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データの前に「人」をつなげよ――ホンダのDXを進める“データコンシェルジュ”の流儀【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/3 ページ)

» 2018年06月11日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

「何と呼べばいいのかよく分からない仕事」の先に

 英語が堪能だったこともあり、もともとは米国のホンダで働いていたという中川さんが、日本のホンダに移ったのは30年ほど前。当時は総務のような形で、海外駐在員のサポートを行っていたが、PL法(製造物責任法)の施行とともに、海外向けにさまざまな技術文書を英訳する業務を担当。その後、品質保証を担当する部署に異動し、品質保証に関するデータを米国に送ったり、米国から手配したりと、エンジニアが欲しがるデータを用意(入手)し続けていたそうだ。

 さまざまなニーズに応えるうちに、データを欲しがる人には共通点があることが分かってきた。彼らが故障について知りたいのは、車種などのランキングデータや、増減のトレンド、そして季節要因との相関といったところだった。そこで中川さんは、ポイントとなる情報だけをまとめて閲覧できるシステムを構築。スタートから10年以上たった今でも、多くの人に使われているという。

 こうした実績もあり、中川さんのもとにはさまざまな人から品質管理にまつわるデータ手配の依頼が集まった。いつしか社内で「中川さんは情報を扱う人」というイメージが共有されていたという。ニーズはあるものの、当の本人は「どのように呼んだらいいのか分からないような仕事」だと思いながら過ごしてきた。

データをつなげる前に、人と人をつなげる必要が

 とはいえ、中川さん自身はホンダの中では珍しい存在だったという。データ分析の“プロフェッショナル”ではなかったものの、「データを入手するために、誰に話を聞けばいいのか」ということは誰よりも知っていた。総務から技術文書の英訳、品質保証とさまざまな部門で仕事をしてきたことで、部署を超えた人脈ができていたのだ。

photo 組織全体でデータ活用を進めようと思えば、どうしても部署のカベを超えたデータの提供が必要になる

 ホンダの中にもデータを活用するエンジニアは多数いるものの、研究所全体でデータ活用を進めるとなると、ハンドル、エンジン、タイヤ、サスペンションといった部品ごとに部署が分かれており、部門間での交流や知見の共有がないことが“壁”となっていた。データをつなぐ前に、まず人と人をつなげる必要があったのだ。その役割を担う人として、中川さんはまさに適任だった。

 こうしてビッグデータプロジェクトに参加した中川さんは現在、ネットワーキングとともに社内向けに勉強会を開くなど社員教育を行っている。なんと呼んでいいか分からなかった仕事も、最近では「データコンシェルジュ」と名付ければいいのではないかと考えているそうだ。

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