世界を変える「Mixed Reality」の可能性

現場に支持されるMRアプリの作り方 JALに聞く開発秘話(2/3 ページ)

» 2016年08月19日 08時00分 公開
[國谷武史ITmedia]

開発現場の往復でアジャイル開発

 プロジェクトは経営層の承認を得て本格化していく。2015年12月にはMicrosoftの開発チームが来日し、ホログラフィックのベースとなるコックピットのシミュレータやエンジンの撮影が行われた。JALはこうした機器を保有してはいるがメーカーではないため、設計データなど持ち合わせていないことから、実物を撮影する必要があった。撮影は2日程度だったが、そのデータは膨大なものだったという。

 撮影データとともに、機器の操作方法や整備手順のシナリオ、詳細な説明内容などコンテンツに組み合わせるデータもMicrosoftに提供し、2016年1月からMicrosoftで開発がスタートする。プロトタイプが完成したのは3月末だ。

 この間は毎週の電話会議に加え、2週間ごとにJALのプロジェクトチームのメンバーがMicrosoftの開発の現場に出張して、進捗や制作中のコンテンツの確認、修正などの作業を共同で進めていったという。JAL側のメンバーは速水氏とアシスタントマネジャーの澤雄介氏、パイロット、整備士の7人を中心に、のべ10数人が参加している。通常業務をこなしながら開発していかなければならなかった。

 「今回はプロトタイプの作成ということもあり、メンバーにIT部門はいませんが、彼らとも情報を共有しながら、アジャイルで開発しました。制作するものはコンテンツについては、見え方など感覚的な部分も重要ですから、実際に開発現場でコミュニケーションをする必要があります。実際の訓練シナリオや機器の操作手順などに合っているのかを確認したり、より良い見せ方などお互いのアイデアを出し合ったりと、最後まで徹底的に議論しました」(澤氏)

 プロトタイプの開発とはいえ、JALがこのプロジェクトで目指したのは航空機の安全運航という事業の根幹にかかわるだけに、クオリティにはこだわったようだ。

 「画像以外にも、例えば、コックピット内部の音は両耳から聞こえても機長の声は片方から聞こえるようにと、かなり作り込みました。ユーザーインタフェースやユーザー体験ついてはMicrosoftの方が長けていますので、彼らからもすばらしいアイデアをいただけました」(速水氏)

JALが開発したプロトタイプはMicrosoftが米国で開催したパートナー向けカンファレンスの基調講演でも紹介された(Microsoftブログより)

 完成したプロトタイプは4月の報道発表の後、羽田空港や成田空港の運航部門や整備部門の現役社員も数多く体験した。MRのような新技術の活用を進めるには、ファンを増やすことが大切になるからだ。

 澤氏によれば、実際に体験したパイロットや整備士からは好意的な感想や意見が多数寄せられている。「『エンジンだけでなく他の部品でも実現してほしい』『研修だけでなく現場のラインでも使えないか』といったいろいろなアイデアが寄せられ、ベテランからも『自分が訓練生の時にこういうものがあればよかった」といった評価がありました」(澤氏)

 プロトタイプは、4月末に千葉・幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議」で一般にも披露され、人気を博した。社員の多くがボランティアでイベントをサポートしたが、閉場後の際などにもプロトタイプを体験してもらった。エンジンの撮影時に立ち会った整備士もこの時に初めてプロトタイプを体験したといい、「パーツに触れるとその部分がフォーカスされて構造説明のスケマチックが表示されるのですが、『この構成はいい。あの撮影がこう仕上がったのか』と言われ、現場の求めるものが実現できたことをうれしく感じました」(速水氏)

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