有力ベンダーが打ち出したSDN新戦略Weekly Memo

SDNへの対応に向けて、有力ベンダーがこのところ相次いで新たな戦略や製品を発表している。各社の会見から興味深いキーワードをピックアップしてみた。

» 2013年06月17日 08時50分 公開
[松岡功,ITmedia]

Software Defined Environmentを打ち出したIBM

 国内最大規模のネットワーク技術の展示会「Interop Tokyo 2013」が先週、千葉県の幕張メッセで開催されたこともあって、その直前に有力ベンダーからネットワーク関連の新たな戦略や製品の発表が相次いだ。

 各社とも目玉にしていたのは、SDN(Software Defined Network)への取り組みだ。新技術にとどまらず、クラウドへの対応や企業のネットワーク環境の最適化を支援するソリューションの出展も目立っていた。

 同展示会のレポートや各社が発表した新製品などの内容については、既に報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここでは有力ベンダーが新たな戦略の発表などで開いた記者会見から、SDNの今後の方向性を探る上で興味深いキーワードを取り上げてみたい。

会見に臨む日本IBMの三瓶雅夫専務執行役員 会見に臨む日本IBMの三瓶雅夫専務執行役員

 まず取り上げたいのは、日本IBMが6月11日に開いたシステム製品事業の新製品発表会で初披露した「SDE(Software Defined Environment)」という言葉である。

 同社によると、SDEとは「変化し続けるアプリケーション処理の特性に応じて瞬時にかつ自動で最適なシステム資源を配置することで、ビジネスニーズに即応し、継続的なビジネス変革を実現するための新コンピューティングモデル」のことを指す。もっと簡単に言うと、「ソフトウェアによって構成を自動化する環境」だという。

 会見に臨んだ同社システム製品事業担当の三瓶雅夫専務執行役員は、SDEがもたらす価値として、これまで手作業で実施していたシステム構成を動的かつ自動的に行うことで変化に対して迅速に対応する「Agile」(俊敏性)、さまざまなワークロードを無駄なく最適なシステム資源に割り当てることで効率化を図るとともに、構築・運用・保守のコストを削減する「Efficient」(効率性)、OpenStackやOpenDaylightといったオープンなプロトコルに対応し、ハイブリッドクラウドの容易な構築とベンダーロックインから解放する「Open」の3つを挙げた。

 IBMが打ち出したこのSDEは、SDNの考え方をシステム全体に広げたもので、EMCやHPが掲げるSDDC(Software Defined Data Center)と同様のコンセプトだといえる。今後、非常に重要なコンセプトになると見られるだけに用語としての主導権争いも注目されるところだが、応用範囲が広そうな「Environment」という言葉を適用したところにこれまで幾多の用語を定着させてきたIBMのセンスを感じる。

IP電話が参考になるSDNの普及テンポ

 次に取り上げたいキーワードは、EMCジャパンが6月6日に開いた記者会見で説明した「SDS(Software Defined Storage)」という言葉である。

 会見に臨んだ同社の山野修社長はSDSについて、「ストレージをソフトウェアで制御することによって、物理ストレージを意識することなくアプリケーションごとに必要な容量を割り当てられるようにする。容量についてもストレージをプール化することでハードウェアを気にせず利用できるほか、運用もできる限り自動化することができる」と説明する。

会見に臨むEMCジャパンの山野修社長 会見に臨むEMCジャパンの山野修社長

 EMCはこのSDSのコンセプトとともに、これを実現する管理ソフトウェアを5月に米国で開催したプライベートイベント「EMC World」で発表しており、今回の会見で日本市場でもSDSの展開を強力に押し進めていくことを打ち出した格好だ。

 EMCグループではVMwareが中心となってSDDCへの取り組みを押し進めており、今回EMCが打ち出したSDSはVMwareのSDDCとシームレスな統合環境を構築することができる。この統合環境にアドバンテージを見出していこうというのがEMCの戦略である。

 最後に、キーワードではなく、キーパーソンがSDNの今後の行方について語った興味深い発言を紹介しておきたい。そのキーパーソンとは、米HPでネットワーク事業のグローバルマーケティングを担当するマイク・バニック バイスプレジデントである。

 Interop Tokyo 2013の基調講演のゲストスピーカーとして来日したバニック氏は、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)が6月12日に開いたメディアラウンドテーブルで、SDNの今後の普及テンポについてこんな見通しを語った。

 「SDNの今後の普及テンポについては、IP電話のこれまでの普及状況が参考になるとみている。IP電話は世の中に出回っておよそ15年になるが、現在では電話市場のほぼ3分の1を占めている。こうした動きに技術革新の加速を考慮すると、私の予測では、10年後にはネットワーク市場の3分の1がSDNベースになっているのではないかと見ている」

 SDNの今後の普及テンポについては、これまでキーパーソンと目される人物に取材を重ねてきたが、こうした見解を聞いたのは初めてだ。

 特にIP電話の動きが参考になるとの見方はユニークだ。ただ個人的には、10年後にはSDNが市場をもっと席巻しているのではないかとも思うが、読者の皆さんの見立てはいかがだろうか。

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