ITとインフラの融合で「Business to Society」へ――日立のソリューション戦略を聞いた

インフラ事業まで含めたソリューション化をグローバルで推進する日立。そのエンジンとなる社会イノベーション・プロジェクト本部でソリューション推進本部長を務める阿部淳氏に戦略を聞く。

» 2013年07月31日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 「日立は技術力の企業。加えて変革を起こし成長して、それをグローバルに展開するということです」

日立の社会イノベーション・プロジェクト本部でソリューション推進本部長を務める阿部淳氏

 日立の社会イノベーション・プロジェクト本部でソリューション推進本部長を務める阿部淳氏は、同社が掲げる2015年までの中期計画についてこう語った。いわゆる「リーマン以降」の経済状態を踏まえて策定された2012年までの前中期計画は「リカバリ」に主眼が置かれていたというが、今後は「イノベーション、グローバル、トランスフォーメーション」が同社の事業で核になると理解できよう。

 マクロな社会トレンドとして「所有から利用へ」といった消費スタイルの変化や、新興経済地域の台頭による経済圏の拡大などが挙げられるなか、阿部氏は、(社会における)サステナビリティが重要なキーワードになると見る。具体的には、老朽化した社会インフラを更新したり、少子高齢化に対応したコミュニティを築いたりといった具合だ。

 これは簡単なことではない。日立が「持続可能な社会」を支えるため、グループでビジョンを共有し、事業化するまでをどのような作戦で進めるのか。同社の東南アジアにおける事業拠点、シンガポールの地で阿部氏に聞いた――。

マーケットは「ビジネス トゥ ソサエティ」

阿部 われわれの中期計画において(イノベーション、グローバル、トランスフォーメーションという)ビジョンを実現するためのソリューションに「サービス」を掲げています。従来、日立のサービスとは、販売したプロダクトを保守・運用することを指していました。それに加えてクラウドベースのサービス基盤に力を入れます。

 具体的には、「収集したデータの分析を通じた知識化」を顧客に提供します。そのために「コンピュータを単品で買ってください」というアプローチではなく、プロダクトアウトではないソリューションオファーを軸にします。顧客から見た場合には「One Hitachi」になるということです。もちろんそれは、世界各地域のニーズに応えられるオファーとなります。

 これまでは製品によって市場が定義されており、BtoBやBtoCという切り分け方をしていました。しかしこれからはBtoS、つまり「ビジネス トゥ ソサエティ」がわれわれのマーケットになります。

 わたしは、まさに社会イノベーション事業を推進する立場にあります。そのベースは、研究開発とプロダクト事業を徹底的に強化することです。合わせてサービス事業は、保守運用だけでなく、経営支援サービスにまでその領域を広げます。

 経営支援と言うと大上段に構えるようですが、その心は「お客さんと一緒に悩み、知恵を出し、場合によっては彼らが気付いていない課題まで見出す」ということです。BI(ビジネスインテリジェンス)の活用も軸になります。知恵を出すには、データの収集と分析を行いその先の経営支援策立案につなげなければなりません。

 ここまでの話を今時の言葉に置き換えると「ビッグデータ」になります。サービス事業の売上は、現在の30%から、2015年度には40%に高める計画です。自然増だけでは、このような成長は期待できないでしょう。ここには経営の意思を込め、変革し、成長するということです。

ITとインフラの融合がグローバルな成長をもたらす

 グローバルにビジネスを展開する上で肝に銘じる必要があるのは、「国や地域によって求めているものが違う」ということです。当たり前のようですが、スマートエネルギーを求めている国もあれば、水資源が不足している地域もあります。ヘルスケアに課題を抱える国もあります。ニーズを正しく理解しなければ、いくら「サービス」と言っても始まりません。

 そのため、ここ数年で研究開発拠点のグローバル化を急速に進めました。日本人中心のR&Dではなく、ナショナルスタッフを取り込んで地域に根差した研究開発を行います。またわれわれの研究開発部隊は、顧客の中に入っていく体制をとります。海外のスタッフも、現在の約12万人から3年以内に15万人まで増やす計画です。

 わたしのソリューション推進本部には、インフラと情報(IT)を横断的に融合し、ビジネス化するというミッションがあります。従来、属人性の高いビジネスだったインフラ事業も、ITやセンサーでカバーしていくことが重要になります。

 例えば東南アジア地域には一時的に電圧が急下降する「瞬間停電」という現象があります。こういう課題をITベンダーの視点だけで解決するのは難しいのですが、日立なら「非常用電源と自然エネルギーの組み合わせ」というソリューションを提案できます。

 またインドの工業地域では水の確保が課題ですが、われわれの場合は「工業用水をリサイクルする仕組みに水力発電の機能を加え、さらにITでモニタリングする」というソリューションをワンストップで実現可能です。

 こういったグループ横断のエンジニアリングは今に始まったことではなく、およそ50年前から実施しています。電力や鉄道といった領域のビジネスには、縦割りの組織だけでは対応できませんから。

 例えばJR東日本の東京圏輸送管理システム(ATOS)や、グローバル調達VANとして15年を超える実績があるTWX-21などはその成果と言えます。日立くらい大きな企業グループだと、横断しがい、またがりがいもまた大きい(笑)。ソリューション推進本部はとても日立らしい組織だな、という思いがあります。

 当然、グローバルマーケットには競合もいますが、ITとインフラをこれだけの規模で手掛けている企業はそうはありません。グローバル案件で競合するITベンダーから、インフラ部分の事業で声を掛けられることも多くあります。

精鋭実行部隊は「マーケット志向のエンジニア」

 とはいえ、われわれがハブになったとしても事業部間の意識を合わせるのは決して簡単なことではありません。例えば、各事業部から上がってきた見積もりをそのまま合計すると、提案するには現実的でない金額に膨らむこともあるでしょう。部門間の出っ張りやへっ込みを調整して、「ソリューション」に仕上げるのがわれわれの仕事。そして、ソリューション推進本部には社内調整もできる各ジャンルの「エンジニア」が揃っています。

 説明すると、ソリューション推進本部は事業部ではなく、コーポレートに属する部門です。しかしコーポレートの組織で唯一、上で述べた実行部隊を有します。顧客の中に入り、事業戦略を立案し、それを具体化する。彼らは精鋭の実行部隊と言えます。

 彼らはエンジニアですが、プロダクトアウト型ではなく、マーケット志向です。日立グループの事業領域全体に対する営業マインドを持っています。そういったポテンシャルのある人材です。

 ざっくばらんな説明をすると「こいつに言われたらしょうがないな」という影響力を社内に対し持っている連中ということになります(笑)。

 既に述べましたが、事業部間横断やITとインフラの融合といっても、各事業部にはそれぞれの立場やミッションがあります。しかしわれわれが軸になり推進しなければ、変革と成長は果たせません。ここまでのわたしの話と、現場の実態の間には、正直ギャップもありますが、それを埋めるのがわたしの仕事であり、マネジメントであると理解しています。

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