2013年新春インタビュー

データ活用の本質が問われている 富士通・川妻常務2013年新春特集 「負けない力」(1/2 ページ)

ソーシャルデータから新ビジネスを生み出せ――ビッグデータ活用例の1つだが、富士通の川妻庸男常務が着目するのは、より本質的な点であり、技術立国・ニッポンが負けないための源泉にもなり得るものだという。その「本質」とは何か?

» 2013年02月07日 08時00分 公開
[聞き手:國谷武史,ITmedia]

ビッグデータが本物になってきた

―― 2012年はスーパーコンピュータ「京」の稼働など、テクノロジー面でさまざま話題がありました。2012年のビジネスはいかがでしたか。

川妻庸男 執行役員常務 マーケティング部門副部門長

 富士通としては、「京」を無事稼働させることができましたし、「エンジニアリングクラウド」の利用者も増えてきました。新しいテクノロジーから新しいサービスや商品を展開する一年になりました。だた、円高は製造業にとって大変厳しいものでしたし、欧州の債務問題も大きく影響しました。2013年こそは「がんばろう」という思いです。

 お客様の状況も少しずつ変わってきました。基幹業務系のシステムでは仮想化やプライベートクラウドの導入が思った以上に進みましたし、商談でもこの辺りが伸びています。業務システムにはさらなる効率化を求められていますし、オンプレミスからクラウドへシフトしています。

 富士通は、例えば農業のように、これまでICT活用が進んでいなかった分野にも取り組んでいたのですが、それが本格的に動き始めました。こうした動きはもう少し前からかもしれませんが、従来の枠組みからの転換点になったのが、2012年ではないでしょうか。

―― 2011年にビッグデータ処理のPaaSをいち早く立ち上げました。ビッグデータ活用のための施策が市場に浸透していると感じますか。

 今まで富士通からお客様に「これが重要になります」と提案し過ぎてしまっていたように思います。それが、昨年半ばくらいからはお客様の方から「これがやりたい」と言っていただけるようになり、その内容も広がり出しました。例えば、退会する会員を予測したり、機器の故障を予測したり、どう組み合わせると売れる商品にできるかといった具合です。

 こうした予測のための技術というのがビッグデータの根幹ですが、昨年後半からみられる動きは、予測した結果を基幹業務に組み込みたいというものです。新しい基幹業務の仕組みと言いますか、ビッグデータが本物になってきたようにと思います。実際にSEP(複合イベント処理)のエンジンを回しながら運用監視しているシステムもあります。

―― ソーシャルデータの活用が先行しましたが、基幹系データの活用という新たなフェーズに入ったのでしょうか。

 まだ本流ではありませんが、企業としてはソーシャルデータだけでなく、社内に蓄積していたデータや、新たに取得できるようになったデータの3つを重ね合わせてみたいというところでしょう。まず既存の社内データやソーシャルのデータを分析し、それでも分からないところは、M2M(Machine to Machine)の仕組みを使ったり、極端に言えば、受注内容を詳しくシステムに入力するなどして新たにデータを取得し、さらに分析していくわけです。マーケティングにデータを使うだけでなく、生産管理にもつなげてみればビジネス全体がより良くなると分れば、基幹業務システムをみていたIT部門も、「ビッグデータは自分にも関係する」と認識し始めます。「それなら、こことあそこをつなげれるとどうなるのか?」といった志向になります。

 例えば、メーカーの生産プロセスに「発注点」というのがあります。工場の在庫がある程度まで減ると生産を再開し、在庫が溜れば生産を止めるというものですが、そのタイミングは生産管理のプロフェッショナルの経験や勘に依存しています。一般的に、欠品しないように生産をすれば在庫が増えます。営業担当者からすれば、欠品でお客様に迷惑を掛けたくないために在庫が多い方が望ましいのですが、トータルコストで考えると在庫は少ない方が望ましいわけです。そのコントロールは非常に難しいものです。こうしたデータを集めて、日々の注文状況と1カ月前や1年前の状況を比べてリアルタイムに判断できるようにすれば、欠品を起こすことなくミニマムな生産で対応できるようになります。

 ビッグデータやSEP、Hadoopと聞くと何か特殊なイメージを持たれがちですが、Hadoopを使ってバッチ処理するといった取り組みは既に始まっていますので、市民権を得つつあるのではないでしょうか。かつて経理システムが開発された頃、「なぜそんなものがいるのか?」という人がほとんどでした。私の先輩は、「コンピュータは足し算が得意なんです」と説明したそうです(笑)。ビッグデータもそういうものに近いのかもしれません。「ビッグデータは特殊じゃない」と思われるのが一番良いことでしょう。

 富士通としては、ビッグデータをある時点で解析すれば良いということではなくて、常に解析し続けることで環境変化に柔軟に対応していくことができるシステムを実現すべきだと考えています。技術がようやく追い付き、そういうことができるようになり始めました。

―― 富士通としての強みはどこにありますか。

 強みの1つは、機械学習の技術ですね。社内では完成度をだいぶ高められてきたのではないかと考えています。データ量があまりに膨大で、人手を掛けられないケースでも機械学習を使えば可能になりますし、人間の発想では得られないようなパターンがみえるようになります。もう1つの強みは、お客様が全業種にわたることでしょう。ビッグデータの先進的な使い方も全業種にわたりますし、圧倒的な数のお客様の存在は富士通の一番の資産であり、強みです。

 クラウド環境についても、富士通のクラウド基盤には当社のネットワーク(FENICS II)が組み込まれていますので、特にセキュリティの堅牢性は、他社のクラウド基盤より高いものだと思います。こうしたクラウド基盤が国内外にあり、全てを一元的に運用しています。ビッグデータがあればすぐに使えるクラウド環境を提供できる点も強みですね。

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