出張・経費管理システムの理想形Weekly Memo

SAPジャパンが先週、出張・経費管理のクラウドサービスを発表した。これを機に、企業システムにおける出張・経費管理の理想形について考えてみたい。

» 2014年03月24日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

SAPが新クラウドサービスを提供開始

 「企業の出張・経費管理システムは今後、クラウドサービスの利用が一気に広がっていくだろう」

 SAPジャパンの馬場渉バイスプレジデント クラウドファースト事業統括本部長は3月20日、同社が開いた出張・経費管理のクラウドサービスの発表会見でこう語った。

会見に臨むSAPジャパンの馬場渉バイスプレジデント クラウドファースト事業統括本部長 会見に臨むSAPジャパンの馬場渉バイスプレジデント クラウドファースト事業統括本部長

 新サービスの名称は「SAP Cloud for Travel and Expence」(日本版)。出張者の業務を簡便化し、企業の出張プロセスの効率化を図ることを目的としたもので、同日から提供を開始した。

 新サービスは、モバイルデバイスで出張管理を行えるよう開発されており、インメモリデータベース「SAP HANA」上で動作するため、迅速なデータ処理を行うことができる。

 機能として注目されるのは、SAP ERPアプリケーションとの自動連携機能を備えていることや、企業内ソーシャルメディア基盤「SAP Jam」との連携によって効果的なコラボレーションが可能なことだ。さらに、オンライン予約ツールなどの外部システムとも柔軟に連携させることができるという。

 また、操作性においても、各フィールドに「必須」「任意」「非表示」のフラグを設定できることから、出張者はより高精度のデータに基づき、簡単に重要なフィールドの優先順位を決定し、旅費を請求できる。さらに、項目の明細作成・処理、マイレージの申請、承認時の添付書類管理、各種添付書類の閲覧、旅費報告書の回収を自動で行えるとしている。

 馬場氏は企業における出張・経費管理のIT化について、「日本ではまだあまり浸透していない領域だが、海外では Travel and Expence(T&E)市場としてすでに確立されている。個々の金額が小さく作業も面倒だが、このコストは企業にとって人件費に次いで2番目に大きく、IT化によって効率化できる余地は非常に大きい」と話す。

 同氏によると、財務管理分野のコンサルティング企業である米PayStream Advisorsが実施した調査結果から、「手作業による経費精算作業を完全に自動化すれば、コストを半分以下に抑えられることが分かった」としている。

リアルタイムマネジメントの実現に向けて

 さらに馬場氏は冒頭の発言のように、企業の出張・経費管理システムは今後、クラウドサービス化が一気に進むという。

 「現在、アプリケーション関連のクラウドサービスではCRM市場の規模が最も大きいが、同分野はクラウド化がほぼ浸透したこともあり、このところ成長は鈍化しつつある。そこで今、CRMに次いでクラウド化への急速な伸びを見せているのが、人事関連と出張・経費管理を含む支出管理の2分野だ」

 「特に経費精算においては、固定的な支出を扱う経理そのものは基幹システムで管理するものの、今回発表した出張・経費管理の領域ではいわば“基幹システム未満Excel以上”が求められる。それこそ、まさしくクラウドサービスを利用するのが最適な選択だ。当社はこれまで日本で、こうした経費管理についてオンプレミスで展開してきたが、今回の発表を機にクラウドサービスの普及を強力に推進していきたい」

 出張・経費管理の領域は、グローバルで大きなシェアを持つSAP ERPとの自動連携が図れるだけに、同社にとってはもともとアドバンテージがあるといえる。そのクラウドサービス推進の陣頭指揮を執る馬場氏に、この機会に聞いてみたかったことがある。それは、企業システムにおける出張・経費管理のあり方である。というのも、筆者がこれまで取材してきたユーザー事例の中で、企業システムにおける出張・経費管理のあり方として理想と感じた仕組みがあるからだ。

 それは、ワークフローとスケジューラーをフロントエンドにした仕組みだ。申請・承認・決裁といった業務の流れをつかさどるワークフローと、従業員の動き(移動)がわかるスケジューラーを連動させれば、まさしくリアルタイムで不正のない出張・経費管理ができるようになる。

 そこで、会見の質疑応答でそうした筆者が抱く理想形についての見解を聞いたところ、馬場氏はこう答えた。

 「まさにそういう方向に進むべきだと思う。さまざまな業務処理をIT化する際、多くの場合は従来の処理方法をそのままIT化しようとするが、もっと効率を上げるためには処理方法そのものを見直す必要がある。その点、今回の新サービスでもさまざまな連携機能を駆使することで対応できるようにしている」

 馬場氏のこのコメントからすると、SAPも今後こうした方向を模索するようだ。改めて筆者が抱く理想形を強調しておくと、本当にリアルタイムマネジメントを実現するならば、出張・経費管理のIT化においてはワークフローやスケジューラーでの情報入力が起点になるべきである。

 出張・経費管理のリアルタイム化は、紛れもなく経営改革そのものである。そこへ向けてSAPのクラウドサービスが今後、どのように進化していくのか、大いに注目しておきたい。

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