salesforce.comの勢いは続くかWeekly Memo

クラウドサービスで躍進するsalesforce.comの勢いは今後も続くのか。先週、同社の日本法人が開いたプライベートイベントを取材して確かめてみた。

» 2013年06月03日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

カスタマーカンパニーへ進化

 セールスフォース・ドットコムが5月28日、東京・六本木の東京ミッドタウンにおいて、プライベートイベント「Customer Company Tour 東京」を開催した。同イベントは、企業におけるクラウド、ソーシャル、モバイルなどの導入・活用支援に向けて、同社の最新ソリューションや事例を紹介するもので、世界の主要都市で実施しているという。

 基調講演で会場を歩き回りながら話す米salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEO 基調講演で会場を歩き回りながら話す米salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEO

 基調講演には、米salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEOが登場。会場を隅々まで歩き回りながら、張りのある声でエネルギッシュに語りかけるその姿は、以前にも増して磨きがかかっているように見受けられた。

 ベニオフ氏による講演内容は、すでに関連記事等で報道されているのでそちらをご覧いただくとして、ここでは2つのポイントに注目し、それらを踏まえてsalesforce.comの勢いは今後も続くのかどうかを確かめてみた。

 まず1つ目のポイントは、ベニオフ氏が最も強調したことは何か、である。その内容によってsalesforce.comの今後の方向性が見えてくるからだ。同氏が最も強調したのは次のメッセージだった。

 「私たちはこれからカスタマーカンパニーになっていかなければならない」

 カスタマーカンパニーとは何か。それを紐解く意味で、同氏はまずこう語った。

 「今、クラウドやソーシャル、モバイルといった技術革新が、企業のビジネス環境を大きく変えようとしている。では次に来る大きな変化は何か。それは技術ではなく、顧客に立ち返ること。つまり、企業が顧客視点を中心とした動きに大きく変わっていくカスタマー革命がこれから巻き起こる」

 同氏によると、カスタマー革命には、ソーシャルチャネルを活用して顧客との関係を築く「ソーシャル革命」、あらゆる場所から顧客にアクセスできる「モバイル革命」、顧客の本質的なニーズを見抜く「ビッグデータ革命」、顧客やパートナーとの関係を強化する「コミュニティー革命」、あらゆる企業がモバイルアプリケーションを開発する「アプリケーション革命」、ITの利用の仕方が変わる「クラウド革命」、顧客との信頼を獲得して対等な関係を構築する「トラスト革命」といった7つの要素があるという。

 そして、こうした要素を取り入れて顧客と新しい関係を築いた企業こそが、カスタマーカンパニーだとしている。

 さらにベニオフ氏は、「皆さんと同様、salesforce.comもカスタマーカンパニーになっていかなければならない。そのためにも当社のソリューションに対する皆さんの声をぜひ聞かせていただきたい」と、講演の中で幾度も訴えかけた。

オープンへの対応と収益確保が課題

 ベニオフ氏の話は実に巧みだ。同氏が語ったカスタマー革命における7つの要素に対し、同社はそれらを実現するソリューションをほぼ取り揃えている。そう考えると、そうしたソリューションを薦めるだけでよさそうに思えるが、同氏は自らもカスタマーカンパニーになるために「皆さんの声を聞かせて」と必死に訴え、そうして改良を加えたソリューションを提供することで、顧客も一層カスタマーカンパニーとして磨かれると説く。

 そこには、カスタマーカンパニーになるためには単なるテクニックだけでなく、お互いに「共生」しようという思いが不可欠との同氏の強い意志が感じられる。「皆さんの声を聞かせて」という発言は、今後の方向に不安を抱えていることの裏返しとも見て取れるが、筆者には同氏の講演がカスタマーカンパニーの“実演”のように映った。これこそ同氏のプレゼンテーションの真骨頂であり、salesforce.comの次なる勢いを生み出す原動力なのだろう。

 一方、同社については懸念される点もある。それが2つ目のポイントである「salesforce.comのソリューションは独自技術に基づいているので、ユーザーにとってはベンダーロックインを招く」との見方だ。中でも独自性が指摘されるのは、Force.comを中心としたPaaSの領域である。

 この指摘は、salesforce.comの勢力が大きくなってくるにつれて、とくに競合他社が声高に言うようになってきた。さらに、最近ではオープンクラウドが注目を集めており、同社への風当たりが一段と強くなってきているように見える。果たしてベニオフ氏はこの点について、どれほどの問題意識を持ち、どのように言及するのか。

 結論から言うと、ベニオフ氏はこの点について話題に取り上げなかった。一部PaaSに関するところで、「当社のプラットフォームは、JavaやRuby、Pythonといった幅広い言語に対応している」と、従来と同様の説明を行っただけだった。これまでは、どちらかというとオープンへの対応より独自技術によってユーザーの利便性を優先してきた同社だが、今後、例えばオープンクラウドとの連携をどのように図っていくのか。遠からず、ベニオフ氏が何らかの表明を行う時期が来るだろう。それはsalesforce.comの今後の勢いにも少なからず影響するとみられる。

 最後に、もう1つ懸念される点を挙げておきたい。業績についてだ。salesforce.comが5月23日(米国時間)に発表した2014年度第1四半期(2013年2月〜4月)の業績をみると、売上高は前期比30%増の8億9300万ドルと変わらぬ高成長ぶりを示した。

 ちなみに、2013年度通期(2012年2月〜2013年1月)の売上高は、前期比37%増の30億5000万ドルと、30億ドル台乗せを果たした。同社の高成長ぶりは誰しも認めるところだが、気になるのは2013年度通期で2億7000万ドル、2014年度第1四半期も6800万ドルの純損失を計上していることだ。先行投資や諸々のコストがかさんでいることが原因のようだが、これではクラウドサービスがビジネスモデルとして確立したとはいえない。

 かつては四半期ベースで10%近い売上高純利益率を記録した時期もあることから、今は売上高拡大が最優先の経営に徹しているとみられるが、クラウドサービス専業最大手としてどのように“儲かるビジネス”に仕立て上げていくか。この点も、salesforce.comの今後の勢いを左右するのは言うまでもない。

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