今回は、日本の競争力および日本企業の成長への処方箋をテーマにした興味深いレポートをいくつか紹介したい。
まずは日本の競争力についてのレポートから。世界経済フォーラムが9月5日に発表した「2012年版世界競争力報告」によると、日本のは総合ランキングは10位と前年から1ランク後退した。
ランキングの低下は2年連続で、財務の悪化に加えて、原子力発電所の停止状態が長期化して電力供給が不安定になったことなどが響いたという。
この調査の対象国・地域は144。首位の座はスイスが4年連続で堅持、米国は前年の5位から7位に下がった。アジア勢ではシンガポールが前年と同じ2位、香港が前年の11位から日本を抜いて9位に上がった。また、韓国が24位から19位に浮上し、中国は26位から29位に後退した。
ランキングは、国の競争力を生産性の観点から分析。マクロ経済情勢、金融市場、技術革新性などの分野について評価したもので、日本は発明性、製造プロセスの先進性、国内サプライヤー数などが首位となり、製造業の強さを裏付けた。
その一方で、政府債務残高の国内総生産(GDP)比が2年連続で最下位となり、原発の停止状態を踏まえた電力供給体制への評価が前年の17位から36位へと大幅に下がった。
世界経済フォーラムは各国の政官財の指導者が集まるダボス会議の主催団体で、競争力報告は1979年から発表している。
もう1つ、日本の競争力を経済の観点からみた分析について紹介しておきたい。一般財団法人 国際貿易投資研究所がまとめた世界各国のGDPをもとに、1995年と2010年における日本、米国、中国、ロシア、韓国のGDPの世界におけるシェアと、各国のGDPがその15年間で何倍になったかについて、日経新聞が9月9日付け朝刊の記事で言及していた。
それによると、15年間にGDPの世界合計は2倍になった。中国は8倍、ロシアは5倍に増えた。米国、韓国は2倍と世界全体の成長と同じ伸びだった。しかし、日本経済は15年前と同規模だったため、世界におけるシェアは18%から9%へと半減した。
日米のシェア合計も、日本の不振によって43%から33%に落ちた。それでも世界経済の3分の1を占める存在感があるといえるが、1985年にはこれが48%と半分に迫る勢いだったことから、日米の退潮は明らかで、とりわけ日本は独り負けだと指摘している。
こうしたレポートや分析からも日本の競争力低下は明らかで、とくに経済の停滞は深刻な状況にあることが分かる。ではどうすればよいのか。そこで紹介しておきたいのが、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が9月4日に発表した「Future of Japan〜成長への処方箋〜」と題したレポートである。
このレポートは、PwCが産官学から約60人のリーダーを選んで個々にインタビューし、日本と日本企業が直面している現実や日本企業が実際に取り組んでいる変革について話を聞いた内容がベースとなっている。
同レポートではまず、日本企業が世界で直面している4つの現実として、「アジアにおける強力なライバルの台頭と新興中産階級の拡大」「事業の複雑性と市場間の結び付きの増大」「多様なアイデアを活用した新たなイノベーションモデルの要請」「経済的な新陳代謝の衰え」といった点を挙げている。
そしてこれらの現実に対処すべく、日本の企業経営者が組織を変革し、今日の複雑なグローバル環境で成功を収めるために、同レポートでは次の4つのアプローチを提案している。
多様性を取り入れた組織変革/ガバナンス改革を推進する。
イノベーションを加速するため、社内起業制度や共創(コ・クリエーション)を通じて組織をオープンにする。
社員の教育訓練・報酬・ローテーション・昇進制度を変更する。
合併・買収活動(M&A)や直接投資、業務提携などの手段を通じ、より積極的に成長戦略に注力する。
この4つを順にもっと端的に言うと、「組織変革」「イノベーションへの適応」「人材育成」「成長戦略を描く」といったあたりがキーワードになろうか。
最後に、2番目の提案についての説明の一文が目に止まったので記しておきたい。
「自社の事業を外部の視点で鳥瞰する。自分がもし部外者だったらどうかと考えてみてほしい。あなたはパートナーとして簡単に自分の会社と協力関係を結び、適切な人材を見つけられるだろうか?」
まさに顧客あるいはパートナーの視点に基づく考え方だが、改めて肝に銘じておくべきだろう。
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