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» 2015年09月18日 07時00分 UPDATE

あなたの隣の「人工知能」:“顔が見える接客”、100万人でも 人工知能が店舗を変える

「“顔が見える接客”が店を繁盛させる」というが、それは接客上手な店員がいてこそ。この属人化しがちな接客を、ITで支援しようという機運が高まっている。そのカギとなるのは顔認識技術と人工知能だ。

[中西崇文,ITmedia]

この連載は

 ビジネスからゲーム、メディア、医療、行政の分野まで、あらゆるところに進出し始めている人工知能。この技術は私たちの暮らしや働き方をどのように変え、どんなビジネスチャンスを生み出すのか。国内外の事例からひもといていこう。


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 あなたがもし、店の店員だったら、来店者のどこを見て接客するだろう? まずは顔を見て“なじみ客かどうか”を見極め、一見さんなら顔や姿から年齢、性別を判断してその人に合いそうな商品を勧めるだろう。お得意さんなら、これまで買ったものを思い出しながら、今、必要と思われる商品を勧めるのではないだろうか。

 しかし、これが数万人、数百万人が相手だったら――。それほど多くの顧客の顔を覚えておくのは難しく、ましてやそれぞれの好みや買ったものを思い出すのは至難の業だ。それぞれの顧客に合ったおもてなしをしようとすれば、顧客リストを引っ張り出して購買履歴を確認するなど、それなりの時間や手間がかかるだろう。

 こうした“人の力では限界がある作業”を、人工知能に任せようという動きが活発化している。中でも、人に代わって“顔から人を特定する”顔認識と人工知能の組み合わせは、接客の現場を変える技術として期待されている。

顔認識は“リアル店舗のおもてなし”をどう変えるのか

 顔認識技術は、デジタル画像データから“顔と思われる部分”を抜き出し、事前にアーカイブされた顔画像のデータ群とマッチングすることで、人や顔を特定する一連の技術を指す。この技術の実用化に欠かせないのが人工知能だ。

 人にはさまざまな表情があり、人それぞれの顔の特徴点と画像を機械的にマッチングするだけでは、人物を特定する精度に限界がある。これを人間と同じように、“異なる表情をしていても、同一人物と認識できるようにする”のが人工知能の役割だ。

 昨今では、メーカー各社がさまざまなサービスを提供しており、例えばNECの顔認識技術「NeoFace」は、事前に登録した顔の画像と店頭に設置したカメラなどから続々と送られてくるデジタル画像をリアルタイムにマッチングし、“カメラに写った人が誰なのか”を判別できる。

 ABEJAのサービスも面白い。同社は店舗の入口に設置したカメラを通じて得られるデジタル画像データから顔を判別し、顔の特徴から年齢や性別などを推定する「ABEJA Demographic」を提供している。このサービスを使えば、入店した客の属性に応じて、臨機応変に接客対応やBGMなどを変えていくようなおもてなしができるだろう。

Photo ABEJAのサービス。来店者の年齢や性別を推定して可視化する

 顧客動向の分析に基づく満足度向上の施策は、これまでECサイトなどのWeb上のサービスで行われるのが主流だった。例えばECサイトで買い物をしたときに、おすすめとして他の製品が表示するサービスは今や、特別なことではない。

 このような“個を満足させるおもてなし”を実現するためには、個人の購買履歴と属性別の購買動向を把握する必要があり、ECサイトでは製品の購入時に属性情報を得られることから、実店舗よりも先に導入が進んでいる。同じような顧客体験を実店舗で実現するためには、来店者を煩わせることなく属性情報を把握する術が必要であり、それを可能にするのが顔認識技術というわけだ。

 顔認識技術をうまく使えば、実店舗でも来店者を“大勢の中の一人“から、“特別な一人”へと引き上げることができ、それが来店者一人一人を満足させる顧客対応につながる。将来は、バーチャルとリアルの区別なく、それぞれの顧客に最適な接客対応ができるようになるだろう。

“おもてなし重視“の時代にITが貢献

 こうした“個人に最適化したサービス”が重視される背景にあるのは、大量生産・大量消費時代が終わりを告げたことと、消費者のライフスタイルの多様化だ。消費の価値が“より満足できる商品を選び、心地よく使う”方向へとシフトする中で、接客の形も変わりつつある。

 個を重視する時代の接客は、店舗のスタッフが来店者との間にいかに深い信頼関係を築けるかが重要になる。例えばある店に、AさんとBさんという得意客がいたとしよう。これまではAさんとBさんに対する接客が同じでもよかったかもしれないが、これからはAさん、Bさんそれぞれの好みを反映した接客が求められる。顔認識技術は、こうした“顔が見える接客”をバックアップする頼もしい存在だ。

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 消費トレンドの変化はマーケティングにも変化をもたらしている。マーケティングのトレンドが、不特定多数を対象とするマスマーケティングから、消費者一人一人の好みや属性に合わせて個別にマーケティングを行うOne to Oneマーケティングへとシフトしているのもその証といえるだろう。

 面白いのは、このトレンドが「顔見知りの店主とお客さま」という、昔ながらの個人商店のマーケティングに戻りつつあるということだ。昔と違って“顔を覚えきれないほど多くの顧客”を抱えていても、“顔見知りのように接客”できるのが、今風というわけだ。

安心・安全な社会の実現もサポート

 顔認識技術は、安心で安全な街作りにも役立っている。例えば防犯カメラに映った人の顔を瞬時に解析し、指名手配犯やテロリストなどの要注意人物を見つけるというのもその1つだ。

 監視カメラ先進国といわれる英国には、数百万台の監視カメラが設置され、観光客は1日約300回くらい監視カメラに写るといわれている。ニューアム・ロンドン特別区の監視カメラには、既に顔認識技術が組み込まれているという。

 この顔認識の事例でも、人工知能が大きな役割を果たしている。数百万台もの監視カメラの映像を人の目だけで休みなく追い続け、要注意人物と正確に照合するのは、どれほど訓練を積んだ人でも難しい。

 人工知能を使った顔認識機能なら、あらかじめ特徴を入力しておくことで、24時間365日、要注意人物を監視カメラで追い続けることができる。既に数々の凶悪事件の解決に一役買っていることから、さらなる導入も期待されている。

著者プロフィル:中西崇文

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授/主任研究員。1978年三重県生まれ。筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。独立行政法人 情報通信研究機構を経て現職。専門はデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析。著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)

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