IoT領域では「情報と制御」の両軸で勝つ――日立 情報・通信システム社の齊藤社長

IoTやソーシャルイノベーションの市場には国内外のプレイヤーがひしめきつつある。しかし「Information」と「Operation」ともに価値を提供できるのはグローバルで見ても日立グループくらい――というのが同社の主張のようだ。

» 2015年01月22日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 2014年11月19日(現地時間)、日立製作所(日立) 情報・通信システム社は、ITソリューションの見本市と位置づける「Hitachi Innovation Forum 2014 Singapore」を開催。同イベントは国内では実施を重ねているが「海外で情報・通信システム社がイベントを主催するのは、初めてのこと」(同社広報)という。

 なぜ今、東南アジアで実施するのか? そのカギは、日立自身が自社の強みをどのように把握しているかにあるようだ。情報・通信システム社のカンパニー長を務める齊藤裕社長に、シンガポールの地で話を聞いた。

――企業ITを取り巻く現状をどのように考えていますか。

日立 情報・通信システム社の齊藤裕社長

 過去、IT導入の決定権を持っていたのはビジネスを主管する部門(事業部門)でした。この時代のIT部門は、あくまでも事業部門のサポート部隊という位置づけだったため、システムはサイロ化していきました。

 近年では「クラウド」や「サービスとしてのIT」という考え方が一般化し、IT部門は事業部門の課題に対してソリューションを提供するという存在に変わりました。それにより、サイロ化されたIT基盤の標準化も進んでいます。

 そして現在、あらためて事業部門が独自にITを活用する流れが生まれています。「ビジネスに貢献するIT」という考え方です。しかし昔と今とは状況が異なります。事業部門が各部で物理サーバを立てたりパッケージソフトを導入したりしてサイロ化するのではなく、ソフトウェアをサービスとして利用するようになりました。

――確かにITを検討・購買する役割を、情シスだけではなくビジネス部門も担うようになっています。

 はい。先にお話しした通り、近い状況は昔にもありました。繰り返しますが大きな違いは「サイロではない」ということです。

 日本企業の強みは個別最適にあります。現場がノウハウを持っており、ボトムアップで業務を改善できる。各部門がPDCAを回す方法で、結果をだしてきました。

 こういった強みをITで最大化するにはどうするか。それにはCIOが、個別のITインフラをデザインするのではなく、ビジネスプロセスのグランドデザインを手掛ける必要があります。これができるかどうかで、企業成長が左右されると言っても過言ではありません。業務部門主導でITを活用するという流れは昔と似ているが、ビジネスプロセスそのものをITが定義する――これこそが、過去と現在の違いです。

――日立の社会イノベーションのビジョンは、インフラ産業など既存事業をITと掛け合わせてシナジーを生み出すものと理解しています。ITとインフラ、両方の事業を手掛ける側としての思いをお話しください。

 社会イノベーションは、人の生活をより良くするものです。例えば鉄道はいい例ですね。新幹線や車両、運行管理システム、ICカード、みどりの窓口まで、人が活動する中で必要となる仕組みをトータルに日立が支えている。これがわれわれの社会イノベーション事業です。「俺たち、いいことやっているじゃないか」という認識を日立自身が持ち、もっとその価値を世の中にもたらしていかなければなりません。

 そこでは「情報と制御の融合」がカギとなります。

情報と制御を融合することで、経済成長や社会問題の解決が図られる(Hitachi Innovation Forum 2014 Singaporeでの齊藤社長の講演より)

 例えば電力会社のコア事業は「発電」です。発電を止めるわけにはいきませんよね。ITベンダーが電力会社システムを手掛ける場合には、この重みを、言葉ではなく肌で理解する必要があります。

 「自分たちはITベンダーだから、ITのレイヤーだけ責任を持てばよい」という考え方もあるでしょう。しかし、顧客のコア事業の制御系まで信頼性を担保する日立は、意識レベルを競合の二段階は高い所に置いていると自負しています。顧客の事業は、ITのように「壊れたら交換する」というわけにはいかないのです。「社会システムをITで合理化する」というのなら、ここまで責任を負わなければなりません。

IT(情報)とOT(制御)を担えるのはグローバルで日立だけ

講演中のビンセント氏

 イベントに出席したHitachi Data Systemsのネビル・ビンセント氏(アジアパシフィック地域のGeneral Managerの立場にある。)は「日立はグローバルカンパニーの中でも特にユニークな存在だ」と話す。

 何が日立をユニークな存在にしているのだろうか? それは「Operation Technology(制御技術)」なのだという。

 実際日立は、電力/交通/ヘルスケアといった各領域で事業を行っており、その事業をオペレーションするノウハウを持つDomain Expert(専門家)を抱えている。これはITベンダーの業務コンサルにありがちな「固定化された過去の知見」ではなく、日立自身が事業を担いながら日々更新している最新の「制御技術」になる。

IoTの実現につながる「ITとOT」を提供できるのが、日立の競争力の源泉だという(Hitachi Innovation Forum 2014 Singaporeでのビンセント氏の講演資料より)

 「日立がグローバルで競合する企業、例えばIBMは制御技術を持っていないし、GEやシーメンスはITを持っていない。Information TechnologyとOperation Technologyをワンストップで提供できるのはわれわれだけだ」(ビンセント氏)

――情報と制御を融合し、高いレベルで信頼性を保証する。このことは日立の顧客にも理解されているのでしょうか。

 はい。支持されているという実感があります。ITだけ、あるいは業務だけではなく、ビジネス全体をどうすべきかのグランドデザインを語れるのが日立です。例えば製造業であれば、モノを作るところ、動かすところから理解しており「そこはお客さんのビジネスの話ですから日立は責任を持ちません」と逃げるとうなことはありません。

 自分たちのコア業務から理解した上でITを提案するベンダーというのは、われわれの顧客にとっても新鮮なようです。顧客の業務部門から「話が通じるヤツを連れてこい」と言われたらその要望に応えます。IT分野に限れば強いベンダーは多いでしょうが、現場業務のオペレーションまで入っていけるベンダーはそう多くありません。

 そして今、ITはビッグデータそしてIoT(Internet of Things)を実現すると言われています。この領域では情報と制御を一元化できるベンダーが、本当の力を持つことになるのです。

 日立グループとしては、2013年におよそ9900億円だったアジア地域(中国を除く)の売り上げを、2015年にはおよそ1兆3000億円に伸ばす計画です。

現地企業を顧客とする案件が増加

 アジア地域(中国を除く)でのICT事業を統括する、日立アジアの梶芳光寿氏によると、2011年までは現地企業とのITビジネスはゼロに近かった(つまり、日系企業とのビジネスが大部分であった)というが「感覚的な数字として聞いてほしいが、その後2012年には全体の1割、2013年には2割と着実にローカルビジネスの比率が伸びている」(梶芳氏)という。2014年は3割に届く推移だとしており、「いずれは日系企業、ローカル企業の取引比率を半々にしていきたい」と話す。

 情報と制御が融合し、より良くなった世界はどのようなものでしょうか? 象徴的にはスマートシティです。まずはこのアジア地域(中国を除く)で「どん」とスマートシティに取り組みます。

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