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» 2013年12月20日 08時00分 UPDATE

学生が開発した「自作クラウド」を全学生8000人向けに本格稼働 東京工科大の挑戦

東京工科大は来春、学内サーバで運用していた業務システムを全面クラウド化するのに合わせ、学生向けITサービスを“自作クラウドシステム”で本格稼働させる。システムを開発した学生と教授に取り組み内容を聞いた。

[本宮学,ITmedia]

 東京工科大学は2014年4月をめどに、同大の学生が開発したクラウドシステムを全学生8000人向けに本格稼働させる。インフラ構築からミドルウェア/アプリケーション開発まで学生自らが行い、Webブラウザ上で利用できるSaaS型サービスとして全学生に提供する計画だ。コンピュータサイエンス学部の田胡和哉教授が明らかにした。

 プロジェクトの顧問を務める田胡教授は「約10年前から開発を続け、ようやく『学生が作ったクラウド』と言えるほどのものになった」と話す。田胡教授とシステム開発に携わっている学生4人に、取り組みの内容を聞いた。

photo 上段が田胡教授、下段左からコンピュータサイエンス学部の水野さん、同大大学院バイオ・情報メディア研究科の山口さん、田中さん、古谷さん

「業務用サーバ全廃」のその裏で……教育向けシステムは学生が“手作り”

 「このシステムは、学内に唯一残るオンプレミスシステムになる」――田胡教授はこう話す。

 同大は来春、各種業務システムを運用していた学内の全サーバ(約100台)を全廃し、複数ベンダーのSaaS、PaaS、IaaSで構成されるクラウド型の業務システムに完全移行する予定(関連記事:東京工科大が「サーバ全廃」に踏み切った理由)。これに合わせて「教育系システム」と呼ぶ学生向けITシステムを新たに立ち上げ、学生が構築した“自作クラウド”から同システムを提供するという。

 だが、業務システムをパブリッククラウドに全面移行する一方、教育系システムだけを学内に残すのはなぜか。田胡教授は「大学の本業である“教育・研究”には最新のツールを使いたい。それを実現するためにはITベンダーのサービスを利用するのではなく、求めるシステムを自分たちで作るしかなかった」と説明する。

 自作クラウドで提供するのは「オブジェクトリポジトリ」と呼ぶコンテンツ管理システムや学生向けポータルサイト、出席管理システムなど。中でもシステム全体の中核となるオブジェクトリポジトリは、ファイルを保存する際にさまざまなメタデータやコンテンツの処理プログラムを合わせて保管することで、コンテンツの管理や検索、共有などを行いやすくする仕組みだ。

photo オブジェクトリポジトリへのアクセス画面イメージ

 同大はプレゼンテーションを取り入れた学習に注力しており、学生が自分の研究成果などをプレゼンする機会が多い。その内容はこれまで「1度限り」のもので終わっていたが、オブジェクトリポジトリを活用して画像や映像などのデータをクラウド上に保存することで、学生のプレゼン映像や研究成果などを学内で幅広く活用できるようになると田胡教授は見込む。

システムのフロントからバックエンドまで学生が構築

 自作クラウドは、ハードウェアの選定を含むインフラ構築や、クラウド上で稼働するミドルウェアや各種サービスの開発などを全て学生が担当。コンピュータサイエンス学部と修士課程の学生が中心となり、約10年にわたって各世代の学生が引き継ぎながらクラウドシステムを構築してきたという。

 インフラ環境の構築・運用を現在「ほぼ1人で担当している」という同大大学院バイオ・情報メディア研究科の田中遼さんは「システムにアクセスする人数が多いので、それに耐えながらスケーラブルに負荷を分散できる構成になるよう工夫した。いろいろな本を参照しながら『こういう構成にしよう』と自分で決めてシステムを構築している」と話す。

photo 田中さんはインフラ構築・運用をほぼ1人で担当。「システムがダウンした時に気づいてから復旧させるのでは遅いので、自動復旧スクリプトなども駆使して絶対にシステムを止めないよう気をつけている」と話す

 主なシステム構成としては、さまざまなベンダーのサーバやストレージ、ネットワーク機器などを組み合わせて採用。総容量数十テラバイトに及ぶストレージを用意するほか、ファイバチャネルベースのRAIDを構成し、その上でオープンソースのNoSQLデータベース「MongoDB」とオープンソースのWebサーバ「nginx」を稼働させている。こうした仕組みにより、オブジェクトリポジトリで必要となる各種メタデータ処理を高速に行うという。

 また、サーバ間通信にはInfiniBandを使って各マシンをクラスタ化することで「8000人の学生が同時に動画や画像をアップしても耐えられるスループット」を実現するという。さらに、サーバ負荷の一部を外部のIaaSにオフロードできるように、必要に応じてサーバのデータを転送する機能を備えた“ハイブリッドクラウド”方式を採用している。「大学が信頼して使えるレベルのサービス品質になっている」と田胡教授は言う。

 サーバ側だけではなく、システムのフロント側でもさまざまな工夫を図っている。オブジェクトリポジトリを構成するミドルウェアを担当しているコンピュータサイエンス学部の水野拓さんは「保存したデータをユーザー側のアプリケーションからうまく使えるように工夫しながら開発している」と話す。

 また、各種サービスのハブとなる学生用ポータルサイトの開発では「最大8000人が利用できるシステムにするため、フロント側でできるだけ処理をしてサーバ側の処理を軽くする仕組みを採用した」(同大大学院バイオ・情報メディア研究科の山口湧太さん)という。「技術的には、PCのローカルストレージでも可能な限りデータを保持する仕組みを最大限活用している」と同研究科の古谷文弥さんは話す。

photo サーバルームは約10年前から「先代のシステムのいいところを引き継ぎつつ“壊しながら”拡張してきた」(田中さん)という。向かって左側のラックが現在使用しているシステムだ

 同大は来春のシステム本格稼働に向け、自作クラウドの開発にラストスパートをかけていく構えだ。「こうして自分たちが使うシステムを自ら開発・運用することで、学生の教育にもプラスになるし、サービスの提供を通じて重要な研究テーマの発見にもつながるだろう」と田胡教授は話している。

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