労働者のスキル革命と、それを支える企業や国のサポートが必要――アクセンチュアが提案する働き方改革

アクセンチュアが日本の働き方改革を提案する。グローバルでの労働者意識調査から見えてきたものとは。

» 2017年05月26日 09時00分 公開
[田中宏昌ITmedia]

 5月25日、アクセンチュアが「デジタル時代の雇用・働き方の未来:スキル革命」と題した発表会を開催した。同社が2016年にグローバルで実施した調査から、日本人の働き方の傾向を浮き彫りにしつつ、国内企業と労働者が抱える課題を指摘。それらを解決するにはどのような取り組みが必要なのかを、事例を交えながら解説した。

日本の労働者と企業が抱える課題

photo アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター 高砂哲男氏

 アクセンチュアが、2016年11月から12月にかけて先進10カ国の経営者から労働者までの幅広い“働く人”に対して実施した「雇用・働き方の未来」の意識調査によると、「日本はテクノロジーの進展が仕事に与える変化を脅威と感じる割合が32%と他国より高く、テクノロジーの変化に対してネガティブな反応を示す傾向にある。また、スキルアップに前向きながらも、具体的な行動に移せていない割合が37%と最も高く、さらに習得すべきスキルを把握している人が35%と逆に最も低いという現状が見えてきた」と、アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジング・ディレクター 高砂哲男氏は話す。

photo 地域首脳会合(G20)加盟国10カ国の労働者1万527人(日本人は992人)に行った意識調査のまとめ

 高砂氏は、「日本企業を取り巻く労働環境の前提が変化しつつある。労働者の職業人生は長くなる一方で、企業の寿命(事業の寿命)は短くギャップが拡大し続けており、労働者の高齢化だけでなく、仕事に対する目的や価値観の変化も著しい。そのような中で、企業側は生産性と収益の両方を高めるという難しいかじ取りを迫られている」と指摘。

 「構造的に職業人生を1つの企業で全うするのが難しくなっている中で、労働者はキャリアチェンジが必然となり、当然スキルも変換していかなければならないが、現状との隔たりが大きい。労働量というインプットが減少していく中で、労働者1人あたりの付加価値を高めることが必要であり、それがスキル革命につながる」と語る。

photo 労働者の付加価値を最大化することで、総合的に生産性を高める必要がある

 アクセンチュアのいうスキル革命の実現に向けては、「日本の労働者と企業が抱える課題が2つある。1つは労働者がスキルの生かし方が分からず、自分のスキルが社内に閉じたものだと思う人が多いことだ。日本では人に仕事が付き、海外ではポジションが明確でそこに人が入っていく違いがある。もう1つは労働者の価値観が多様化しているにもかかわらず、十分に社内の制度が整っていないことや、長期雇用を前提とした人材育成のため、労働者の柔軟なキャリアプランの実現を妨げているのではないか」と問題を提起した。

photo スキル革命の実現に向けての課題は、労働者自身の悩みであり企業の制度や仕組み不足にあると指摘

日本企業が取り組むべき課題とは

photo アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジャー 大崎邦彦氏

 これらの課題を解決してスキル革命を果たすべく、日本企業は何に取り組むべきなのだろうか。アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 マネジャー 大崎邦彦氏は、いくつかの事例に触れながら、3つの改革テーマを挙げた。

 「労働者は会社固有のスキルに注力しがちで、本質的な知識やスキル習得にまで労力を割くことができない現状がある。そこでスキルを体系化・可視化して汎用(はんよう)的なものを押さえれば大丈夫というようにすることが大切だ。また、誰でもできるものは機械に代替して労働者の学習を必要最低限にしつつ、モバイルアプリなどテクノロジーを活用することで効率的なスキル習得と生産性向上を達成するのもポイントだ」とし、一気通貫の事例として同社の取り組みを紹介。約1万7000件のポジションの業務を自動化して再定義し、社員のスキルを体系的に再構築することで、業務転換をスムーズに行ったという。

photo アクセンチュアでの事例

 「もう1つは、会社の都合ではなく労働者本人の目標にフォーカスし、多様なキャリアパスとニーズに合わせた働き方、それらに即した評価制度を整えること。労働者の能力を最大限発揮できる働き方を整備するのが急務だ」とし、今後増加するであろう、期間を限定したプロジェクト型の働き方、時間や場所にしばられないスタイルを目指すべきだと説く。

photo アクセンチュアでは、グローバル規模での転職サイトを社内に整備している

 そして最後は、適材・適所・適時を実現する、新しい採用のあり方について説明した。「スキルの体系的再構築(リスキル)と働き方の整備を進めていくと、最終的には社内/社外の境界が薄くなっていき、雇用環境も変わっていかざるを得ない。テクノロジーを活用することで、採用に取られる時間を減らしたり、精度を上げたりすることができる。プロジェクトに必要な人材を、社内だけでなく多方面から調達するといった人材獲得のパイプライン強化だ」(大崎氏)

photo 海外政府機関の事例として、採用候補者のレジュメに出てくるキーワードを解析/スコア化することで、面接官独自の解釈をデータ面でサポート

 高砂氏はまとめとして「労働者はテクノロジーを前向きに捉えて、積極的にスキルを身につけたり再構築したりする必要がある。企業はスキル再構築の支援と環境整備だけでなく、個人の付加価値をビジネスモデルやサービスにつなげていかなければならない。企業が人を選ぶのではなく、人が企業を選ぶようになるのを目指すべき」と話し、「企業や産業を超えたキャリアシフトを促進したり、労働者がリスキルしたりするための制度や仕組みを整備するよう国に働きかけていきたい。アクセンチュアは、自ら課題に取り組むことで成果を出しており、人材パフォーマンスの最大化に取り組んでいる」と胸を張った。

photo アクセンチュアが提唱する対象別の取り組み

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