今回は、企業のグローバル化に向けて注目度が高まりつつある「ダイバーシティーマネジメント」について考察したい。
「企業にとってダイバーシティーへの対応は、人材獲得をめぐる戦いだ」
米IBMのジニー・ロメッティCEOは9月11日、日本IBMが都内ホテルで開催した同社設立75周年記念イベントのパネルディスカッションでこう語った。
企業のグローバル化に向けて、「ダイバーシティーマネジメント」への注目度が高まりつつある。
ダイバーシティーは日本語で「多様性」を意味する。多様な人種を抱える米国で生まれた思想を発展させたもので、人種に限らず、性別、年齢、学歴、民族、信仰、価値観、さらには働き方の違いなど、あらゆる多様性を積極的に受け入れることで、優秀な人材を幅広く確保し、ビジネスの成長につなげようという考え方だ。
企業活動においてダイバーシティーというと、人材管理の観点からダイバーシティーマネジメントの意味で使われることが多い。ダイバーシティーマネジメントは、多様な人材あるいは人材の多様性を生かすことができる組織の構築を目指す取り組みだ。その考え方の背景には、多様な人材あるいは人材の多様性を生かすことが組織の活力や創造性を高めることに貢献する、との前提がある。
人材の多様性については、大きく2つの類型に分けて議論されることが多いようだ。1つは人々が生まれ持った1次的属性(性別、年齢、人種、民族など)、もう1つは社会的に獲得された2次的属性(信仰、価値観、学歴、未既婚、家族構成、ライフスタイルなど)である。こうした多様な属性を持った人材が活躍できるような組織を構築し運営することが、ダイバーシティーマネジメントの課題となる。
日本でダイバーシティーマネジメントが重視されてきた背景には、経営のグローバル化によって日本とは異なる社会文化環境の下で事業活動を展開する必要性の高まりや、女性の活躍の場を広げる必要性などがある。
このダイバーシティーマネジメントについて、冒頭のように発言したIBMのロメッティCEOとともに、日本IBMの設立75周年記念イベントのパネルディスカッションに臨んだ日立製作所の中西宏明社長と、三菱東京UFJ銀行の平野信行頭取が、それぞれ自身の海外勤務などの経験をもとに見解を述べた。
まず、中西氏は「日本の企業にとってダイバーシティーへの対応は、経営をグローバル化するうえでますます重要な取り組みになりつつある。日本人は島国で単一の民族および単一の言語で育っていることから、ダイバーシティーに対する受け止め方や感度が、グローバルからみると少々偏っているというのが率直な印象だ」と語り、次のような見解を示した。
「ダイバーシティーへの対応は、組織を活性化させるうえでも個人が能力を発揮するうえでも非常に重要だ。単に外国語を話すだけでなく、ダイバーシティーにいかに柔軟に対応していくかを、日本人はこれから真剣に考えていく必要がある」
一方、平野氏は「日本でダイバーシティーというと女性の活用がクローズアップされがちだが、そろそろ次のステージに移るべきだ。それは端的に言うと、多様性が生み出す創造性に目を向けるということだ」と語り、次のような見解を示した。
「これからはGゼロ時代を迎えるといわれている。Gゼロとは、グローバルにおいてG7やG8、G20といわれる先進国や主要国の存在感が薄まり、すなわちリーダー不在になることを意味する。グローバルな環境がそのように変化する中で、企業として各国・地域の多様なニーズにいかに対応していくか。Gゼロ時代のダイバーシティーというのも今後、しっかりと意識する必要がある」
さらに、両氏が口を揃えて強調したのが、若い世代への期待だ。中西氏が「ダイバーシティーへ柔軟に対応できるようになるには、やはり経験が大事。とくに若い世代には、どんどん海外経験をさせて、単に海外に馴染むだけでなく、多様な考え方や習慣があることを肌で感じてもらいたい」と話すと、平野氏も「日本の企業にとって、ダイバーシティーへの対応は若い世代をいかに活用するかが非常に大事なポイントになる」と力を込めて語った。
こうした両氏の発言を受けるように、ロメッティ氏がこう話した。
「ダイバーシティーへの対応で最も求められるのはインクルージョン(受容)。つまり、あらゆる多様性を受け入れるということだ。さらに、もう1つキーワードを挙げれば、グローバルシチズン(地球市民)という考え方だ。グローバルシチズンという立場からいえば、ダイバーシティーは必然のものとなる。私の頭の中ではグローバルシチズンを目指すことが、ダイバーシティーへの対応と直結している」
日本の企業でグローバルシチズンを意識しているところは、まだほとんどないと言っていいだろう。ロメッティ氏の発言には、IBMの懐の深さを感じさせられる。企業のグローバル化は、すなわちダイバーシティーマネジメントへの取り組みといっても過言ではない。日本の企業にとっては、まさしくこれからが正念場である。
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