川崎重工の社長解任劇にみるガバナンスの要諦松岡功のThink Management

川崎重工業の社長解任劇が先頃、大きな話題になった。今回は、この問題でクローズアップされたガバナンスのあり方について考察してみたい。

» 2013年07月04日 09時05分 公開
[松岡功,ITmedia]

突然の社長解任劇はなぜ起きたのか

 いったい何が起きたんだ――。川崎重工業の社長解任劇のニュースを知って、そう感じた人が少なくなかっただろう。

 事の発端は6月13日。川崎重工は臨時取締役会を開いて長谷川聡社長(当時)ら3役員を同日付けで解任。また、同日まで正式に認めていなかった三井造船との経営統合交渉について、初めて事実関係を認めた上で「交渉を打ち切る」と表明したことから始まった。

 同日付けで後任の社長に就いた村山滋常務は記者会見で、異例の社長解任について「取締役会を軽視する行動があり、これ以上、業務執行体制の中核を担わせることはできない」と説明。経営統合交渉を推進してきた長谷川氏ら3人に対し、「適切なプロセスや判断過程を度外視する、経営統合ありきの姿勢に強い不信感を覚えた」という。

 具体的には、統合交渉に関する社内会議の議事内容を操作するなど反対意見を無視する行動があったとしている。全員が出席した臨時取締役会では、3人を除く全員が解任動議に賛成した。

 川崎重工と三井造船の経営統合交渉は、日本経済新聞が4月22日付けの朝刊で報じたことで表面化した。これに対して川崎重工は、「そのような事実はない」と否定し続けてきた。だが、長谷川氏らが解任された6月13日、「交渉の事実はあるが、何も決まっていない」と訂正。その上で交渉を打ち切って白紙に戻すことを取締役会で決めた。

 以上が今回の出来事のあらましだが、ガバナンスの観点からみて問題点が透けて見えたのは、6月26日に川崎重工が開いた定時株主総会での発言だった。神戸市内で開かれた総会には、今回の出来事について新経営陣から生の声が聞ける最初の機会とあって、同社にとって過去最多の1016人の株主が出席した。

ガバナンスに不可欠な説明責任

 総会では、新社長に就いた村山氏ら新経営陣が、解任した3人を除く取締役10人を選任する議案を提出し、長谷川氏らを解任して三井造船との統合交渉を打ち切ったことに対して理解を求めた。解任された3人は欠席。議長を務めた村山氏は3人を解任したことに触れ、「大変なご心配、ご迷惑をおかけしたことを心よりおわびします」と陳謝し、全役員が立ち上がって深々と頭を下げた。

 しかし、3人を解任した理由について村山氏は、6月13日の記者会見で語った説明を繰り返し、解任の手段を選んだ理由などは最後まで明らかにしなかった。とはいえ、今回の解任劇そのものについては、「当社の経営を正しい方向に導くべく、ガバナンスが機能した一場面だったと考えている」との見解を示した。

 確かに、トップの独断専行を止めることは、ガバナンスの重要なポイントだ。ただ、それも解任の手段を選んだ理由などを明確に説明してこそ、株主をはじめとしたステークホルダーの支持を得られるのではないかと考える。

 この解任劇もさることながら、今回のケースで筆者が最も注目したいのは、統合交渉の打ち切りについてのコメントだ。これについて村山氏は「メリット、デメリットを検討した結果、企業価値の向上につながらないと判断した」と語りつつも「詳細については、三井造船と守秘義務契約を結んでいるので言えない」と口をつぐんだ。

 コメント通り、守秘義務契約との絡みがあるのだろうが、解任劇も含めて今回の出来事の非常に大事なポイントは、統合が企業価値の向上につながらない理由を明らかにすることだと考える。

 さらに言うならば、もしその理由を明らかにできないのならば、三井造船との経営統合とは異なる方法で、どのように企業価値を高めていくのか。そのシナリオを明確に示すという説明責任もガバナンスの要諦ではないだろうか。

 その意味では、今回の川崎重工の社長解任劇は、ガバナンスと説明責任について深く考えさせられる格好の出来事だったといえる。

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