画像認識や音声認識、APIで“いいとこ取り”できる時代に――ハンズラボ・長谷川社長特集「Connect 2018」

基幹システムのフルクラウド化という“大仕事”が終わったハンズラボ。次なる目標は、画像や音声認識を取り入れることだという。APIを使って気軽にシステムが組める今、長谷川社長は「システムを“選ぶ”必要性がなくなった」と話す。

» 2018年01月03日 10時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]
photo ハンズラボCEO 長谷川秀樹氏

――2017年は、ハンズラボにとってどんな1年でしたか?

長谷川社長: 東急ハンズの仕事という意味では、やはり基幹系システムのクラウド移行が大きかったですね。移行期間中は運用も大変ですし、データも二重で流れるので不具合も起きやすかったりするんですが、そういうトラブルもなく終えられたので、ホッとしています。厳密にはまだ2台ほど残っているのですが、それもそのうちクラウドへと移行できるでしょう。

 もう1つはIC型のクレジットカードに対応したところでしょうか。実は今、2020年に向けて、不正利用防止のために、クレジットカードの決済端末を全てIC対応にするように言われています(参照リンク)。僕らはPOSシステムを自社で作っているんですが、2020年になる前に早めに手を打てて良かったなと思っています。

――2018年は、どのような1年になると思いますか?

長谷川社長: 画像認識や音声認識を使った新しいサービスが自然なものになるんじゃないでしょうか。ハンズラボでも、以前から画像と音声をビジネスやシステムに取り入れる方法を研究していました。12月に行われたAWSの「re:Invent」でも、ビジネス向けの音声認識サービスである「Alexa for Business」の詳細が発表されましたし、研究フェーズが終わって、リリースする段階に差し掛かってきているなと思ってますね。

 「音声認識はまだ普及しないのでは?」と疑う人は少なくないと思いますが、まさしくiPhoneが出た時の状況に似ていると思っています。小型化が進んでいた携帯電話に比べて、割れやすいし、電池も持たない。「アップル好きのギークが使うもんだ」とみんなが静観していた時代があったと思うんですが、2年くらいたったら状況は大きく変わってしまいました。そんなふうに、音声認識もいつの間にか当たり前のものになっているんじゃないかなと。

 こうしたテクノロジーの進化を背景に、小売業全体にブレイクスルーが出てきていると感じています。小売業におけるIT活用って、今まではPOSだったり、在庫管理システムだったりと、結局は帳票や伝票の世界における話でした。それが最近は「ZOZOSUIT」やJR大宮駅で行われた無人店舗の実証実験など、今までは“無理かな”と思っていたようなことが次々と実現している。Amazonのような巨大企業じゃなくても、いろいろな面白い取り組みができる時代なのだと感じましたね。

――今後、ハンズラボとして、組んでいきたい企業はありますか?

長谷川社長: 「企業が生き残るためには、成功体験を捨てて次の世界へ行くべきだ」と言う人は多いのですが、それでも、やはり人は成功体験に縛られると思うんですよね。そういう意味で、僕らのようなオフラインを中心とした小売業は、オンラインになると弱いと思っています。

 ECの事業者の方たちと勉強会をすると、考え方の差がはっきりと見えてくる。彼らはサイトに何人流入したか、そのうちカートに商品を入れたのは何人か、そのうち決済ボタンを押したのは何人か――というようなファネルの話が中心になります。そしてABテストを通じてCTRやCVRを高める方法を探る方法を採る。

 一方で、小売業の人って商品だったり、コンテンツの話が中心になるんですよ。「売り上げが悪い原因は、良い商品の在庫が切れているから」といった発想になる。マーケティングファネルとかを考える文化が弱いんですよ。

 オンライン企業とオフライン企業が組んで、得意領域をやるのがいいと思っています。オフライン企業からすると、オンラインは専門の企業に任せてしまったほうがいい。その代わりに、僕らはリアル店舗の売り場を提供する。「餅は餅屋」的なくっつき方をするのが、すごくいいんじゃないかと思います。カテゴリごとに組む相手を変えたっていいわけですし。

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――IT系の企業と組むとしたらどうでしょう。

長谷川社長: 事業会社が、特にベンチャーなどのIT企業と組むのはいいと思います。ただ、新しい技術を会得するためというのであれば、ケースバイケースです。実際、僕もそこは悩んでいるところです。魅力的な企業は多いけれど、結局全て「スーパー7(※)」が取っちゃうんじゃないかと思うこともあって。自社でできないような先端技術については特にそうですね。彼らは膨大なデータも持っていますし、精度を高めるという面では圧倒的に有利だと思います。彼らが動いたときに、いかに素早くついていくかというのは意識していますね。

※スーパー7……米Amazon.com、米Facebook、米Google、米Microsoft、中国Alibaba Group(阿里巴巴)、中国Baidu(百度)、中国Tencent Holdings(騰訊控股)の7社

 これまでのシステムの考え方だと、例えばAmazonとGoogleとMicrosoftが、同じような機械学習機能をリリースしたとしたら、フィジビリティスタディを行って、どれが最も精度がいいのかを検証して1つに決めるというのが一般的だったと思うんですが、APIエコノミーになりつつある今なら、3つ同時に試してしまえばいい。

 例えば顔認証も1個のエンジンじゃなくて、3つともにつないで、3つのうち2つでOKが出たら、最終的にOKと判定するといったこともできるでしょう。特定の技術や会社、APIに絞らなくても、いろいろなAPIを同時にたたけばいいわけです。APIの利用料は3倍になるかもしれませんが、微々たる金額である可能性が高い。どれもこれも吟味して、いいとこ取りをすればいい。「選択する」というプロセスがなくなりつつあるんじゃないかと。

 そのためにも、どこの企業もテクノロジー部門はR&Dを持った方がいいと思いますね。新しい技術が出た時に、それがビジネスに使えるかをすぐに判断して、準備しておけるような。SaaSとかで試しておけば、いざ実用化するときに慌てなくてすむ。その部分をSIerとかベンダーに任せてしまうと、とんでもない見積もりが出てきたりするわけで(笑)。

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――2018年、ハンズラボはITで何とつながりますか?

長谷川社長: もちろん、今まで通り「お客さま」というのはあるんですが、最近は従業員同士もつながってますね。例えば、東急ハンズの店舗スタッフ同士って、対面か電話でコミュニケーションを取るのが普通だったんですが、今はチャットツールをみんなで(勝手に)使い出してます。

 彼らは主にGoogleハングアウトを使っていて、今さらかもしれませんが、僕自身もその効果を感じているところです。単純にスタッフ同士の連携が良くなると、店はとても良くなる。店舗同士のつながりも出てきます。例えば、渋谷店と新宿店ってライバルなんですけど、お互いがうまくいっているところは“偵察”することが多い。

 でも今は、従業員にiPhoneを配っているので、皆で自慢するような形でハングアウトに挙げるんですよ。写真を使ってコミュニケーションすることで、売り場の組み換えとか改善みたいなこともすぐにできる。今までは山手線で見に行く必要があったけど、それが移動しなくても、いい売り場というものが分かるようになった。地味ながらも、ITの力なんだと感じますね。

特集:「Connect 2018」

 「IoT」に代表されるように、今やITであらゆる物事が「つながる」ようになりました。全ての物事がつながる今、企業はITに対するスタンスやビジネスに対する考え方を大きく変える必要があります。他の企業とどう協力するかという戦略も、成長に必要不可欠だといえるでしょう。

 本特集では、ベンダーやユーザー企業、ITやOTなど、さまざまな垣根を超え、全ての物事がつながる「未来」の姿を企業のトップに聞いていきます。

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