消費税8%と振込手数料の意外な事情萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(3/3 ページ)

» 2014年03月07日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

アベノミクスで変化球

 安倍政権は、消費増税とセットで小さな(というとお叱りを受けそうだが)減税を打ち出した。その1つが、この印紙税の非課税範囲の拡大である。具体的には、今までの「3万円基準」が「5万円基準」になった。今まで例えば、3万5000円の振込について金融機関が負担していた印紙代200円が無くなる。

 3〜5万円の範囲の振込は、個人レベルではかなり多い。実際に筆者の振込の明細を見てみると、数枚あった。ある出版社への振込が3万5000円で、振込手数料420円と記載されている。たぶん雑誌か何かの購入代だったと思う。

 さて、金融機関が4月以降の手数料変更についてWebサイトに記載しているかを見てみると、前述の通りまだ表明していない金融機関は多い。調べた範囲では9割の金融機関が、「3万円基準」のまま消費税5%が8%になるとしていた。だが任意で決められる手数料なので、幾つかの金融機関では「5万円基準」となっていた。

 誤解のないようにお伝えすると、筆者は「3万円基準」を非難するわけでない。それは、右にならえの感覚では無く、一人前の企業として検討した結果での3万円基準なら全く構わないと思う。

 ただし多くの一般の方は、一部の金融機関がなぜ「5万円基準」にしたのかという経緯を知らない。3万円基準のままの金融機関では「消費税が8%になるから手数料を引き上げる」としているのに対し、5万円基準の金融機関ではその他にも「印紙税法の改正」を理由に挙げて、5万円基準にしている。

 一見筋が通っているように映るが、仮にこの説明を盲目的に信じるとすると、3万円基準のままの金融機関は、いかにも「印紙税法を無視して手数料だけアップした」と思われかねないだろう。消費者にとって良いことをしているだけに、5万円基準に変更した金融機関はもう少し表現を工夫した方がいいと老婆心ながら思う。

 一般の利用者からみると、振込の選択肢はますます広がるだろうと感じている。そして金融機関が独自で決めた手数料について、自分のライフスタイルにあった金融機関を選択するのが、今後賢い利用者になってくる。

 まとめると、「消費税率がアップしたので振込手数料もその分アップします」という説明は、半分は正しい。しかし、印紙税という黒子の部分を考慮するなら、この税制改正の結果として、振込手数料が逆に低くなるケースもあることは知っておいて損のない事実である。5万円基準になる金融機関においてATMから4万円を他行あてに振り込むと、3月までは630円だが、4月以降では432円となる。1件の振込で198円もお安くなるのだ。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


関連キーワード

金融機関 | 手数料 | 消費税


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ