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» 2016年02月10日 07時00分 UPDATE

日本型セキュリティの現実と理想:第16回 標的型攻撃が生んだセキュリティビジネスの“光と影” (1/4)

セキュリティ業界が活況だ。APT攻撃とも呼ばれる2011年の事件をきっかけに、新たな光が射したが、その分だけ影も色濃く出てしまった。標的型攻撃からセキュリティビジネスの本質について述べる。

[武田一城,ITmedia]

セキュリティの主流になった“標的型”攻撃対策

 ここ数年、セキュリティ市場が言う対策とは、「標的型攻撃対策そのもの」と言っても過言ではない状況だった(それが正しいかは置くとして)。標的型攻撃とその他の攻撃との違いは何か。“標的型”攻撃とは、不特定多数を狙うのではなく、攻撃者が必ず手に入れたいと思っている貴重な機密情報を持つ相手を標的にして、その標的だけをしつこく狙う。その1点だけだ。

 “標的型”以外の攻撃は、不特定多数を対象とした“無差別”攻撃といえる。ただし、現在の攻撃の目的はそのほとんどが金銭であり、完全な無差別攻撃ではない。つまり、“お金になりそうな情報なら手当たり次第”の攻撃だ。「お金を狙う」という意味では“標的型”攻撃と言えなくもないが、事実上は“無差別”攻撃である。

 さらに“標的型”という言葉は、それ以前に言われた「○○」攻撃(例えばSQLインジェクションやDDoS)などの攻撃の手法を示すものでもない。それなのに、この“標的型”攻撃という言葉には何でも包含してしまう性質があり、それが最大の特徴だ

 実はそういう意味で「標的型攻撃」という言葉は、それまでのいたずらや悪ふざけの延長線として“たまたまサイバー攻撃になっていた”という時代から、現在は「金銭目的の経済活動がサイバー攻撃」という本質を社会に気づかせてくれた。これが「標的型攻撃」の最大の価値と言える。

拡大解釈が進んだ標的型攻撃対策

 しかし、上記の標的型攻撃の解釈について違和感を持つ方も多いと思う。本来の“標的型攻撃”の定義とは、情報処理推進機構(IPA)が2011年に「標的型攻撃/新しいタイプの攻撃の実態と対策」で示している関連PDF)。ここにあるように、「事前調査」「初期潜入段階」「攻撃基盤構築段階」「システム調査段階」「攻撃最終目的の遂行段階」などの非常に高度な技術に裏打ちされたしつこい攻撃手法を指すはずだった。

ipanwatck01.jpg 図1:標的型攻撃の流れ(情報処理推進機構の資料より引用)

 しかしそれに反して、“攻撃”という言葉を本質以上に強調してしまうセキュリティベンダー、さらに、それに乗ってしまったマスコミ報道などもあり、何らかの事件が発生すると、そのほとんどを「標的型攻撃による情報漏えい」と言うようになった。筆者が最も驚いたのが、「Androidの脆弱性を突いた標的型攻撃」という報道のタイトルだ。こうなると、もはやアンダーグラウンドの経済活動と直結すらしていない。実際は“無差別型”攻撃なのに、ニュースとして扱いたいがために単なる言葉遊びで“標的型”攻撃と呼ぶようになってしまった。

 このような経緯とここ数年の標的型攻撃対策ブームにより、今では本来の意味と異なる古くからある手法や無差別に近い状況までも含めて、ほとんどのサイバー攻撃を標的型攻撃と呼ぶようになっている。

 IPAが示すように、本来の標的型攻撃は「APT」(Advanced Persistent Threat)と呼ばれる、一般企業では対策が難しい高度な手法による攻撃を指していた。その本質が歪められたのは、マスコミがニュースとして報道したかったことと、それによってマーケットを拡大したかったセキュリティベンダーの思惑が一致したためだと、筆者は理解している。

 もちろん、セキュリティベンダーに悪意があって的外れな対策を提案しているわけではないだろうが、標的型攻撃対策のブームに乗るために、結果的にそう取られても仕方がないレベルの標的型攻撃対策ソリューションが、特に2012〜2013年頃に見られた。このことは同じ業界の人間として悲しい現実だ。

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