政府が本気、クラウドファーストで変わる英国のデジタル医療ビッグデータ利活用と問題解決のいま(46)(1/4 ページ)

医療におけるクラウド活用が進んでいる英国だが、その裏には国を挙げた「クラウドファースト戦略」があるのはご存じだろうか。データ保護からセキュリティまで、政府がしっかりと方針を立てているのだ。

» 2017年07月03日 14時00分 公開
[笹原英司ITmedia]

 日本では昨今、少子高齢化を背景に、医療ビッグデータ活用への注目が集まっており、海外では既にデータ活用が進んでいる事例もある。今回は、クラウドベースの医療デジタル化で先行する英国の事例を紹介しよう。

医療ビッグデータ活用の前提となる「データ保護」

 英国の公的医療制度を担う国民保健サービス(NHS:National Health Service)で、ビッグデータ活用の司令塔役を担う組織「NHSデジタル」がある。NHSデジタルは「2012年保健・高齢者ケア法」に基づき、英国における保健、社会医療データの収集、転送、保存、分析、普及を目的に設置した「保健・社会医療情報センター(HSCIC)」が前身だ。

 HSCICは、2015年7月に公表した「ケア向上のための情報技術:保健・社会医療情報センター戦略2015〜2020年」で、以下の戦略を掲げている。

  • 全ての市民のデータが保護されていることを保証する
  • 皆に利益のある共有アーキテクチャや標準規格を構築する
  • 国および地域のニーズを満たすサービスを実行する
  • 技術、データ、情報から最善のものを得るように保健医療組織を支援する
  • 保健医療情報をよりうまく活用する
photo 全英情報委員会(NIB)フレームワークのロードマップ

 このうちデータ保護については、保健省傘下の全英情報委員会(NIB:National Information Board)が2014年11月に公表した「個別化された保健医療2020:行動のためのフレームワーク」がベースになっている。

 このフレームワークは、市民自身の選択に基づく個人データの共有モデルを採用している。その中でNIBは、「2017年までに個人10万人分のゲノムシーケンス解析を実施し、2018年までに、医師が総合診療、救急医療およびその他の医療状況の推移において、紙の記録を使用することなく業務を遂行すること」と「2020年までに、全ての医療記録がデジタル化、リアルタイム化され、相互運用可能になること」を目標としている。

 HSCICは、このフレームワークを踏まえた上で「対面診察以外での個人データの共有」や「アプリケーションや医療機器データの共有」を市民が選択できるようにすること、データが医療目的外で利用されたときに市民が把握できるようにする、といったデータ保護の目標を掲げた。その後、2016年7月にHSCICは組織名を「NHSデジタル」に変更したが、市民データ保護を起点とする発想は変わらない。

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