今度は“量子コンピュータの民主化” Microsoftの狙いはMicrosoft Focus(1/3 ページ)

Microsoftは、量子コンピュータを、AI、MR(複合現実)と並ぶ最重要テクノロジーとして位置付け、汎用化を目指した取り組みを加速している。“量子コンピュータの民主化”にかけるMicrosoftの思惑は?

» 2017年10月28日 10時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

 Microsoftが、量子コンピュータの世界にブレークスルーを起こそうとしている。

 米Microsoftのサティア・ナデラCEOは、2017年9月25日から29日(現地時間)にフロリダ州オーランドで開催したITリーダーとITプロフェッショナルを対象にしたプライベートイベント「Microsoft Ignite 2017」で、量子コンピュータに言及。その内容が注目を集めている。

チップから開発環境までそろえた汎用化への道筋

 Microsoftの量子コンピューティングに関する発表内容は、大きく4つのポイントがある。

 1つ目は、量子コンピュータのチップを開発したこと。

 量子コンピュータには、量子ゲート方式のほかに、D-Waveが採用している量子アニーリング方式などがあるが、Microsoftでは、汎用的な利用が可能なゲート方式を採用した。ゲート方式は、ノイズに弱い量子ビットを使用することになるが、Microsoftでは安定した素材を開発することに成功。それによって、量子コンピュータの実現に大きな一歩を踏み出したという。

 それが、世界初となる「トポロジカル量子ビット」であり、Microsoftは、これによって一気に量子コンピュータの世界を身近なものに近づけることができたとし、汎用量子コンピュータの可能性を示唆する。

 「トポロジカル量子ビットは、安定性が高い量子ビットであり、Microsoftは、それがスケーラブルで汎用的な量子コンピュータシステムの基盤になるとともに、量子物理学の領域における重要なブレークスルーになると考えている」としている。

 Microsoft Igniteの基調講演では、この試作チップの1つがナデラCEOに手渡され、会場からは歓声が上がった。

 2つ目は、量子コンピュータを稼働させるための冷蔵装置を開発したことだ。冷却装置メーカーと共同で開発したもので、量子ビットを絶対零度(マイナス273.15度)からほんのわずか高温となる30mK(ミリケルビン)という温度で安定的に維持。さらに、外部の室温で動作するコンピュータともやりとりできるようにし、量子コンピュータを稼働させる。冷蔵装置内は、地球上で最も低温な場所であり、宇宙空間よりも低温だという。

Photo 日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者(CTO)の榊原彰氏

 日本マイクロソフト 最高技術責任者(CTO)の榊原彰氏は、「量子コンピュータは、超伝導で素子を作るが、冷やすことで電流の動きが止まり、量子をコントロールしやすくなる。安定して素子が停止している時間を長くすることが重要であり、それを実現することができた」とする。

 ただし、「トポロジカル量子ビットは、通常の量子ビットよりも安定していると考えられているが、それでも動作は極めて不安定であることに違いはない。絶対零度に近い環境を維持することに加え、磁場の影響を受けずに、外部からのノイズが入らない環境を実現するには、蓄積したノウハウが必要。そのために優れた冷却装置は不可欠になる」(榊原CTO)と、優れた冷却装置の存在は、量子コンピュータの実用化とは切っても切れない関係にあることを強調した。

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