMakerとiPadの組み合わせで構築した理由について、三浦氏は以下のように説明している。

 「FileMakerを選んだ理由は、自分たちの手で帳票を設計して動かせるなど、小回りが利くこと。また、以前からブライダル部門で使っていて馴染みがあるというのもポイントでした。システム構想そのものは2010年以前からのもので、端末にはPCやタブレットPCを検討したりしましたが、当社の接客スタッフは女性で、PCも敬遠したり携帯電話のメールも使わないような“アナログな人”も少なくありません。それに、接客はスマートにありたいですよね。『少々お待ちください、カチャカチャ』ではなく、打ち合わせを進めながら画面をタッチして、話を途切れさせずにシステムを使えるようにしたかったのです。iPadとFileMaker Goの登場で、これを端末にすることを決めました」

現場の要望を取り入れて画面の改良を繰り返し、充分な情報量と視認性を実現

 AXISの開発を手掛けたのは、ライジングサン・システムコンサルティングの岩佐和紀氏。かつてアクア・グラツィエの親会社ベストブライダルで契約社員として大手ベンダーとともに基幹系システム構築に携わり、後に独立した経歴の持ち主だ。岩佐氏は、ITスキルに加えてブライダル業界の業務に詳しいことから、AXIS開発の中心を担うこととなった。

iwasa.jpg ライジングサン・システムコンサルティングの岩佐和紀氏

 「実は、以前からFileMakerを使いこんでいたわけではありません」と岩佐氏は話す。「それまでは一般的なシステム開発プロジェクト、つまり最初にRFPを書いて、それに沿ってきっちり作り込んでいく手法に馴染んでいました」

 しかしその後、このシステムに足りない機能を追加すべくFileMakerで開発していくうちに、FileMakerならではの開発スタイルに親しんでいくことになったという。AXISの開発でも、「使いながら修正を加えていく」スタイルが役に立った。

 AXISの主な機能の1つ、商談管理の画面には、個々の契約情報だけでなく、新郎新婦を中心とした両家の家族のサイズや年齢、嗜好といった属性情報の数々、また結婚式や披露宴で使う衣装や小物、それらをどのように身に付けていくかといった情報がまとめられる。

 加えて、電話での問い合わせや結婚式場との業務連絡、各業務担当者間の業務引き継ぎ情報など、非定型業務も合わせると、1顧客あたり300から500のトランザクションが発生する。年間8600組のカップルをサポートするため、その情報量は膨大だ。

 最終的には、1組の顧客に対し90行ものリストになる。これらをiPadの画面サイズで、視認性や情報量を両立させなければならない。どの情報をどこに配置して、どこでページ遷移させるか、といった試行錯誤が求められたという。

 「AppleのUI標準を厳密に守ると1画面に表現できる情報量が制限されてしまい、画面遷移が頻繁になります。対面接客で使用する機能に画面遷移が頻発するUIを採用すると、操作に混乱をもたらし、スムーズな接客の妨げにもなります。こうした事情から、標準より小さめの文字を使うようにしているのです」

 「AXIS導入前には、A3サイズの顧客カルテを使用していました。A3用紙の一覧性をiPadで再現することは不可能です。そこで、紙に表現していた情報要素に優先順位をつけ、どの情報をトップ画面に表示するか、それにはどういった表現方法が最適なのかについて何パターンものプロトタイプを作成し、改良を加えました。こういった反復型の開発手法において、FileMakerProは強力なアドバンテージを持っています」(岩佐氏)

 AIXSの原型が完成して一部スタッフを対象としたモニタ運用を開始したのが2011年6月頃、同年9月からは同じくFileMakerで作ったeラーニング環境を用いて全スタッフの研修を開始、2012年1月から本格運用をスタートしているが、その間を通じて画面の改良は繰り返され、ようやく最近になって落ち着いてきたという。モニタ運用から1年あまりの試行錯誤だったということになる。

 岩佐氏が画面構成にこだわったのは、過去の経験もある。かつて携わったシステムで、エンドユーザーから「画面デザインが格好悪い」と言われたことがあるのだという。

 「しかもAXISは顧客の目にも触れるシステムですから、こだわって作らねばならないという思いは一層強いですね」(岩佐氏)

 ログインすると最初に表示されるのが、各ユーザーのスケジュールやタスク、他スタッフからの伝言などが網羅されたポータル画面。スクラッチの業務システムにありがちな各機能へのボタンなどではない。

 詳細情報へのアクセスは、日付からのドリルダウンで行える。挙式の日取りが先に決まっているブライダル業界ならではの設計だ。来店予約の台帳を開くとカレンダーが表示され、日付をタッチすればその日に挙式予定の顧客が抽出される。式までの期間は、ほぼ半年以内となっていることから、6カ月分のカレンダーで1画面に納めたのだという。そして顧客を選ぶと顧客カルテ画面となり、さらにそこからはカルテに記された顧客情報、各商品の細かなデータ、試着状況の写真などへとリンクしていく。ここまでの操作の中で、キーボード操作は一切必要なく、タッチ操作のみで必要な情報にアクセスできる。

 「接客中の作業のほぼ全てはボタン操作でできるようにしてあります。文字入力の必要な場面をできるだけ減らせるよう、マスター部分のデータモデリングは慎重に行いました。また各種入力部分のUIにも、一般的なFileMakerのソリューションではあまり見ることのない高度な技術を使って、利便性と応答性能を実現しています」(岩佐氏)

顧客の夢を叶えるための人間的コミュニケーションに役立つツールを目指す

 AXISが完成したことで、以前のシステムで必要だった伝票整理の作業も不要となった。iPadで入力した情報はFileMaker Server上でリアルタイムに共有される。伝票整理に必要だった時間が不要になり、残業も大幅に減ったとのことだ。また、時間に余裕ができた分は接客に回れるので、顧客を待たせることが減り、顧客満足度向上にも寄与しているという。

aqua.jpg 店頭で利用している様子

 そして、顧客が選んだ衣装を在庫から引き当てるのもリアルタイムに行われる。アクア・グラツィエが保有する、着数ベースで万単位にも及ぶレンタル衣装の在庫には、一つひとつにはクリーニングにも耐える衣類用FRIDタグが縫い付けてあり、それを利用してリアルタイムに在庫を管理することが可能だ。この在庫情報と顧客情報を連動させ、在庫数を半減できたという。

 一方、AXISの今後について岩佐氏は、システムのパフォーマンスが課題になってくると語る。FileMaker Goのクライアント百数十台という運用はあまり例がなく、システム的には負荷が大きいのだという。

 「写真だけでも数ギガバイトに達していますし、トランザクションデータは日々数10メガバイト単位で増加します。ハードウェアのチューニングや、ネットワークの強化、データベースの設計を工夫することで何とか業務に使えるレベルのレスポンスを実現していますが、もう少し改善したいです。新しいFileMaker Server 12ではパフォーマンス改善に加え、FileMaker Goのクライアントライセンスも無料ということなので、アップグレードを検討しています。さらに将来的には、カスタムWeb公開機能を顧客向けのセルフサービスサイトを運用することも考えられますね。式の日付に応じて、その日の在庫状況から確実に提供できる具体的な商品をレコメンデーションに出すなど、いろいろな実装ができそうです」

 また三浦氏は、AXISのさらなる使いこなしを考えている。例えば顧客の来店時間帯や曜日などの分析を行って効率的な人員配置に役立てるといった案もあるとのことだが、最も重視しているのは接客スタッフと顧客との、人間としてのコミュニケーションだ。

 「お客様と接する際に感じるのは、IT化で利便性を得た一方、人間的なコミュニケーション能力を失いつつあるのではないかという点です。我々が販売しているのはサービス、すなわち満足感あるいは夢といった形のない存在ですから、接客応対は非常に重要な要素。AXISを発展させ、より使いこなすことで、スタッフの人間的コミュニケーション能力を引き出し、補っていくようなツールにしていきたいですね」

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