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» 2013年06月10日 08時00分 UPDATE

Weekly Memo:自前クラウドにこだわらないSAPの勝算

SAPジャパンが先週、クラウド事業戦略について記者会見を開いた。その中で、自前クラウドにこだわらないパートナー協業の姿勢を打ち出したが、果たして勝算やいかに。

[松岡功,ITmedia]

SAPが日本でクラウド事業を本格展開

 「SAPは日本でもクラウド事業を本格展開する」

 SAPジャパンの安斎富太郎社長は6月5日、同社が開いた記者会見で開口一番、こう語った。昨年来、クラウド事業に注力してきた親会社の独SAPが、インメモリデータベース「SAP HANA」を基盤としたPaaS戦略を今年5月に発表。これを受けて、日本でもクラウドサービスの本格展開を打ち出した格好だ。

 記者会見に臨むSAPジャパンの安斎富太郎社長(右)と馬場渉バイスプレジデント 記者会見に臨むSAPジャパンの安斎富太郎社長(右)と馬場渉バイスプレジデント

 安斎氏は、「SAPの製品はオンプレミス型というイメージが強いかもしれないが、リアルタイム経営を追求してきた当社にとってクラウドへのシフトは必然。グローバルではすでにSAPのクラウドサービスの利用者数が世界最多だと自負している」と強調した。

 SAPはこれまで、ERPの「Business ByDesign」をはじめ、CRMSCM、人事管理系などのアプリケーションを、主に中堅・中小企業を対象としたSaaS型サービスとして提供してきた。しかし、今後はすべての規模の企業を対象とし、SaaS型サービスとして提供するクラウドアプリケーションも「People」「Money」「Customer」「Supplier」といった4つのカテゴリの下に体系化し、業種を問わず自由に組み合わせて導入できるようにするという。

 また、これまでアプリケーションごとに異なっていた開発基盤も、SAPが今年5月に発表した単一の「SAP HANA Cloud Platform」に統一すると明言。SAP HANAをベースとしたSAP HANA Cloud Platformは、アプリケーションの開発・統合サービス、データベース・分析サービス、基本サービスで構成されたPaaSで、既存のオンプレミス型アプリケーションやクラウドアプリケーションへの拡張機能を統合・開発することも可能だとしている。

 SAPジャパンではこうしたクラウドサービスを日本でも本格展開するため、今年4月にクラウドファースト事業本部を新設。組織的なサービス強化や営業力向上を図っていく構えだ。同事業本部長に就いた馬場渉バイスプレジデントは、「日本の商習慣への対応をはじめとしたサービスのローカライゼーションにもしっかりと実施していく」との姿勢を示した。

水平分業型ビジネスに勝算

 記者会見で説明があったSAPのクラウド事業戦略の全容は、すでに報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここでは同社がクラウドサービスの提供形態として打ち出したエコシステム戦略に注目したい。

 馬場氏の説明によると、SAPのクラウドサービスの提供形態については、同社によるクラウド運営だけでなく、グローバルな地域や産業の特性を踏まえて多様なサービスを提供できるように、それぞれの条件に適合したパートナーと密接に連携しながら事業を広げていきたいとしている。

 ここで注目されるのは、自前のクラウドにこだわらず、パートナーにもSAPのクラウドサービスの運営を委託するという展開の仕方だ。グローバルレベルで競合する他のクラウドサービスベンダーもSAPと同様、エコシステムづくりに注力しているが、SaaSについては代理販売、PaaSについてもその上で開発するアプリケーションやそれを相互連携する場を提供する形で、基となるSaaSやPaaSは当のベンダーが自前のクラウドで運営しているケースがほとんどだ。

 では、なぜクラウドサービスベンダーは自前クラウドにこだわるのか。それは顧客と直接つながることで、いわゆる直販メリットが得られるからだ。データセンターをはじめとした投資はかかるものの、顧客の囲い込み戦略としては効果絶大だ。一方、顧客側も自らの業務データを信頼できるベンダーに預けることによる安心・安全や安定したサービス、迅速な改良といったメリットが得られる。ただ、ベンダーロックインの状態になる可能性がある。

 こうした中で、SAPは自前クラウドにこだわらない戦略を打ち出したわけだが、実は国内でもすでに実績がある。SAPと富士通が2010年4月に発表した協業では、SAPが提供するSaaS型情報分析サービス「SAP BusinessObjects BI OnDemand」の日本語版を共同開発し、富士通のクラウド基盤から国内市場に提供している。

 当時の動きについては、2010年4月12日掲載の本コラム『SAPが垣間見せたクラウド時代のパートナー戦略』でも解説しているが、その中ですでに「SAPはローカルの有力なデータセンターを活用しながら、同社ならではのクラウド時代のパートナー戦略を構築していこうという意図があるようだ」と記している。ということは、SAPは3年以上前からクラウドサービスの運営委託を展開していたわけで、今回の話もそうした延長線上にあるといえる。

 ただ、今回の話が興味深いのは、運営委託にPaaSが含まれていることだ。実はPaaSについては、米Microsoftが同社のPaaS「Windows Azure」サービスを富士通に運営委託しているが、先頃、同社が同サービスを提供するデータセンターを日本に設置すると発表したことで、富士通とは運営委託と別の新たな協業形態になりそうな気配だ。すなわち、Microsoftは自前クラウドにこだわっているのである。(関連記事:2013年5月27日掲載の本コラム『クラウド市場制覇に向けたMicrosoftの深謀遠慮』

 SAPが自前クラウドにこだわらない戦略を打ち出しているのは、アプリケーションベンダーという立場にも深い関係がありそうだ。アプリケーションベンダーには、馬場氏が言うように、地域や産業の特性を踏まえて多様なサービスを提供していくことが求められる。ただ、そうした多様なサービスの提供は、エコシステムの強化に向けて競合ベンダーも強調している。異なるのは、そのビジネス手法が垂直統合型か水平分業型か、だ。

 今のところ、グローバルで幅広い分野のクラウドサービスを提供するベンダーの中で、水平分業型を打ち出しているのはSAPだけ。同社はそこに勝算を見出そうとしているようだ。

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