CSIRT小説「側線」 第13話:包囲網(前編)CSIRT小説「側線」(1/3 ページ)

CISRT、まさかの仲間割れ?――攻撃者を突き止める作戦を考えだしたメンバーの前に、突如社内の“法の番人”ワイスが立ちはだかる! 一部のメンバーが不満をくすぶらせる一方、メイが気付いた、ワイスの意外な意図とは……?

» 2018年11月30日 07時00分 公開
[笹木野ミドリITmedia]
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この物語は

一般社会で重要性が認識されつつある一方で、その具体的な役割があまり知られていない組織内インシデント対応チーム「CSIRT(Computer Security Incident Response Team)」。その活動実態を、小説の形で紹介します。コンセプトは、「セキュリティ防衛はスーパーマンがいないとできない」という誤解を解き、「日本人が得意とする、チームワークで解決する」というもの。読み進めていくうちに、セキュリティの知識も身に付きます


前回までは

メンバーきっての“温泉オタク”折衷(せっちゅう)の提案で、CSIRTメンバーはいっときインシデント対応を離れ、温泉に繰り出す。現場の緊張感から一転、湯けむりに包まれて温泉タイムを満喫するメンバーたちは、互いの仕事への本音を打ち明け合うことになり、意外な形でチームの結束を強めたのだった。これまでのお話はこちらから


@バー・チャタムハウス

Photo 見極竜雄:キュレーター。元軍人。国家政府関係やテロ組織にも詳しく、脅威情報も収集して読み解ける。先代CSIRT全体統括に鍛え上げられ、リサーチャーを信頼している。寝ない。エージェント仲間からはドラゴンと呼ばれる

 山賀(やまが)と見極竜雄(みきわめ たつお)が話している。

 「見極さんがここに来るなんて珍しいわねー。どうしたのかしら。あ、そうそう、まんじゅう食べる?」

 「いや、まんじゅうはいい。どうしたんだ、唐突に?」

 山賀がまるで近所のおばさんのように手招きをして答える。

 「あらぁ、このまえの温泉のイベントでに行った皆から、お土産をたくさん頂いちゃってね。まんじゅう尽くしよ。これじゃ全く、“まんじゅうプリンセス”だわ」

 ――見極は、「いや、そこは“まんじゅうプリンス”ではないのか?」とも思ったが、面倒くさくなったので、話を進めた。

photo 鯉河平蔵:警視庁からの出向。捜査の赤鬼と呼ばれる。キュレーターの見極とはよく議論になり、けんかもするがお互いに信頼している。年甲斐もなく車の色は赤。広島出身

 「いやぁ、この前鯉河(こいかわ)が出張に行ってな、外部からの攻撃に対する有力な手掛かりをつかんできた。それを基に、識目(しきめ)や深淵(しんえん)、志路(しじ)と話して、攻撃者を突き止める作戦も考えた。そうして実行に移そうと思ったら、思わぬ邪魔が入ったんだ。ワイスだ」

 山賀が問う。

 「ワイスって、あの帰国子女の立法・ワイス・遵子(りっぽう・わいす・じゅんこ)? 彼女、普段はいないけど、CSIRTのメンバーよね、確か。リーガルアドバイザーだったっけ? 最近は、セキュリティ対策をするにも各国の法律を守らないといけないから、欠かせない役割ね」

 見極がため息をついて言う。

 「そう、そのワイスだ。ITのことはあまりよく分からないようだが、法律の解釈については専門家だ。わが社でも、個人情報保護法やGDPRの対策の時には世話になっている恩があるけどな」

 山賀が先を促す。

 「それで、どうしたの?」

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