現場で効くデータ活用と業務カイゼン

リユース品の査定現場で活躍するiPad導入事例

茨城や千葉を中心に15店舗を展開するリユース商品専門店「WonderREX」では、店頭に持ち込まれた商品を査定する端末としてiPadが活躍中だ。

» 2012年01月17日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 「WonderREX」の運営会社であるワンダーコーポレーションは、ゲームソフト、音楽CD、DVD、書籍、携帯電話などを扱うエンターテインメントショップ「WonderGOO」を日本全国に展開しており、その姉妹店としてリユース商品に特化したWonderREXを立ち上げたという。

 WonderREXの特徴は、一般的なリユース店の2〜3倍はあるという平均540坪もの売場面積。リユース店にとっては、陳列できる商品数につながる広さは重要なポイントだ。中でも最大なのが旗艦店であるつくば店で、およそ1200坪にもなるという。取扱点数は4万あまり。商品ジャンルも、宝飾品から古着、家電やゲームソフト、アウトドア用品など多種多様だ。

サーバの機能までユーザー自身の手で扱えるデータベースを求めFileMakerを採用

 同社代表取締役社長である宇津木雅美氏には、ITシステムに対するポリシーがあるという。それは、できるだけユーザー自身の手でデータベースを扱いたい、というものだ。そのような環境を作り上げるためには、当然ながら開発に高いスキルを必要とせず、かつ自由度の高いシステムが求められる。

 「今はMySQLをサーバとして使っていますが、データベース部分は外注に頼らざるを得ません。そこで、代替となるDBを求めて知ったのが、FileMakerです」と宇津木氏は話す。

 採用に踏み切ったきっかけは、FileMaker Goの登場だった。宇津木氏らは、2010年のFileMakerカンファレンスを訪れ、のちに今回のシステムを開発するパートナーに出会った。静岡県浜松市に拠点を置き、FileMaker Proによる業務管理システム開発や業務改善支援に実績のあるネビュラである。

 「iPadに対しては“便利な紙”として注目していました。そこにFileMaker Goが登場し、時間をかけずアプリ開発が可能になりました。この組み合わせは使えそうだと考えたのです。どのような業務で使えるのか、まずはテストケースを探したところ、店頭で査定伝票を書いているスタッフがいるのを見て、ここから使おうと決めました」(宇津木氏)

システム修正やユーザー習熟を考慮して旗艦店の一部ユーザーから段階的に導入

ワンダーレックスつくば店 店長 小山内幸夫氏

 こうして、FileMaker GoおよびFileMaker Serverからなる「買い取り伝票システム」の開発がスタートしたのは、2011年1月頃のこと。機能や画面の開発は20日間ほどで終え、2月には実店舗でのプロトタイプを導入した。全店舗で一斉に導入するのでなく、最初は少数ユーザーが使って、そのフィードバックをシステムに反映させつつ利用範囲を拡大していくという流れである。

 最初の導入店舗として選ばれたのは、最大の売場面積を持つつくば店だった。現場では、スタッフを集め、機能や操作方法を説明をした上で適応力のありそうな一部のユーザーから使いながら覚えてもらったという。こうすることで、システム化に不安や抵抗感を持つスタッフも、他のスタッフが使っているのを見れば使えそうな気になってくるというわけだ。また、リテラシーの高いユーザーが使うことでシステムの不具合を洗い出す、βテスト的な意図もあった。そのため当初は、iPadの数も抑え、5台から運用を開始した。

 実際の利用シーンを見てみよう。従来の査定・買取業務では、完全に紙ベースで仕事が進められていた。査定結果は伝票に手で記入して電卓で計算する。電子化されるのは買い取り完了後にバックヤードでPOSに入力された時点だ。これに対し、買い取り伝票システムでは、買い取りカウンターに配置されたiPadで大半の業務が完結する。持ち込まれた商品の査定内容は画面から直接入力し、その画面上で査定結果を客に確認してもらうようになっている。iPadは無線LANでFileMaker Serverに接続されており、データは買い取りが完了すると同時に、MySQLで構築されたPOSシステムへ転送される。

 「伝票を書く際、文字が上手なスタッフもいれば、そうでないスタッフもいましたが、iPadに入力することでその差は無くなりました。また、入力そのものも速くなっています。古物商としてはお客様のサイン記入が必須ですから、紙にも出力していますが、それ以外は完全にペーパーレスになりました。」と、つくば店店長の小山内幸夫氏は話す。

 実は宇津木氏にとって、顧客の注目を集めることもiPad導入の狙いであった。「リユース専門店でiPadを使うのは業界初」というイメージ戦略であり、新しい端末に興味を持つユーザーは消費活動も積極的、つまり同社にとって期待できる顧客でもある。

 こうして初期導入を進めつつ、機能追加も進められた。例えばWebへのリンクを画面に配置し、価格検索を行えるように工夫してある。

 「これはリユース店ならではの機能です。お客様は売るときも買うときも、定価や相場が気になるものです。口頭で相場を説明するより、ウェブで検索した結果を見せた方が納得してもらえます。以前は、PCの前に移動する必要がありましたが、iPadで完結するようにすればお客様を待たせずに済みます。」(小山内氏)

 iPadの台数追加も進められた。iPad2の発売を待ったこともあって他の店舗への導入は予定より遅れて6月から開始となったが、8月にはWonderREX全店舗に展開を完了したという。なお、つくば店では、現在では14台のiPadがあり、買い取り件数が最も多い1階カウンターに10台、高額品買取専門の2階カウンターに2台、電池切れや故障などに備えた予備をバックヤードに2台を、それぞれ配置しているという。

他の業務にもiPadとFileMakerの活用を拡大していく

ワンダーコーポレーション エコ・プロデュース営業統括 店舗業務課長 小池洋一氏

 ワンダーコーポレーションでは、今や全社で110台のiPadを使うまでになっており、他の業務にもiPadやFileMakerの活用を拡大しようとしている。また、今後の活用のアイデアも集まってきつつある。

 例えば、店舗業務課長を務める小池洋一氏は、iPad2のカメラ機能の活用を考えているという。

 「このカメラで商品を撮影して店舗間で共有すれば、自店舗の在庫に加えて他店舗の在庫も把握でき、お客様の誘導にも使えるでしょう。最近、他社で盗難品と疑いつつ買い取りをしたという事件がありましたが、商品の写真があれば、警察の捜査にも協力しやすくなります。また、FileMaker Go以外の活用ですが、FaceTimeを使って遠隔地の店内の様子を見せてもらうなどは、今もたまに行います」(小池氏)

 一方、執行役員 情報システム部長の深見弘氏は、FileMakerの活用の幅を広げたいという。

 「ECサイトと各店舗のデータを連携させたいですね。それから、スタッフ向けには、ワークフローや電子申請などの機能を提供していくつもりです。今は紙の申請書をメール便でやり取りするなどしているので、そのタイムラグをなくし業務を効率化させます」(深見氏)

 また店舗では、集められたデータを店のスタッフが活用していくことを検討している。

ワンダーコーポレーション 執行役員 情報システム部長 深見弘氏

 「トレンドや売れ筋商品のデータを、買い取り価格や商品陳列に反映したいですね。いわゆるビジネスインテリジェンスを実現したいということです」(小山内氏)

 既に経営会議でも、iPadが必須となっているという。紙資料の持ち込みを禁止したというのである。また、各地域を担当するリーダーなどにもiPadを持たせ、業務に活用させているという。そして現在では、営業系の業務でも使えるよう、新たなシステムの開発に取り組んでいるとのことだ。

 「将来的には業務を、人事経理から全てiPadとFileMaker Goに置き換え、営業などの全員に端末を持たせたいと考えています。また、サーバに関しては、今回のシステムでFileMaker Serverを試してみた結果、MySQLと遜色ないという手応えを感じました。自分の手で直しながら運用できる上に、基幹系業務にも対応できるのがFileMakerの良さです。FileMakerは主に中小企業がターゲットとのことですが、それは間違いで、もっと大きなユーザーにも役立つはずだと考えています」(宇津木氏)

商品情報を入力する様子。査定した衣類が奥に見える

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