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» 2013年10月10日 08時00分 UPDATE

松岡功のThink Management:「One○○○」を掲げる企業の落とし穴

「One(ひとつの)○○○」。こんなスローガンを唱える経営者が今、増えている。○○○に入るのは会社名だ。だが、そこには経営者が陥りやすい落とし穴もあるようだ。

[松岡功,ITmedia]

「One MIZUHO」を掲げたみずほ銀行に問題発覚

 金融庁が9月27日、みずほ銀行に対し、暴力団員など反社会的勢力との取引を把握しながら2年以上、事実上放置していたとして、業務改善命令を発動した。立ち入り検査の結果、グループの信販会社などを経由した提携ローンで相当規模の不正取引が発覚。事後対応の不備も重なって行政処分につながった。

 金融庁はみずほ銀行に対し、経営責任の所在の明確化やコンプライアンスの強化、再発防止策などを盛り込んだ改善計画を10月28日までに提出するよう命じた。みずほ銀行は担当役員を含めた社内処分を検討しているという。

 今回の行政処分では、不正取引の内容とともに、その情報が担当役員止まりで頭取をはじめ他の経営陣には届いておらず、結果的に2年以上にわたって抜本的な取引の防止や解消策を講じてこなかったことが問題視された。だが、10月8日には一転して、頭取をはじめ他の経営陣にも情報が届いていたことがわかり、問題は一層深刻化している。

 本来ならば、経営陣が危機感を共有し、必要な対策を講じて自主的に公表すべきところである。そうならなかった背景には、3つの大手銀行が対等の立場で統合・合併したことから来る縦割り意識がある、との指摘もある。

 少々前振りが長くなったが、今回みずほ銀行のこの問題を取り上げたのは、最近、とくに大手企業の経営者が唱えるケースをよく見かけるようになってきた「One(ひとつの)○○○」というスローガンについて考察する良い機会だと考えたからである。

 みずほ銀行の持ち株会社である「みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)」では、今年度より「One MIZUHO」をスローガンに掲げている。テレビコマーシャルをはじめとして見聞きした読者諸氏も少なくないだろう。みずほFGはこのスローガンについて、次のようなメッセージを発信している。

 「One MIZUHOの旗印の下、〈みずほ〉としての存在意義や社会的使命を強く意識し、新たなグループ戦略を着実に推進することにより、お客さまの利便性を一段と向上させるとともに、グループガバナンスの強化とグループ経営効率の改善を図り、お客さまとともに持続的かつ安定的に成長し、内外の経済・社会の健全な発展にグループ一体となって貢献する総合金融グループを目指してまいります」

かけ声だけの経営者の認識不足が落とし穴に

 「One○○○」をスローガンとして掲げている企業は、業種業態が異なってもおそらく、みずほFGのメッセージと同じことを考えているだろう。しかし、今回のみずほ銀行の出来事は、このスローガンを実践することの難しさを浮き彫りにした。

 では、「One○○○」を実践することの難しさはどこにあるのか。いくつかのケースを見てきて感じるのは、このスローガンが、ともすれば経営者の空回りや自己満足の象徴になってしまいかねないことだ。

 どの企業でも「One○○○」を言い出すのは、たいてい経営者だ。しかし、経営者によっては「One○○○が大事だ」と力説するばかりで、具体的な取り組みを示さないケースも見て取れる。

 「One○○○」は、精神論だけでは実現しない。その取り組みは企業ごとで異なるだろうが、組織・人事・働き方の改革、事業の再構築、企業風土の醸成などといった内部的なものから、顧客をはじめとした外部との関係まで、企業を取り巻くすべてのものが対象になるといっていい。要するに、経営そのものである。

 その意味では、経営者がアクションを起こすべきことは多々ある。まず「One○○○」の目指すべき姿を明確に示し、それを自らが伝道師となって情熱をもって社員や顧客に訴えかけることだ。同時に必要な取り組みは迅速に実施していくことが肝要となる。

 「One○○○」に取り組む企業をしばらく時間をかけて取材して感じたことがある。当初は経営者だけが熱く語り、社員は現実とのギャップにしらけ気味の印象があった。が、そのうち経営者が語る目指すべき姿が少しずつ浸透し、具体的な取り組みによる効果も少しずつ見えてくるようになると、社員から「私もOne○○○の役に立ちたい」という声が上がるようになってきた。とりわけ若手社員から本音でこの言葉を聞いたときは、こちらが感動を覚えたくらいだ。

 だが、この企業も目指すべき姿からすると、取り組みはまだまだ道半ばだ。その企業の経営者は「One○○○の取り組みには終わりがない」とも語っていた。ここまで認識している経営者でも、どれだけの成果を示せるかはわからない。

 ただ、あらためて強調しておくと、「One○○○が大事だ」と力説するばかりで具体的な取り組みを示さない経営者に、このスローガンは絶対に達成できない。「One○○○」を掲げる企業にとっては、経営者のそうした認識不足こそがまさしく落とし穴である。

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