“サービス停止=損失”の状況下でもクラウド移行をした理由削減効果は2300万円!〜ベルメゾンクラウド移行事例(1/2 ページ)

ECサイト「ベルメゾンネット」をクラウドへ移行した千趣会。売上の屋台骨である同サイトをクラウドへ移行した理由とは? 同社に聞いた。

» 2014年07月31日 14時30分 公開
[大津心,ITmedia]

 “ウーマンスマイルカンパニー”を標語に、ブラジャーから北欧家具まで女性向けに特化したカタログ通信販売で大きな支持を得ている「ベルメゾン」。従来のカタログ販売から販路を広げ、現在ではオンライン販売が最大の販路となっている。

 ベルメゾンを運営する千趣会は、この主力販路であるベルメゾンネットをクラウド環境へ移行した。同社はどのような経緯でビジネスの生命線であるECサイトのクラウド移行を決めたのか、反対や心配はなかったのか、同社の情報システム部を務める千趣会 経営企画本部 情報システム部 システム管理チーム マネージャー 中島健氏と同 参事 溝口誠氏の2名に背景を聞いた。

「寒くなったら服買わなきゃ!」の女性心理

中島氏写真 千趣会 経営企画本部 情報システム部 システム管理チーム マネージャー 中島健氏

 筆者のイメージに反して同社の歴史は長い。こけし人形の頒布販売業として1955年に創業し、カタログ「ベルメゾン」も1976年創刊で40年近い歴史を持つ。同社の転機は1990年代後半。当時実施した石田純一主演のテレビCMが好評でメインターゲットである30代〜40代女性の心を鷲掴み、シェアを一気に拡大した。その後、2000年にはインターネット販売サイト「ベルメゾンネット」を開設。以後、インターネット販売の売上割合は増え続け、今でも年率20〜30%の割合でアクセスが増え続けているという。

 同社の主な販路は「電話」「FAX」「ハガキ」「インターネット」の4種類。FAXとハガキは減少しており、その分インターネットの割合が増加している。電話も引き続き根強い支持を集めており、減少傾向ではないという。

 同社のビジネスは繁忙期と閑散期に明確な差があるという。

 この点について、中島氏は「年間のピークは秋口となる9月末〜11月です。次いで春ですね。いわゆる寒くなってきたり、暖かくなる衣替えの時期です。特に秋口は寒くなってくると、女性は『寒さに備えて服を買わなきゃ、着る服がない!』と考え、需要が急増するようです。ECでは、『高負荷状況でサイトが重い』や『カートから決済に遷移しない』など、サイトレスポンスの悪さが即売り上げの機会損失につながるため、サイトレスポンスには非常に気を使っています。閑散期と比べると秋の繁忙期はアクセス数が3倍程度になるため、ピーク時期のリソース管理は以前から重要な課題でした。基本的に毎年20〜30%でアクセス数が増加するため、毎年秋前になるとピークを予想してサーバーを増強するなどして対応していたのです。それでもリソースが足りない場合には、ロードバランサーでWebサーバーへの入り口を絞り、アクセス数を制限していました。しかし、アクセス制限も機会損失です。最後の手段にしたかった」と同社独自の事情を説明した。

 このように、オンプレミスでサーバー構築をしていた時代には、「サイトレスポンスの悪化が機会損失につながるためピークは高目に設定したい、でも閑散期にはそのリソースのほとんどが無駄になってしまう」というジレンマを抱えてサイト構築を行っていた。

経営陣説得の決め手は「800〜3000万円のコスト削減効果」の見積もり

溝口氏写真 千趣会 経営企画本部 情報システム部 システム管理チーム 参事 溝口誠氏

 同社のシステム環境を大まかに分類すると、「社内向けシステム」「Webサーバー」「アプリケーションサーバー」「基幹システム(DBシステム)」の4種類。従来は全てオンプレミス環境で構築しており、約500台にまで増大していた。特に基幹システムは、IBMのメインフレーム向けOSである「z/OS」上にスクラッチ開発したシステムだったため、この基幹システムをベースにシステム構成が考えられていた。

 当初はこれらの環境をオンプレミスのまま、仮想化してサーバーを集約する方法を検討していたが、IBMが提供するパブリッククラウドサービス「IBM MCCS(マネージド・クラウド・コンピューティング・サービス)」を知り、クラウドへの移行を検討し始めたという。IBM MCCSの特徴は、クラウドサービスと共に運用のアウトソーシングサービスもIBMが引き受ける点だ。運用の大部分を任せられるため、ユーザー企業側は企画等の本業に集中できる。

 とは言え、同社ビジネスの約6割を支える屋台骨であるECサイトをクラウドへ移行する不安はなかったのか?

 その点、溝口氏は「クラウドへ移行するデメリットはまったく見当たらなかった」と言い切る。

 「従来から運用はIBMにアウトソースしていたので、インフラがオンプレミスかクラウドか、の違いだけで、大きなリスクは考えられませんでした。逆にメリットは、コスト削減効果に加えて、懸念だったスケールアップによるピークコントロールができるようになる点が非常に魅力的でした」(中島氏)

 経営陣の説得も特に難しくなかったという。「当然、サイト停止のリスクや、セキュリティ面も懸念していましたが、リスクが少ないことを説明し、さらにコスト削減効果を見積もったところ、『800〜3000万円弱の削減効果が見込める』と出たので、迅速に決済されました(笑)」(溝口氏)。

 しかし、クラウド移行の決め手になった理由は、コスト削減効果だけではなかった。クラウドならではの「スケールアップ」にこそ、最大の魅力を感じていたという。

 前述のように、同社は閑散期と繁忙期の間に大きなトラフィック差があった。オンプレミス環境では、ピーク時に合わせなければならなかったシステムリソースは当然閑散期には休眠状態で無駄になる。その点、従量課金制のMCCSの場合、ベース契約の4倍バーストまでは無料で使用でき、契約変更のみで即座にスケールアップできるため、ピークに合わせたハードを調達する必要がなくなり、普段の維持コストを大幅に削減できた。

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