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» 2001年01月26日 12時00分 UPDATE

IT Business フロントライン(21):「マイライン」に隠された謎〜過熱する登録誘致合戦、そこにある本当の狙いとは何か〜

[磯和春美(毎日新聞社),@IT]

<今回の内容>

■ マイラインはなぜ生まれたのか

■ 登録しないとどうなる?

■ 利用者にとっての影響は?


 2000年10月の合併以来、一風変わったテレビCMを流し続けているKDDI。その中でもとりわけ、今年に入ってから目に付くようになったのが、覆面をかぶった3人組が「マイラインってさぁ……」と語りあうCMだ。

 KDDIが起用しているCMタレントは永瀬正敏、浅野忠信、豊川悦司と明らかに若者を意識したものだが、このCMでは覆面をかぶっている“異様さ”も手伝ってか、CM批評雑誌などによれば、若者に限らず注目度が高いのだという。

マイラインはなぜ生まれたのか

 利用者があらかじめ、自分が使いたい電話会社を選んで登録しておくという、新しいサービス「マイライン」は、2001年1月10日から各社が登録受付を開始した。実際にサービス・インするのは2001年5月からだ。1998年に郵政省(現総務省)の「優先接続に関する研究会」で、優先接続制度の導入が打ち出されたことに端を発するサービスで、欧米ではすでに導入済みのところが多い。

 例えば、米国では1984年、オーストラリアでは1993年、カナダでは1994年、ドイツでは1998年に導入済みだ。この制度導入の狙いは、識別番号をダイヤルする手間を省くことであり、電話会社間の公平な競争を確保することにある。いずれの国も1990年代前半(米国では1978年)に長距離通信への競争導入と時期を同じくして、優先接続制度を導入している。

 日本はといえば、KDDIや日本テレコムなど、1985年の長距離通信競争導入以降に参入した「新電電」と呼ばれる電話会社のサービスを利用するためには識別番号が必要だった。

 NTTに関していえば、1999年に地域網2社と長距離のNTTコミュニケーションズに分割された以降も、識別番号が必要なかった。ダイヤル方法を公平化することは、新電電各社のみならず、1998年以降進んでいる通信自由化に合わせて参入してきた外資系通信会社からも強く求められていた。長距離通信の競争導入を図って15年経ってようやく競争条件を整えた、とする見方もできる。

 利用者側から見ると、優先接続制度導入で、公正な競争が促進されれば、市場が活性化して電話料金の引き下げやサービスの充実が進むことが期待できる。また、多くの電話会社が参入してくるようになれば、自分の利用形態に合わせた電話会社の選択の幅が広がるだろう。

登録しないとどうなる?

 ところで冒頭のCMの話に戻ると、マイラインの知名度はまだまだ高くない。なによりCMでもいっているように「マイラインって投票(登録手続き)しないと、ある会社に投票したことになっちゃうんだぜ」というしくみについても、あまり知られていないのが実情だ。

 どういうことかというと、マイラインの登録は現在、書類によってしか受け付けていない。利用者にとっては面倒だ。だから、5月のサービス開始までに、登録しない人も出てくるだろう。

 また、2001年11月以降は新規登録、登録変更の際には手数料としてが800円が徴収される。これも「もったいないからまあいいや」と登録忘れの人たちがそのまま放置する可能性を高くしそうだ。だが、マイラインを登録しなくても電話が使えなくなるわけではなく、「登録しない電話はすべてNTTに登録したものとみなす」(総務省)しくみになっているのだ。

 このあたり、どうも総務省とNTTに対して、新電電や新規参入通信事業者の間には、わだかまりがあるようだ。いろいろ話を聞いてみると、匿名を条件にある新電電の幹部がこう話してくれた。

 「登録しない電話はすべてNTTのお客さん、というのは結局いままでと変わらない。競争条件を同一にするなら、登録しない電話はすべて、5月以降はNTTを使うときにも、NTTの識別番号をダイヤルしなければ使えないようにならなければ意味がないでしょう」

 一方、総務省は「通信の提供の義務があるのはNTT地域網。登録申し込みがなかった場合は、市内通話と県内の市外通話はNTT地域網、県外通話はNTTコミュニケーションズにする方が利用者の混乱も少ない。各社はそれぞれ、利用者獲得の企業努力をしてほしい」とにべもない。

 また、ある官僚は「新電電の言い分も、まあ、分かるには分かるが、これまでだって国際電話はみんな識別番号使っていたでしょう? 電話料金に敏感なお客さんはちゃんとマイラインに登録するだろうし、登録しないとNTT以外が使えなくなるということではないし、利用者から見ると、あまり変わらないのでは?」とこちらはのんきだ。

 米国でもマイラインの登録変更には手数料が必要なように、2001年11月以降は日本でも登録変更の際には800円の手数料がかかる。しかも、利用者が一度登録した通信事業者を変更させるにはよほど強力なキャンペーンを打たなければならない。

 そのため、各社とも長期利用割引などを提供して顧客囲い込みのための割引メニューを工夫したりしている。最初の囲い込みが勝負なのだ。だから某新電電幹部のように「未登録者をそのまま取り込めるのはNTTに有利だ」とのぼやきもでてくる。

利用者にとっての影響は?

 利用者側から見て、大きく変わる点もある。これもまたあまり知られていないのだが、国際電話のかけ方が変わってしまうのだ。2001年5月のマイライン導入以降は、マイライン登録者は「010(国際プレフィックス)」を海外の電話番号の先頭に付けるようになる。

 未登録の人は、これまでどおり通信事業者の識別番号の後に、「010」をダイヤルしなければならなくなる。「2年間はこれまでどおりの電話のかけ方でも大丈夫」と総務省は話すが、混乱は必至だ。

 テレビCMなどで、「サザエさん」のキャラクターを使ってマイラインの登録PRを行っている優先接続関係事業者間協議会(マイライン事業者協議会)には現在、13社が加盟。この13社のサービス内容を比較して自分に最もふさわしい組み合わせのマイライン登録を行うには、数時間では足りない研究時間が必要になりそうだ。

 というのも、事態を複雑にしているのが登録内容で、登録は「市内通話」「県内市外通話」「県外通話」「国際通話」の4区分行わなければならない。全部同じ会社を登録してもいいし、違う会社を選んでもいい。指定しなければ、その区分の通話はNTTグループのいずれかのサービスを受けることになる。

 ドイツテレコム・ジャパンやフュージョン・コミュニケーションズなどのように、国際通話だけだったり、県内市外通話と県外通話だけを提供したりする事業者の料金メニューも入れると、その比較はさらに複雑極まりないものになる。

 電話を安く便利に利用するためには、利用者側にも努力を強いるというのが正しい競争社会のあり方なのかもしれない。しかし、この情報をすべて理解し、なおかつきちんと利用するのは通信事業を専門に取材している私にとっても、そう簡単なことではない。

 そこで1つ……、比較が面倒な人向けに、どの電話会社のどういった組み合わせが最もお得なのかアドバイスしてくれるサービスをどこかの通信事業者か、チャンスに機敏なベンチャー企業が始めてくれないものだろうか。

Profile

磯和 春美(いそわ はるみ)

1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。

メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp


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