男が焼身自殺した東海道新幹線でのショッキングな出来事は、どんな影響をもたらすのか。対策で考えるべき点はどこにあるのだろうか。
6月30日に東海道新幹線「のぞみ225号」で男が焼身自殺を図った。逃げ遅れた女性1人が死亡し、28人が重軽傷を負う大惨事があった。とても悲しい出来事だが、男はなぜ新幹線で自殺の場に選んだのだろうか。今回はこの事件についてセキュリティの観点から考えてみたい。
2015年2月、日本セキュリティ・マネジメント学会主催の公開討論会が行われた。「東京オリンピック2020の安心・安全」を演題に、4人の先生方を講師に招いた。筆者は企画部会長としてその運営にあたっていた経緯から、今回の事件についてマスコミから電話取材を受けた。マスコミの関心は、大よそ次のようなものである。
筆者は国土交通省の関係者でもJR側の関係者でもなく、この出来事には差し障りのない発言しかできない。そう述べると、一部のマスコミはそのまま電話を切った。ただ、情報セキュリティの視点を中心にこの出来事をとらえると、考えるべき点が幾つか浮かぶ(一部“脱線”するかもしれないがご容赦願いたい)。
これの点は出来事の翌日(7月1日)に報じられた。国土交通省は新幹線初の「列車火災事故」に認定している。これまでも新幹線の中で死亡者が出ており、殺人や自殺もあった。そのいずれもが「事件」であり、「事故」ではなかったと記録されている。一部マスコミによれば、国土交通省は「構造物が燃えた」という判断から「火災事故」として認定したようだ。
「事件」と「事故」の定義は難しい。ネットで検索してみると、「事件は故意で行う犯罪」「事故は過失」といった解説があり、しかし法的にその違いが明確になっていないとの弁護士の指摘もみられ、混沌としている。今回の出来事について国土交通省の内規で「構造物が燃えたら『事故』、燃えなければ『事件』と定義する」と決まっていたら仕方がない。もし内規などがなく、検討の結果であったなら懸念が残る判断だと思われる。
その理由は国益と絡んでくるからだ。なぜなら、中国が高速鉄道を“自国の技術”だと宣伝して他国に新幹線の建設を大々的に売り込んでいる。最大のライバルが「日本」である。日本の新幹線は、開業以来半世紀に渡って「無事故」という実績を誇ってきた。その状況において、今回の判断は正しいのかは疑問だろう。嘘はいけないが、これが「事故」だという明確な根拠があるのだろうか。
中国は、2011年に発生した温州市での鉄道衝突脱線事故で事故車両を地中に埋め、しかも高速鉄道列車の「事故」としては計上していない。産経ニュースよれば、中国における高速鉄道の定義は「時速250キロメートル以上で走行する鉄道」で、この事故は「特別快速列車」によるものだったと主張している。だから、他国に売り込む「高速鉄道」は「事故ゼロ」と宣伝している。
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