クラウド市場制覇に向けたMicrosoftの深謀遠慮Weekly Memo

Microsoftが先週、「Windows Azure」サービスを提供するデータセンターを日本に設置すると発表した。この動きには同社のクラウド市場制覇への深謀遠慮がありそうだ。

» 2013年05月27日 08時00分 公開
[松岡功ITmedia]

日本にデータセンター開設を表明

 「今日は皆さんに、Windows Azureサービスにおける日本での投資をさらに拡大することをお伝えしたい」

 米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは5月23日、日本マイクロソフトが同氏の来日を機に都内ホテルで開いたメディア向けの講演でこう切り出した。

 バルマー氏の説明を皮切りに、日本マイクロソフトがこの日発表したのは、パブリッククラウドサービス「Windows Azure」の提供基盤となるデータセンターを日本国内2カ所(首都圏と関西圏)に新設する計画だ。

 同社によると、これまで同サービスの国内ユーザーの多くは、Microsoftがアジア地域の拠点としてきた香港もしくはシンガポールにあるデータセンターを利用してきたが、今回の計画が具現化すれば、国内のデータセンターも選択できるようになるという。サービス提供時期などについては、整備ができ次第発表するとしている。

 バルマー氏は今回の計画について、「日本のお客様のデータ統治権の保護とパフォーマンス向上を実現しながら、Windows Azureのすべての価値を提供していくため、当社としては日本市場への投資を引き続き継続していく」と明言。

 日本マイクロソフトの樋口泰行社長も「計画が具現化すれば、日本のお客様はデータやアプリケーションを、データ統治権を担保しつつ、国内で保持できるようになる。さらに首都圏と関西圏でのデータセンター開設により、国内でディザスターリカバリ構成を構築できるようになる」とユーザーメリットを説いた。

 樋口氏はさらに、今回の計画の具現化ととともにパートナー企業との連携強化にも一層努めていくことを強調した。同氏によると、Windows Azureは従来からのPaaSとしての機能強化に加え、今年4月よりIaaSの仮想マシンおよび仮想ネットワーク機能の正式運用も開始し、同日時点で国内48社のパートナー企業から対応表明を得ているという。

 このうち、Windows Azureの高品質なシステムインテグレーションを提供するWindows Azure Circleパートナーも同日時点で26社を数え、「Windows Azureサービスのエコシステムが着実に整いつつある」(樋口氏)と確かな手応えを感じているようだ。

Microsoftのスティーブ・バルマーCEO(右)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長 Microsoftのスティーブ・バルマーCEO(右)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長

Windowsによる市場制覇の“第2幕”へ

 Microsoftの今回の計画は、日本のユーザーにとっては大いに歓迎すべきことだろう。ただ、Windows Azureサービスの提供形態については、バルマー氏や樋口氏の説明を聞きながら、気になることが1つあった。

 富士通との協業関係である。富士通は2011年からWindows Azureベースのクラウドサービス「Fujitsu Global Cloud Platform FGCP/A5 Powered by Windows Azure」(略称、FGCP/A5)を提供している。この特別な関係をどうするのか。そう思っていたところ、樋口氏からこの点について次のように説明があった。

 「富士通との協業については、双方のサービスの価値を統合したような形で、日本のお客様により最適なクラウドソリューションを提供していく。さらに広範囲な関係へと進化していく方向で話が進んでいる。その内容については近々、両社で改めて公表したい」

 ここでMicrosoftと富士通のWindows Azureにおける特別な関係について説明しておこう。その関係とは、MicrosoftがWindows Azureのパートナー戦略として展開してきた競合他社にはないユニークな協業形態のことである。この話は筆者も以前から着目し、本コラムでも幾度か触れてきたが、改めてその経緯を簡略に示しておく。なぜならば、その先にMicrosoftの新たな戦略が垣間見えるからだ。

 まず、ユニークな協業形態とは、MicrosoftがWindows Azureにおいて富士通、さらには米HP、米Dellと戦略的提携を結び、同PaaSを運用できるシステム基盤を開発するとともに、3社のデータセンターからそのシステムを活用したクラウドサービスを提供できるようにしたことだ。Microsoftにすれば、Windows Azureサービスの運営そのものを委託する格好で、これは取りも直さず、クラウドサービスにおけるデータのあり方を根本から変えるものともいえる。

 Microsoftが3社と戦略的提携を結んだのは、Windows Azureの実行環境として同社が提供するアプライアンスを組み込む形になるPCサーバのグローバルシェアにおいて、上位を競うのがこの3社だからだ。さらに、3社とも自社のデータセンターのグローバル展開に注力している。その展開力が、MicrosoftにとってはWindows Azureを普及させる上で必要になると見ていたようだ。

 その中でも、MicrosoftはHPやDellに先行して、富士通との協業サービス展開を2011年6月に発表。両社の緊密ぶりが目立っている。ちなみに富士通の国内データセンターから提供されているFGCP/A5には、既に多くの顧客企業が名を連ねている。一方、HPとDellがWindows Azure関連事業を積極的に展開しているという話は、今のところ聞こえてこない。

 さて、こうした経緯があっての今回の動きである。推測できるのは、Microsoftが運営委託の協業形態を取りやめ、Windows Azureサービスの基盤はすべて自前のデータセンターで運営する戦略に転換しようとしていることである。その意味でも富士通との新たな協業形態が注目される。富士通のFGCP/A5は既に実績を上げているので特別扱いになるかもしれないが、「ユーザーのデータがどこに置かれるか」で協業形態のありようが見て取れるだろう。

 Microsoftにすれば、たとえ富士通を特別扱いしたとしても、それは今回のデータセンター開設と併せてあくまで日本市場への対応策にすきない。それよりも今回の動きは、Windows Azureサービスの基盤はすべて自前のデータセンターで運営することによって、グローバルなクラウド市場を制覇しようという同社の深謀遠慮の表れと見るべきではないか。それこそ、同社にとってはPC時代に続くWindowsによる市場制覇の“第2幕”の始まりだと。バルマー氏はそう考えているに違いない。

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