地殻変動始まる、HPの「Moonshot」が業界標準サーバを再定義へ

先週、都内のホテルで「HP Moonshot System」の第1弾がお披露目された。特定の用途に最適化され、効率性が桁違いに優れたサーバを業界標準のテクノロジーをベースに実現するというHPらしい取り組みだ。

» 2013年04月23日 09時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
Moonshot Systemとカートリッジを披露する日本HPの杉原博茂常務執行役

 「またハードウェアが面白くなりそう」── 先週、都内のホテルで「HP Moonshot System」の第1弾がお披露目されたとき、静かな期待が膨らんだ。

 Moonshot Systemは、同じ名前で2011年11月に立ち上げられた「Project Moonshot」から生まれた最初の成果だ。このプロジェクト、当初は「ARMベースの省電力サーバ」を開発するのが狙いと報じられたが、ここへきてその全容が見えてきた。多くのプロセッサメーカーを巻き込み、特定の用途に最適化され、効率性が桁違いに優れたサーバを業界標準のテクノロジーをベースに実現するというHPらしい取り組みだ。

 この地球を網の目のように結ぶインターネットは、何十億というデバイスやセンサーをつないでいる。IDCの予測によれば、2020年にはスマートデバイスだけでも30億に達するとみられており、センサーを加えれば、その数は人口を遥かに超える。「ヒト」だけではなく、「モノ」までもが刻々とデジタル情報を生み出しており、企業はそれらを活用するテクノロジーやソリューションを見定めようとしている。それが今後のビジネスの成否を左右するとみられているからだ。「モバイル」「ソーシャル」「ビッグデータ」というITの大きな潮流が注目を集め、「クラウド」がこれからのITの利用形態として有望視されているのはご存じのとおりだ。

 企業はここ数年、「ムーアの法則」によって集積度を増しているプロセッサの有り余るパワーを十分に使い切るため、その「仮想化」に取り組んできたが、余裕のある資源をプール化して柔軟に使い回す、というアプローチでは、こうした新しいITの潮流にはとても追いつかない。むしろ、幾何級数的に高まる処理能力への需要を満たすため、業界はより多くのデータセンターを建設しなければならないとみられている。コストもさることながら、深刻な課題は「エネルギー」や「スペース」、そしてシステムの「複雑さ」だろう。

 これらの課題に対して、業界標準サーバの市場を築き、牽引してきたHPが取り組んだのがProject Moonshotであり、その最初の成果がMoonshot Systemというわけだ。先週、都内のホテルで同社日本法人の創業50周年を祝うイベントが行われ、米国本社で業界標準サーバのメインストリームビジネスを担当するジム・ガンティア副社長は、「これまでとは全く異なるアプローチのサーバが求められている」とし、業界標準サーバを再定義する必要性を強調した。

 「業界標準サーバの市場をつくり、牽引したHPだからこそ、再定義できる」とガンティア氏。

第1弾はWebフロントエンドに最適

 第1弾となったProLiant Moonshot Serverは、サーバ用途に開発された64ビットのAtomプロセッサS1260とメモリ、HDDベイ、およびネットワークインタフェースを搭載したカートリッジ型サーバ。Atom S1260は2.0GHzで動作時の消費電力が8.5ワットと桁違いに少ない。周辺インタフェースを統合したSoC(System on Chip)となっており、カートリッジ全体でもわずか19ワット。このカートリッジを45枚と2基のスイッチモジュールが、高さ4.3Uの専用のシャーシに収まるデザインだ。19インチラック全体では、このシャーシが9台、合計405枚のカートリッジを収容する桁違いの高密度ぶりだ。

 もちろん、既存のx86命令セットが利用できるAtom S1200シリーズのメリットは大きい。業界標準のOSやアプリケーションが動作するからだ。64ビットARMの量産も始まるが、既存の資産という点ではAtomに分がある。

 しかし、このカートリッジは、主にサービスプロバイダーが提供する専用ホスティングサービスやWebサービスのフロントエンドに適したもの。特にWebフロントエンドでは、小さなデータを大量に処理するため、多少非力でもより多くのプロセッサで処理する方が全体の性能は高まる。また、Hadoopのような分散処理にもノード数を増やせるため適している。

 なるほど、理にかなっているが、「特定の用途に最適化され、効率性が桁違いに優れたサーバ」というMoonshotの本領がさらに発揮されるのは第2弾、第3弾のカートリッジが出てきてからだろう。

 ビッグデータのより高度な解析には、もっとノード数の多いカートリッジとストレージだけのカートリッジの組み合わせが適しているワークロードもあるだろうし、至るところにビデオカメラが据え付けられた街の様子を考えると、画像をリアルタイムに解析したり、マッチングさせる用途も今後は増えてきそうだ。こうした画像処理や音声処理は汎用プロセッサよりも特定の演算処理を高速に行うDSP(Digital Signal Processor)が適している。

 これまでにもそうしたハイエンドサーバや画像解析装置はあったが、Moonshot Systemの狙いは、特定の用途に最適化され、効率性が桁違いに優れたサーバを業界標準のテクノロジーをベースに実現することだ。カートリッジにDSPを取り込めば、Moonshotシャーシの管理モジュール、アップリンクモジュール、電源および冷却ファンを共有できる。必要な部分だけをワークロードに合わせて専用にあつらえればよく、これまでの業界標準サーバの開発サイクルとは比較にならないスピードでイノベーションが進むに違いない。

 実際、テキサス・インスツルメンツは、ARMプロセッサとDSPを統合し、用途別にさまざまなSoCを提供している。こうした特定処理用途のSoCや、現場でプログラムできるFPGA(Field-Programmable Gate Array)を搭載したMoonshot Systemのカートリッジが登場するのもそれほど遠い日ではないだろう。

 「Moonshotは、業界を巻き込み、イノベーションを加速する全く新しいクラスのサーバ、それは地球のためのサーバ」(ガンティア氏)

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